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Labの男46

 Labの男46

拘束されているガタイのいい男
パイプイスに静かに座って
瞳を閉じ口を真一文字に閉ざしている。
どこかに隔離され監禁されているようだ。

 「もういい加減、吐いちまったらどうなんだ?
  さすがにこのまま拷問が続けば
  いくらタフなオマエでも
  死んじまったらおしまいだぞ」

青い瞳の白人は親身になって話している風

 「これだけ耐えたんだから最高指導者?
  国家元首だったか?大統領か?は、
  許してくれると思うぜ鉄の意志さんよぉ〜」

眼を見開き彼の青い眼をまっすぐに睨む。
どおやら現大統領を適当に口走ってるのが
気に食わなかったみたいだ。
両手を前で手錠をかけられ
つい先程まで手錠ごと引っ掛けられて
ムチ打ちされてたところだ。
緩急を操りイスに座らされた所で
吐かそうという根端だった。
その青い瞳の男の目前に
力強くゆっくりと顔スレスレに中指を立てる。
プルプルと震えだす白人は
下手に出てりゃこの野郎ってな具合に
ペンチ片手にその中指を思いっきり骨ごと
ギリッギリギリギリ
それでも中指はそのまま力強く立てたまま
青い瞳に向けて睨み続ける。
こめかみには太い血管が浮き出てきているが
それでも中指と睨むのはやめない。
流石の痛みに歯軋りをしながら目をつぶる。

幻肢痛 ファントムペインで意識が戻る。
眼を開くと広がるは水中越しの景色。
円筒の水槽に入ってるのは何故なんだと考える間
もなく話しかけられているみたいだ。
白衣を着た男たちがこちらを覗き込み
何やら声をかけてきている。

 「同志!イワノフ君っ聞こえるか?
  祖国のためにまた、役に立ってくれないか!」

記憶の奥底に響きそして染み入る言葉
『同志』と『祖国』
魔法にかかったかのように目が覚める。
少し思い出した。私には身体がもう無いのだ。

 「前回に引き続き彼との交渉に
  尽力願いたいのだ イワノフ君っ!
  コンディションはどうだろうか?」

横にあるモニターを見る研究者。
モニターにはイワノフが思い描くだけで
文字がズラズラと打ち出されている。

 【状況はファインだ。同志諸君!
  ミッションはクリスタル君との交渉なのか?】

以前まではクリスタルマンとは音声のみで
やり取りが出来たのだが
現在では思考周波数をキャッチする事に成功、
生体コンピュータとして
改造手術を施されそうになっていた
イワノフだったが上層部の判断で
クリスタルマン専属の
音声入力ソフト役に早変わり
とんでもない形で生かされている。
本人はもちろんその経緯は知らされてない。
イワノフ本人には何の説明もすることなく
今のところ刺激がない限り疑問に抱くことなく
多少の記憶の混濁はあるが
ヒトである意識は保てている。
彼自身が致命的な重傷を負い
その結果
頭だけとなっても祖国に尽くしていると
勝手に思い込んでいるみたいだ。
ちなみに彼の思いはすべてモーターに筒抜けだ。


メカの壁をバックに立ち尽くすイワノフを
指差して玄白
 「似たような興味深い症例が
  アメリカであったのよ。
  だからマコちゃん!我々Laboに有益な
  いい実験サンプルになるよ」

マコちゃんが飛び降りたロボを掴んで
ダンボールを片付ける要領で
端に持ち運ぶ。
自身が操縦するロボを横に止め
降りながら話し始める玄白

 Mike, Mike, where's your head?
 Even without it, you're not dead!
 【マイク、マイク、お前の頭はどこだい?
  それがなくても、お前は死なない!】

首なしマイクMike the Headless Chicken
1945年4月 - 1947年3月
首をはねられた後も18か月間生存していたことで知られるアメリカの雄鶏である。

コロラド州Fruitaフルイタ
農家ロイド・オルセンの農場
ロイドと妻のクララが屠殺を行っていた最中
1羽の鶏が首をはねられた。
通常ならそのまま絶命するはずであったが、
その鶏は首の無いままふらふらと歩き回り
それまでと変わらない羽づくろいや
餌をついばむようなしぐさをし始めた。
首を失っても動き続ける奇妙な鶏を見たオルセンは
一晩様子を見ることにしたが
翌日になってもこの鶏は生存し続け
ロイドは精肉市場に絞めた鶏を売りに行く
ついでに、
首のない鶏も連れて行き
 「首がなくても生きている鶏がいるかどうか」
とみんなに博打をふっかけた。
賭けに勝ったロイドは
ビールをおごってもらったそうだ。
科学者は驚きの色を隠せなかった中
調査が行なわれた。
マイクの頚動脈が凝固した血液でふさがれ
失血が抑えられたのではないかと推測された。
また脳幹と片方の耳の大半が残っていたで、
マイクが首を失っても歩くことができるのだ
という推論に達した。
マイクは自ら食べ物を食べられなかったため、
喉から管を通し、
ロイドがスポイトで水と餌をえ、
注射器で喉から粘液を除去していたが、
1947年3月 アリゾナ州フェニックス
見せ物小屋の興行中
マイクは餌を喉につまらせ、ロイドが興行先に
給餌用のスポイトを忘れたため
餌をかき出すこともできず
手の施しようもなく窒息して死亡した。
マイクの死後、ギネス記録に
首がないまま最も長生きした鶏として記録さた。
死んだ後は標本に足元には頭が添えられている。
現在もそのヘッドレスチキンは拝めるそうだ。
マイクの頭はネコが食べちゃったので
別のニワトリの頭だそうだ。

