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Labの男19

 Labの男19

ヒトは厳しい環境下にも適応して生きていけると
思っていて、それは
生きているだけで自ら何かをする訳でもなく
なんとかなっている気がするからだ。
世の中には様々な世界が展開しているのに
比べられる物差しがいつも現状況。
コレしかない。頭の中の話だ。
体感という感覚と経験がどう判断を下すか?
なので回答は 不安か? そうでないか?
ちがう言い方をすると
 快 か 不快 しかない。
未開の領域なら安全かどうかは
分かるはずもなく、感想しか生まない。
それでいいはずが
いつのまにか、信憑性だとか他人の評価が
ついて回るようになってしまった。
人類があふれて他と比べることが増えたからだ。
やるしかないの
覚悟が前に歩みを進ませるのだけど
不安が成功を求めて、まだわかりもしない成功に
引っ張られて歪んでしまうのが勿体無い。
と、玄白は強く思う。
せっかくの能力も無限の可能性も
たったスプーン一杯の不安だけで
溶け込んで見えなくなってしまう。
外方面から内方面からどちらからでも
制限のない自由発想は
みるみるしぼんでゆく。
ましてや能力も人間界での判断基準
素晴らしいかどうかなんて
誰も分からないじゃないか?
たかだかヒトの判断基準なんて知れている。
といってもヒトの能力を侮ってる訳でもない。
あくまで無限の彼方
宇宙規模の可能性の話よね。
たかがスマートフォン如きでヒトの生活は一変
するぐらい柔らかくて脆く
群衆となると人間は無意識に同じを求めるが
柔軟性に満ちている。

ちょうど万次郎の実験中に
同時進行で物思いにふけっていた玄白。

 「さて次は特別講師を迎えているからね」

クリスタルマン解析班に所属する
土着民族言語学者
 牧村【マイッチ ing】眞子先生
何故に【参った】の現在進行形  ing
が付いてるのかは
講義を聞けばわかるでしょう。
言葉のエキスパートだからね。

 「マイッチ ingマコ先生お願いしま〜す」

開放された分厚い扉から登場
オンザ眉毛の前髪からは主張を感じられる。
ショートボブの黒髪で頭が小さく
目鼻立ちがハッキリしている。
若干肌も白いように思える。眼の色も少し違う。
小顔で白衣を着ているせいか長身に見える。

あまり馴染みのない言語学
一言に言語学といっても
とてつもなくカレゴライズされている。
ことば自体はツールとして
いとも簡単に使っているつもりの我々だが
とてもパワフルなのに目に見えない
得体の知れないものを扱っているのは
認知されていない。
人類の言語構造 相互関係 分布 系統 変貌
などなどを研究する。
音韻論 音声学 意味論 文法論 語彙論 
文学論 言語心理学 言語社会学 言語地理学 比較言語学 構造言語学 一般言語学
領域は広く
なんだったらこれからも展開されてゆくだろう。

彼女の得意分野はプリミティブな原語
本能的なコア言語を主体と考える。
 「生命の根源ほど信用におけるモノはない」
彼女の口癖だ。
玄白特有の話しかけられ体質から
カフェで玄白が食べていたランチを指さし
「これはおいしいのか?」と声をかけられる。
白衣は脱いでいたのだが研究者である事を
嗅ぎわけ、軽く仕事の話に
それほど深く話した覚えはないのだが
玄白の研究にひどく興味を抱き
なかば強引にエビス薬品工業のスタッフとなる。
現在クリスタルマンの解析班として働いている。
彼女の原動力はヒトへの興味。

玄白を肘でツンツンこついて、おもむろに聞く
 「あの子、なに?童貞?醸し出す感じがさ」

「んっ?万次郎のこと、ちがうよ。ごく最近
 長年付き合った彼女にフラれたから」

身を乗り出すようにマコ
万次郎に向かって歩いてゆく。
成人男性に恥ずかしげもなく一直線にまっすぐに
 「万次郎って童貞よね?」

のけぞってひっくり返る万次郎
 「いきなり、なんでそうなるんですか?
  何人か付き合ったこともありますよ」

興味津々マコ
 「だって、付き合っても
  してない可能性もあるでしょう?
  私は運命の人としか交わらないわ!
  みたいなヒト、たまにいるでしょ?」

ちょっと赤面している万次郎
 「どこの乙女だと思ってるんですかっ
  お金の関係性だとかを付き合ったと
  カウントはしてませんよっ!」

口もとに触れる仕草でマコ
 「おかしいなぁ、私のカンは当たるんだけどな。
  あれだ!
  身を滅ぼすような恋をしてないからだ!
  そうだ、振り回されたりメロメロに
  なったことがないんだな〜っ!」

万次郎の柔らかい所に刺さったみたいだ。
 「そういえば、恋しくて身を焦がすほど
  なんてのには、なったことがありませんね」

「やっぱりな〜自身のアイデンティティーが
 恋で崩壊したことがないから
 得有の『かたくなさ』があるからな〜
 それがチェリーボーイを感じた理由
 醸し出てたわけね」

「やっぱりね、まずは無条件降伏してしまう
 盲目の恋をしてないからかな。
 不安を知識で
 埋め合わせるクセがありそうだな。
 男特有の頭で物事を片付けるタイプだな
 両手放しで
 恋を味わったことがないからか〜っ」

恋に生きてそうなマコは続ける
 「オンナは感覚で生きるのが上手だから多少は
  もっと素直に生きてもいいと思うよ」

取り繕う間も与えない
図星の万次郎は感情を超えて感覚の大切さを
肌身に感じた。頼まれてもないのに
アドバイスが出てしまっている。
女性は恐ろしい生命体だと思い知る。

