見出し画像

「東京百景」 著:又吉直樹

 私は久しぶりに本を開いた。この頃、ありがたいことに忙しい日々が続いていた上に、色々なことに意識が集中して読書をする時間がなかったのだ。

 春休みも後半に突入し、時間にゆとりが出来たので私は自分の本棚を覗いた。そこには買ったまま放置されていた「東京百景」(又吉直樹)があった。表紙に写る”のん”の横顔に誘われた私は本を手に取った。私は事前に物語のあらすじを見ないようにした。

 これがどんな物語でどんな人が出てくるのかを調べず、自分の想像力だけを頼りに物語を予想する方がより楽しめると思ったからだ。

 ワクワクした気持ちのまま本を開いた。しかし、読み始めてすぐに躓いた。

 そう私が物語だと思って選んだ本はエッセイだったのである。

 だが、そんなことはどうでも良くなる程、冒頭から美しい文章だと思った。綺麗な単語を並べているだけでは表せない文字数や文章の構成、使用する単語など全てが私には輝いて見えた。

 そして、又吉先生自身の人間臭さが好きになった。自分の想像圏外への恐怖心、失敗によるトラウマ、悪意のない後悔など、苦しみや悲しみ、怒りや恐怖など素直な気持ちをそのまま文字に起こす姿が美しくカッコ良かった。

 私の好きな銀杏BOYZや毛皮のマリーズの歌詞に似た泥臭さが音楽ではなく文学で感じられたのが妙に新鮮で嬉しかった。


 とにかく私の稚拙な文章では伝えきれないほど面白いエッセイだった。


 また、現実と妄想の狭間を行き来している部分に私は親近感を覚えた。もしかしたら、男というのはいつまで経ってもそういう生き物なのかもしれない。


 私は特に七十六の「池尻大橋の小さな部屋」を皆さんにおすすめしたい。この話は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」や毛皮のマリーズの「ダンデライオン」の様な二人だけの世界が展開されている。涙なしでは読むことが出来ないお話だった。いつかまた二人が再開し、幸せになって欲しいと思った。
 
 私はただそれだけを祈る。



 随分、長い文章となってしまったが、是非とも皆様に読んで欲しい一冊である。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?