 「この症例があるからヒトを人間たらしめるのは
  脳ではないように思うんだよね」

指パッチンandメガネを上げて
微笑みが隠せない玄白は「ホッホホホホッ」
声を出して笑ってしまっている。
ウキウキがはみ出ちゃってる。

ウッディーに目配せをしてマコ
 「アニメなら間違いなくラスボス前に
  滅ぼされる系マッドサイエンティストよ。
  これが本人に自覚ないのよ」

ウッディーは木の人差し指を立てて振って
そうだよねぇのジェスチャー。「ダスなぁ〜」


エビス薬品7階最重要エリアLaboに再び

円柱の水槽に漂う愛国者のさらし首。
水中越しの景色から一転
暗闇から瞬き1つで吸い込まれるように
みるみる広がってゆく目の前には
ゴールドの砂が静かに佇む
金色の空間が果てしなく広がっている。
静寂が心地よい広大なまばゆさ、圧巻の景色
金属的なゴールドではなく
温かさを感じる様な金色空間。
ところ所にエメラルドグリーンのクリスタルが
宙に浮かんでいる。カタチが不揃いのクリスタル
ゆらゆらと動く度にキラキラと音を奏でるように
緑の光を放っている。
よく見ると広大に広がるパノラマ
ゴールデン空間にクリスタルは
星の数ほど浮遊しており
浮世離れしてた煌めきが
あまりにも神々しすぎてCGとしか思えない。
この空間を訪れるのは3回目となる。
現在では頭から下は消息不明のイワノフ
なぜかこのクリスタルフィールド内では
筋肉質な身体が存在する。目前に
宙に浮いた着物姿の長髪の男が両手を広げて
ジーザスよろしくの雰囲気でもって
新たなクリスタルを精製している。
イワノフに気がついて目線をそちらに向ける。

 「何だっ また君か。
  せいが出るねぇ、頭だけのキミぃ。
  何で君がボクのフィールドにストレスなく
  入ってこれるか分かるかい?」

 「それは愛だよ。キミの残っている頭の大半が
  愛で構成されてるからだよ。
  うん?あまりピンと来てないみたいだね。
  うんと、イワノフの無償の愛国心が
  他人の空間に入れるようにしてるんだよ」

 「今までのムダなモノが取れて国という枠組みを
  超えて人類愛に近い状態だよ。身体がないから
  なおさら邪念がなくなってるんだろうね」

 「今や、肉体はくだらない欲望を満たす為の
  道具に成り下がってるからね」

人差し指をこめかみにあて何かを探っている
クリスタルマンこと長髪着物の男。

 「そうか!身体には鉄の意志が残ってるね。
  キミ独特のバイタリティーって言うのかな?
  基本的に結界ってのは
  そのヒトの拒絶のカタチ。
  入って来ていいかどうかは相手が
  開いてるか?閉じてるか?だけなんだけど
  この拒絶された空間に介入できるのが
  受け入れだとか許しが侵蝕、中和して
  中に入れる様になるんだけど
  人間界での呼び名だったら
  愛ってのが1番近い言葉かな」

わかった様な分からない様な特異空間に
ボーっとしているイワノフ。

髪の毛を耳にかけて話しかける着物の男
 「イワノフは、また何かボクに頼みごとに
  きたんじゃないの?」

何度来ても慣れないモノだ。
祖国とは比べ物にならないくらいの
居心地の良さ、ヴォッカをかっ喰らわないと
やってられない程の極寒
永久土が眠る大地が懐かしくなってくる。
自身の顔を2、3発ぶっ叩くイワノフ 
 「そうだった、組織からことづてがあった。
  ジャコウの香る黒ずくめの男を
  探して欲しいんだった!」

  「あぁ世を儚む詩人の彼ね。
   近頃は何やら企みを実行に移してる
   みたいだけど、何が知りたいの?」

肌に痛みを感じるような極寒育ちのイワノフは
居心地が良すぎて調子が狂う
この何ともゆるい空間が苦手のようだ。

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