医療費無料の国のお作法とは？＠デンマーク

学生ビザ（正式には居住許可　ST1）での留学では、CPRナンバーをいただき、その間は医療費が無料などデンマーク国民と同様の権利を与えられていたものがあります。医療費が無料なんて天国みたい！？　私は「国民の成熟度が問われるシステム」だと思いました。

私の4ヶ月の留学期間中に、病院や歯科医院に行く必要がなく済んだことは幸いでした。でも慣れない土地で普段と違う食事をとるからでしょうか、腹痛や体調不良になる人がいました。その方達は不幸中の幸いで、大事には至らなかったので、元気になられてからデンマークの医療制度についてインタビューさせてもらいました。ご本人の許可を得てレポートしてみます。

1日目：胃腸炎で食欲がなく、下痢と激痛が続く
　日本でも同様の症状になることがあり、その場合は1日ほど安静にし、良くならなければ受診していた。

2日目：日本であれば病院へ行き点滴を受けるタイミング

3日目：
受診を試みる（海外保険ルート）
留学保険に加入していたのでの会社に連絡して私立病院へ受診できないかを調べてもらう。しかしレスポンスが遅く、体調が悪い中でのやりとりは困難を極める。受診できそうな私立病院が見つかるも時節柄「コロナ陰性であることの証明」が必要（しかも自力で）と言われる。もともと体調が悪いので、受診のためにそこまでの負担は無理と判断し受診を諦める。
※デンマークでは近年私立病院も設立されつつありますが数は少なく、軽傷でお金になりやすい患者（骨折など）しか診察しないという批判もあるそうです。

受診を試みる（通常ルート）
水を飲んでも吐くような状態が続き全く良くならないので、学校の事務の人に頼んでスクールドクターに連絡をとってもらう。しかし医師からは「発熱がないのでそのまま安静にして過ごすように」と言われる。
周囲のデンマーク人からは「コーラーを飲んで寝ておくように」というアドバイスばかりをもらう。（なんでコーラー？　という疑問）
※デンマークでは病院へ直接行くことはできません。1人ずつがホームドクターをもつことになっていて、ホームドクターが相談を受けたり、診察したり、大きな病院へ紹介したりする役割を担っています。
※腹痛にはコーラーというのが一般的だそうです。

受診を諦めて安静にして過ごす。
約1週間後：少しマシになる
約2週間後：みんなと同じものを食べられるようになる。

辛かったこと
受診できないことで医師に会えず、不安が付きまとう。
体の辛さが続く（日本だと受診すれば1日、デンマークだと2週間かかった）
「授業を休みたくない」「早く治したい」のにそれが叶えられない

感想
無料なので仕方がないと思う一方、お金を払っても受診したいと思っても叶えられないのは辛い。

この事例を聞いていろいろと考えさせられました。

デンマークでも急な怪我であれば土日で受診している人がいましたし、発熱があるなど緊急性が認められれば受診できたようです。

普段から自身の体調に気を配り、不調があればそれを観察する力と説明する力が必要となります。是非受診したいときには医師と電話で交渉しなければなりません。んんん〜　しんどい時にそんなことできるかしら？？
それ程までに国民一人一人が医療費を使いすぎないように努力して、自国の医療制度を守っているのだと思います。

日本では好きな時に、希望すればほとんどの医療機関を受診できます。多くの人が3割負担で保険診療と薬を受けることができます。高額医療も上限を超えた分は公的に負担してもらえます。医療の質も高いです。総じて日本の社会医療制度は非常に優れていると言えます。
しかし高齢者が増加するに従い、医療費や介護に関する国の財政負担は増加します。自己負担率を上げるとか、自由に受診できる今のシステムを変更せざる得なくことを危惧します。

国民皆保険、フリーアクセスのおかげで自由に診察を受けられることはありがたいです。しかし増え続ける財政負担のスピードを遅らせるために、診療報酬はさほど上がらず、医療従事者の給与は上がら無かったり、長時間勤務が常態化しています。医療従事者の献身的な働きで今の日本の医療は支えられていますが、医療資源は無尽蔵にあると思ってしまうと、この制度は破綻するでしょう。

じゃあ、受診を控えることができるか？というと「仕事を休めない」「早く治したい」という要望が確実にあります。点滴を打ってでも働くことが美徳という雰囲気があることも否めません。

デンマークだと病気休んでも有給休暇は消費されないそうです。月固定給の人は病欠しても給料は減額されないらしいです。体調が悪いまま出勤されてても生産性が上がらないし、感染症であれば周囲へ感染させて組織全体の生産性を下げることも避けたいのかもしれません。ある意味合理的？

医療のあり方を変えるには働き方を変える必要がある？　
医療や国の財政を自分ごとと考えるか？

などを考える機会になりました。

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