バブル期の就職状況は現在と比べ物にならないほど良い〜②最近の売り手市場がバブルに及ばない理由〜


はじめに 前回記事のおさらい 

前回の記事では、バブル期(89年~93年入社)の就職状況の良さを具体的な数字を用いて紹介した。過去30数年間で圧倒的に人数が多いことが分かった。
使用した図を再掲する。

図1:有名企業51社一覧 筆者作成
図2:有名企業51社の採用人数と大卒就職率の推移(88年〜23年入社) 筆者作成

1 就職率だけ高い最近(15年~23年入社)の就職状況

ご覧の通り、バブル期の採用人数(有名企業51社)は、最近の売り手市場(15年~23年卒、以下アベノミクス期と略す。)より圧倒的に高く、数字にすると1.7倍~2倍多い。

ただ気になる点があり、有名企業51社含む大企業305社の採用人数はバブル期の方が圧倒的に多い。
にも関わらず、大卒の就職率はバブル期もアベノミクス期も殆ど変わらない。前者は76.2%~81.3%。後者は72.6%~78.0%。つまり、両者の就職率はほぼ同じであり高いのだが、就職先の質がまるで異なるのである。後者は大して質が良くない。

ここ10年、就職率の良さだけに注目されて、「売り手市場」と言われるが
就職率だけに焦点を当てるのはナンセンス。
企業の業績の良し悪しを判断するのと同じ。売上高だけ見て判断しないですよね。営業利益率なども考慮して判断しますよね。

私は、過去36年間の大卒就職市場における「利益率」を明らかにするために、就職四季報を閲覧して、大企業の採用人数を調査し続けた。

大企業のみ取り上げて失礼極まりないが、あえて企業や業界に対してランク付けをさせていただく。
私は職業に貴賎なしと考えている。ただし、世間の価値観は良い大学・良い会社を良しとしている傾向が未だに残っている。貴賤なしはあくまでも建前。

前置きが長くなった。
次章より、アベノミクス期の就職状況がバブル期に及ばない理由を述べる。
理由は3点。
① 大卒が就職する業界・職種の拡大
② 中小企業・ベンチャー企業への就職者増加
③ 医療系学部卒業者の増加

2 理由①:大卒が就職する業界・職種の拡大

そもそも、バブル期とアベノミクス期では大学進学率が異なる。前者は25%程。後者は50%台前半。

結論言うと、進学率の拡大(25%⇒50%へ)に伴って、大卒が就職する業界・職種も拡大している。進学率が高まると、大卒の平均レベルは下がるし、就職先の平均も下がる。

学校基本調査(文科省発行)には業界別・職種別の就職者数が記載されており、この統計資料を参考にした。88年~23年卒業まで各年の割合を調査して、下記の図(図3・図4)にまとめた。

図3:業界別就職者の割合の推移(88年~23年入社) 筆者作成

※業界の区分について、03年卒より改定された。
03年からは、運輸通信業⇒情報通信業と運輸業。
卸売・小売業、飲食店⇒卸売・小売業と飲食店・宿泊業。
サービス業⇒医療・福祉。教育・学習支援業。学術研究、専門・技術サービス業。複合サービス事業。サービス業(他に分類されないもの)と細分化されている。
比較の便宜上、図3では88年卒から使用されている区分で各業界の割合を示している。

アベノミクス期では、製造業へ進む割合が10%台前半である。(バブル期は27%ほど)
金融・保険業、公務に就く割合も減っている。

代わりに、運輸通信業、サービス業、卸売・小売業、飲食店へ進む割合がバブル期より高まっている。通信業はITの発展のため当然として、サービス業、小売業、飲食店というバブル期以前であれば、大卒の就職者数が少ない業界に就職するのは珍しいことではない。

ここ10年程で、採用が増えている業界は、電子部品メーカー(京セラ、東京エレクトロン等)、コンサル、IT、鉄道現業職、タクシー、福祉、介護。
前者3つは頭脳労働メインだけど、後者4つは何とも言えません。

職種について、アベノミクス期では事務従事者が徐々に減り、23年時点で過去最低の割合である。
バブル崩壊以降、増えたのが販売従事者(94年卒以降ほぼ横ばい)とサービス職業従事者である。10年以降は、専門的・技術的職業従事者も増えている。

図4:職種別就職者の割合の推移(88年~23年入社) 筆者作成

3 理由②:中小企業・ベンチャー企業への就職者増加

残念なことに、大卒者の企業規模別の就職割合を示したデータが無い。
私の推測にはなるが、アベノミクス期では中小企業・ベンチャー企業に目を向ける学生が増えている。
というのも中小企業と学生のマッチングが簡単になったから。
マイナビ・リクナビ等の就活サイトのおかげで。
両サイトとも、約25,000社の情報が掲載されているからね。

バブル期や氷河期前期(90年代中盤)は、ネットを用いて就活していなかった。
企業を探す手段は、就職四季報に掲載されている会社を探すor
大学に来る求人票くらい。
※なお、就職四季報で、中小企業版が発売されたのは14年卒以降。

加えて、中小企業側も大卒新卒の受け容れに積極的になってきた。
自社サイトで会社の魅力をアピールして、大企業には無い特徴をウリに出来るようになった。
そもそも、中小企業は氷河期前期までは大卒の受け容れ実績が殆ど無かったため、採用を行っていなかった。氷河期後期(98年~05年)は、景気が悪すぎて、大卒に限らず採用自体を渋っていた企業も多い。(不景気の影響は中小企業ほど強く受ける。)
アベノミクス期以降は、人手不足と社員の若返り化のために、中小も大卒を採用するのが珍しくなくなった。

4 理由③:医療系学部卒業者の増加

理由①で述べた通り、10年以降は専門的・技術的職業従事者として就職する大卒が増えている。
理由として、大学を卒業して、看護師や理学療法士などの専門職になる人が増えているから。

看護師などの医療職は、専門性を問われる職業であるため、専門的職業従事者に該当する。

看護師や理学療法士は、専門学校でも取得できる資格であるが、ここ10年では大学の看護学部・リハビリテーション学部で、取得する人が多い。
看護師は大学を卒業して、就職する人が今や40%を超えている。
※10年前までは3年制専門学校がメジャーだった。

保健系学部の卒業の割合は、93卒で2.7%、09卒で6.1%、17卒で9.8%。

大学業界も少子化時代での生き残りをかけて、看護に代表されるような手に職の専攻を充実させている。

余談だが、アベノミクス期は女子学生の就職率がバブル期超え。最高は20卒の83.2%。保健系学部(とりわけ看護学部)卒の女子が就職率の高さに寄与していると考えられます。

5 まとめ

アベノミクス期は就職率こそバブル期と同じ程だが、雇用の中身を見ると、バブルのように大卒男子の35%〜42%が上場企業に就職するという状況ではない。

雇用の質を考えると、バブル期とは程遠く、
大企業に入社するのは難しい。特に製造業、金融業のような参入障壁が高くイメージが良い業界は。

マスコミがたまに、「売り手市場、ハブル並み!」みたいな報道するけど、実態は異なると認識いただければと思います。

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