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243 金融、経済を巡る魑魅魍魎

エリートと言われても

 出版関係の仕事について、当初は業界紙、その後もいわゆる専門誌をいくつか経験した。多岐にわたっているが、そもそも私は経済を学んでいたこともあったし、最初が物流や流通だったこともあって地味な専門誌をいくつかやらせてもらった。
 その中でも、その後のフリーランスになってからも続いた分野は金融、経済のジャンルだった。金融については、いわゆる自由化(金融ビッグバン)の時代だったこともあってかなり幅広く取材、執筆していた。とくにネット証券や投資信託、その後のETF、リートといった動きについて専門家に取材した。その関係でいくつかのムックや書籍の編集にも関わった。
 最近、米国のダウ4万ドル超、NVIDIA株の動向、金利、債券の動きなどを見ていると、どうしてもあの頃を思い出してしまう。テレビで証券会社や資産運用関連のCMが流れ、クイズ番組やワイドショーで経済や投資の話が増えていき、ニュースでは詐欺の話が流れている。
 もっとも詐欺事件については株価や景気に関係なく、いつでも起きていると言えるけれど。
 日銀や大手銀行・証券を含め金融業界の人たちにたくさん取材したが、その多くはジェントルな人たちで、なにより学歴も高く、頭がよくてしゃべりも上手い。数カ国語できる人もたくさんいた。そうしたいわば「光」もあれば、素晴らしい活躍を見せていると思われた人たちが、さまざまな法律違反、あるいは明確な悪事に手を染めて消えて行く。つまり「闇」もあった。
 全体としてはエリートが多い。ところが、エリート集団だった日本興業銀行(現在のみずほグループの一部)、日本債券信用銀行(のち、あおぞら銀行)、日本長期信用銀行(のち、SBI新生銀行)の例はもちろん、山一証券(自主廃業)の例を含め、多くの人たちが時代に揉まれ、あるいは不祥事に巻き込まれ、あるいは不祥事を起こして去っていった。
 何百人もの人たちを前に、いまの経済を語り、金融の未来を語り、さまざまな質問にクリアに答えていた人たちの中から、「嘘でしょ」と思うような犯罪に加担して消えて行った人たちもいた。
 この時代に学んだことは、どれだけ立派な肩書きでも、どれだけ優れた頭脳の持ち主でも、どれだけピカピカの経歴だとしても、「闇」に落ちて行く人たちがいるということだ。簡単に言えば「人は見かけによらない」。
 とても丁寧に業界のことをレクチャーしてくれ、いくつもの書籍企画に絡んでくれたのに、ある日、テレビで逮捕されたことが報道されてその顔や名を見るのは、ショックなものだ。

おカネが引き寄せる闇

 経済犯は、みなそれなりに頭はいいと言われている。しゃべりも上手い。カリスマ性もある。その後、ベンチャー企業のブームもあって、その関係でさまざまな起業家と会う機会もあった。その中からも逮捕されて刑に服した人たちはいた。
 そして、金融や経済関係で闇に落ちた人たちの中から、数は少ないものの刑を終えて復活した人たちもいる。
 復活した人たちよりも、亡くなってしまった人の方が多いかもしれないけれど、それを統計的に具体的に示すことは、まあ、難しいだろう。
 幾人かの復活組のうち、それが犠牲者の上に成り立っているケースもあるだろう。
 おカネは、闇を引き寄せる力を持っているのではないか。ごく普通の、いや、むしろハイレベルな人たちと言ってもいい人たちが、犯罪に手を染めてしまう。うっかりでは済まない。なにしろ私なんかより数段も頭のいい人たちなのだ。複数の通貨のリアルタイムな変動を見て、すかさずどれを買い、どれを売ればいいのか判断できるような人である。債券のわずかな金利差を見つけてそこで莫大な利益を得られる道を見つけるような人たちなのだ。ビジネス感覚を持ち、どの企業を買うか、どの事業を売るか、見極められる人たちもいる。
 業界では優れた人たちでさえも、闇に引き込まれてしまう。
 もちろん、「当人が悪いに決まってるだろ」と言われたらそれまでである。しかし、そもそも悪い人がそんなにたくさんいるとは考えにくい。頭のいい人の持つ本質的な「悪」も存在するかもしれないけれど、玉突き衝突のようにおカネを巡って強い吸引力を持つ闇に堕ちて行く可能性も否定できない。
 コンプライアンスの叫ばれるいまでも、闇の持つ吸引力は衰えていないと思う。いま、再びおカネを巡って「光」の部分への注目が増えているので、そんなことをつい思ってしまう。

風景を描いてみたい。


 
 
 


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