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Behind the Scenes of Honda F1 -ピット裏から見る景色- Vol.02

F1の世界で30年以上のキャリアがあるPR担当のエリック。彼の目に現代のF1はどう映っているのか、語ってくれました。

こんにちは。Honda F1で広報を担当している、エリック・シルバーマンです。私はイギリス人で昨年からチームに加入し、もう一人の広報担当スズキと一緒に仕事をしています。今年はScuderia Toro Rossoに加えてAston Martin Red Bull Racingとも一緒に仕事をすることになったので、すごく忙しい日々を過ごしています。

―87年以来、欠席したのは6大会のみ

実は、以前にもHonda F1のスタッフとして働いていたことがあるんです。それは、Honda F1第二期の1988~1992年、マクラーレンとともに多くのタイトルを獲得した、あの時代です。私はプレスオフィサーとして、主にリリースの発行やメディア対応をしていました。当時、私はチームで初めての外国人スタッフ。同僚たちはまだ慣れていなかったのでしょう、まるで説明書なしで新車のオーディオ機器をいじるような、おっかなびっくりという感じの対応でした(笑)。でも、色々と素晴らしい経験ができたので、昨年またHonda F1に戻ることになったときは、とてもうれしかったです。長い間、F1の世界でいろいろな仕事をしてきましたが、主にはジャーナリストとして活動してきました。1987年以来、たった6つのグランプリしか欠席していないんですよ。

レースを見るとき、F1ファンの皆さんは、トップ争いを中心に全体の全体を眺めながら流れを把握すると思います。でも、チームやPUマニュファクチャラーのメンバー立場になると、自分たちのマシンにしか目がいかず、ときには誰が優勝したのか知らないことすらあるんですよ。今回もまさにそんな展開で、フェラーリのルクレール選手が不運にも失速を喫してからは、私たちはマックスが前に出られるかどうかだけに注目していました。残念ながらセーフティカーによって連続表彰台記録は断たれてしまったわけですが・・・。ただ、リタイアが続出したレースで、HondaのPUを使用する4台が完走し、うち3台はポイントを獲得できました(実は、Hondaエンジン搭載車が3台ポイントを獲得するのは、1991年の米国GP以来なんです!)

-プレッシャーとの戦い

私が働き始めた時代と比べて、F1は大きく変化しました。でも、Honda F1の若手からベテランまで風通しの良い雰囲気、モータースポーツへの情熱や勝ちへのこだわり、そしてそれらがHonda全体の技術向上に貢献していくという姿勢は、当時と同じだと感じています。2019年は、昨年4勝を挙げたAston Martin Red Bull Racingと組むわけですから、当然Hondaにも勝利へのプレッシャーが掛かっています。80年代のセナとプロストからのプレッシャーのすごさを思い出しますね。メルボルンでマックス・フェルスタッペン選手が表彰台を獲得したことで、我々が感じる期待とプレッシャーは少し大きくなりましたね。

F1の世界にはさまざまなプレッシャーがありますが、格段に大きくなったのがメディアからのものです。インターネットの発達によって、世の中に出てくる情報は分単位で更新され、それが24時間365日、世界中の人に見られるようになったことがその原因です。これによって、Hondaのメディアコミュニケーションも複雑になっています。日本メディアと海外メディアで聞いてくる内容が異なるのですが、それがあらゆる言語にすぐに翻訳され、世界中のファンはもちろん、パドックのメディアも互いの質問に対する回答を知るところになる。互いが気にしなかったトピックや情報源に興味を持ち、場合によってはその話が大きくなっていくという具合です。もちろん、いい情報が広まるのは喜ばしいことですが、その逆もしかりで、各チームの広報担当にはかつては考えなくてよかったような配慮も必要になってきています。

例えば、今回のバーレーンでも、テクニカルディレクターの田辺さん(英語でも‘Tanabe-san’と呼ばれています笑)に、オランダメディアから「マックス・フェルスタッペンはチャンピオンになれるのか?」という質問がありました。まだ1レースしか終わっていないんだから、誰も答えは分からないですよね(笑)。一方で、マネージング・ディレクターの山本さんには「Hondaの社長や役員が開幕戦に来ていたが、社内での雰囲気は」などという質問が来るんです。このようなニュースを見るのは、誰で、どんなメディア上で、いつになるのか、といったことを考慮に入れながら、常にあらゆる質問に対して準備をしておく必要があります。

ただ、コントロールが難しくなった代わりに、メディア経由のみでなく自分たちでも発信できるようになったりと、情報を広めやすい時代になったことは間違いありません。より多くのファンの皆さんにどうやったら楽しんでもらえるか、パートナーのスズキと一緒にいつも色々な話をしています。

― バーレーンGPの魅力

さて、今回は15回目のバーレーンGPでした。良くも悪くも、さまざまな面で独特のグランプリです。2004年に開催が始まりましたが、当時は初めての中東開催。しかも、当時のFIAの新基準で建設されたサーキットは、レイアウトや設備も新しいものでした。それ以降、さまざまなサーキットが新設されましたが、ここサクヒールのパドックは他よりもすごく雰囲気があって、夜にヤシの木がライトアップされるとそれが一層際立ちます。水曜の夜にはパドックでウエルカムパーティーが開かれ、全チームの関係者が出席するんです。バーレーンの人たちのもてなしもすごくて、主催者はメディアへ1日3回も食事を提供してくれます(笑) 首都のマナマでも日本人は少ないので和食もわずかで、逆にHondaメンバーの食事はちょっと苦労する面がありますね。

今回の全車完走という結果には勇気づけられましたし、残り19戦もあるので、落ち込んだり、怒ったりという結果にならなくてよかったです。勝っても負けても、F1という世界では強烈なプレッシャーがかかります。バーレーンでのインシーズンテストもありますし、それを終えたら、上海で記念すべき1000GP目を迎えます。

こうして、F1での日々はまた続いていくんです。

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