 「万次郎はいくつなの?」 「22歳です」

 「なぁ〜んだワタシの4つ下なんだ!
  それじゃ、万次郎の安定感はちょっと
  へンよね。もっと浮世離れするくらい
  若さに翻弄されててもおかしくないもんね」

 「それにちょっと万次郎って中性的よね。
  今の若い人に多いのは、分からないことを
  そのまま放っておけるかどうかよね。
  調べるとある程度はわかる世の中に
  なったみたいだけれど
  本当に知りたい事は自身で掘り下げて
  チューニングまでがセットなんだけど」

 「ニンゲンの賢さは昔から
  あまり変わっていない気がするんだけど
  特に今の若人たちは
  社会とヒトとのバランス感覚は
  器用だと思うんだけどなぁ。
  自身に落とし込む
  チューニングをおろそかにするから情報を
  データー扱いして知識、知恵になるまで
  身にならないんじゃないか説を唱えるわ」

手のひらをムネにあててマイッチingマコ
 「胸に、腑に落ちるまで
  違和感がなんなのか?を突き止めないとね。
  いつでも調べれば、なんとかなるからか
  短絡的になりやすくなったり
  強引なアイデアの着地になったり。
  分からないをそのまま放っておけるくらいの
  ずうずうしさも養われにくくなるよね」

 「分からない事を調べずにはいられなくなると
  いよいよ、問題だけどね」

 「その点オンナはねぇ
  生きてるだけでエライってずうずうしさが
  標準装備されてるからね。図太いのよ」

はっは〜んこのことか!
万次郎は、すでに
たじたじのマイッチingだ。

マイッチing 先生は続ける。
 「現代の若人はスマートで
  情報処理能力は間違いなく旧世代よりも
  遥かに上手なんだけど
  調べずにはいられないほどの
  軽い強迫観念→失敗したくない
  時間をムダにしたくない
  タイムパフォーマンスを気にする→
  ゆとりを感じれない日々の日常化
  薄っぺらいせっかちなヒトが増えちゃうよね」

 「でもね万次郎?で合ってる?は、ちがうのよ。
  オトコ特有の安定感があるのよ。
  モテるだろうからね。それはわかる!
  だから不思議で仕方がなくて
  童貞感とモテ感は相反するモノでしょ?」

 「オトコは特に環境に依存して生きてないから
    いいのよね〜。シンプルでまっすぐだからっ」

 「言語学 伝達の民族学的には
  人格は最初に親から外枠をもらって育つ。
  1番初めの対社会用『物差し』よね。
  行動範囲のスケールが成長につれて
  保育園〜小学校になって中学、高校と
  活動エリアが拡大していく。
  すると、成人に近づくにつれて
  どうもそれじゃ上手く立ち回れない
  もしくは親との世代の壁
  縮尺が現代社会と合っていない
  だとかが、発覚して自分個人の
  オリジナル『物差し』を作ることになる」

 「ちがう言い方をすれば
  世の中の価値は絶えず変動する。
  親にもらった価値観をまず壊す所から
  始まる自身の人生。それとは逆に
  後生大事に『親から物差し』で死んでいく人も
  いるだろうけれど稀でしょう」

 「ゆるやかなのだと反抗期ね。
  親の価値を跳ね除けて
  (仮)設定のアイデンティティーを
  searchアンドdestroy!これは重要で
  新たなコアを再構築するための儀式」

 「大抵のオトコの場合母親の存在が大きく
  授かった価値観と
  新たに出逢ったオンナの価値観が
  かち合うこととなる」

 「決して一個人の意見を万次郎に向かって
  失礼をぶちかましていた訳じゃなくて
  メロメロになるほどのオンナ体験が
  ブレインウォッシュ的、再構築材料に最適
  なんだけど、あえて言う「かたくな」感が
  童貞っぽくてそれを持ち合わせてるのに
  その年齢に似つかわしくない安定感に
  とても疑問に思ったのよ」

 「あまり嗅いだことのない香りに
  驚いて、興奮して直接聞いちゃったわよ」

万次郎が日頃引っかかっていたナニかを
さらりと話してしまう。
失礼とも思える行動のマコ先生に
しっかりした裏打ちされた理由。
そこはかとなく隙を匂わす
何故だかエッチに感じる雰囲気にナメていた。
わざわざ、いちから説明してくれたのにも
優しさを感じるギャップと驚き。

割ってはいる玄白
珍しくフォローを入れる
 「マコ先生って、いつでも真剣なのよね。
  ボクが言うのもヘンなんだけど
  ずーっと言語学の事で頭がいっぱい
  情熱のスイッチでバカになってる。
  それがマイッチingなのよね」

 「マコ先生単体でエッチなのに
  それを上回るほどの情熱があふれ出しちゃう
  マイッチingマコ先生なのよね」

「ちょっと玄白ぅ〜!
 エッチなのはちょっとだけですぅ〜!」
口もとに手をあててマイッチing先生
どうやら、玄白は尊敬してるみたいだ。

万次郎 【結局、エッチなんだな。
     全否定しないんだからさ】

明智「だははははっ 玄白がフォローしてる!
   なんだコレ!はははっ
   まともなのは小五郎だけだな」

マコ先生が感じた違和感とは別に
偶然にしては不思議に
玄白は思う。

どうもボクの話しかけられやすい体質とは
少し違うナニか。

万次郎にはヒトの胸の内をほどかせる
何かがあるようだ。
その人らしさを増幅させるような
胸の内をシゲキする波長でも
出ているんじゃないかすら思えてきた。
科学的見解では偶然はなく
重なって起こる事例には法則があり
現象には原因があると疑うのが鉄則。
いよいよ、ただの好青年では収まり切れない
必然の何かがあるはずだと思えてきた。

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