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にんにく入りの他人丼を作る夜に。

姉が娘を出産した。
これでわたしは3人の叔母さんになった。

わたし自身は相変わらずまだ誰のものでもないので、
未だ脳内の綾野剛と妄想同棲ライフを送っている。
(そろそろ脱出したい)

県外に嫁ぎ、且つ初産である姉のため

母がサポート役として一ヶ月程
彼らの家に居候をし家政婦のようなことをしている。

わたしはというと、飛行機に慣れない母と一緒に搭乗し
一泊してから、近くに住む友人夫婦のところへ行って(夢のような)ひとときを過ごして、つい数日前に沖縄に帰ってきた。
(3人めの姪っ子ちゃんはそれはそれは可愛くて、偶然撮れたくしゃみ動画をもう何100回も見返している)

そんなこんなで母が不在の一ヶ月間父との二人暮らしが始まる。

幸運にも仲の良い家庭に生まれ育ったので
父との関係は良好だし、
今でも誕生日には母と父の為に接待カラオケを毎年行うくらいには仲が良いので
この1ヶ月はそれほど苦ではない。と思っている。

それに、実家に戻る前は一人暮らしだったので
食事を作ることも寧ろ好きな方だ。のだけれど。

還暦を超えた父は食に無頓着なようで無自覚な好みがある。
本音を言うとほんのちょっとだけ面倒だったりはするのである。
(とは言えわたしと逆で歯ごたえのあるものを好まないとか、大皿からよそうスタイルが嫌いで予め小鉢に分けて出されないと少し拗ねるとかその程度)

それと、父の年齢の男性の、一食の適量がわからないのでちょっと困ってしまうのだ。

そうこう言っていると、あっという間に父の返ってくる時間になって

結局慌てて、冷蔵庫の有り物で他人丼を作り始める。

入れなくても良いにんにくを無意識に入れて立ち昇る香りにワクワクしていると、パブロフの犬のように「これで元気になるといいな」と懐かしくも抗えない感情が湧いてきた。

おや。と思った。

刷り込まれた無自覚な感覚というのは、こうもあっさりとわたしをあのときに戻しちゃうんだなと、みぞおちのあたりがぐっと苦しくなって
途端にわたしの視界はあの狭いマンションに帰る。

今日も急な会食で返ってこなくなるかもしれない彼を待ちながら
食べてもらえるかわからない他人丼を作って
案の定なLINEを22時にもらってはいちいち凹んでいたあの豪徳寺のマンション。

今となってはただただ若かったなと思うのだけど
あの頃は彼の好きなにんにくの香りを嗅ぐだけでちょっと幸せな気持ちになれた。

うわーいかんいかん。あのときのわたしも彼もどこにももういないぞ。と。

自分に言い聞かせるように放った「でも、彼とあのまま結婚しなくて本当によかった」という、親友に向けた言葉を思い返した。

わざと明るい声を作って、無駄ににんにくの香りがプラスされた他人丼を父のもとに運ぶ。

悔しいかな混乱したわたしは昔の恋人と同じ量をよそってしまい

「食べられる分だけでいいからね、無理せず残してね」

と高めに放った声で苦しさに拍車をかけてしまった。

(いやいやこんな小さなことで思い出すとか疲れてるのかな。。。)

テレビの声に夢中な父は、こちらの表情には気づいているのか否か
他愛のない会話をいくつか交わして、またしばらく黙々と箸を進めているようだ。

しばらくして

「おいしかったよ〜!ごちそうさまでした!」

という声が聞こえて前を見た。

そこには米粒ひとつ残さず完食した父が席を立ち、お茶碗を流しに運んでいる姿があった。

あれ、何だこの気持ち。。。

じんわりとあったかいものがこみ上げたこの胸は、あのマンションの冷蔵庫に詰まった作り置きのタッパーたちの記憶も、えいや、と押し流してしまっていた。

(父さん、量多かったよね、無理して完食させちゃったかな。でも、嬉しいなぁ。)

そんなことをじんわり思っていると、小さく台所から音が聞こえる。

バリッ ガサゴソ…


「なーりー、」



「ん? なあに?」


「お父さん、わさビーフ食べるけど、なーりーも食べる?」




…足りなかったんかい!



図らずもただただ元気いっぱいな父の胃袋のおかげで、おセンチな気持ちはあっさり過ぎ去っていきましたとさ。



ふとしたことで思い出してしまう、生活に刷り込まれた無自覚な感覚が
昔はすごく、憎たらしかった。

でも、こんなふうに明るく上書きをしてくれる大好きな人達のおかげで
それすらもまるっと愛おしく感じられるようになった。

生きているといろいろあるけど
やっぱりわたしは今日も毎日が愉しいです。

もう少しで、関東から沖縄に戻ってきて1年が経とうとしています。

戻ってきてから思うこと、これからの未来に考えること。
ゆっくりだけど、少しづつ、わたしなりに日々を生きて
明日に夢を見ています。

あなたの今日は、どんな日だった?

久しぶりに会いに来てくれて、嬉しかったです。

季節の変わり目、身体に気をつけてね。


それではきっと、また明日。

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