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USUさんの新曲『NIGHTMARE』を聞いてあらためて考えた僕らが語る理由



「お互いの経験が誰かの勇気になったり、救いになれば良いですね」

 少し前に、ラッパーのUSUさんからそうメッセージをもらった。自らの辛い経験を語ることは、精神的にキツイ、そして怖い。貧困や精神疾患、犯罪の被害者ならば、特にだ。負の刻印を押され、誹謗中傷に遭うかもしれない。語りたくない過去もある。

 そうしたことを語ることで「売れるためのネタだ」と言わんばかりに陰口を叩く人までいる。世のなかは、僕やあなたが思うより、広いと言うのに……。確かに、なかにはそういった「設定」でブランディングをしている人もいるのかもしれない。でも、虚構の経験は必ずやいつか破綻を来たし、人の心には響かない。僕はそう信じている。取り繕わずに自身の経験をありのままに語ることこそが人の心に響き、誰かの助けになるのではないか。共感できない人にとっては、それは自傷的、もしくはマゾヒスティックな自慰行為に写るかもしれないが……。

 すでにnoteでも公開しているように、僕は高校卒業後、浪人中にパニック障害を発症した。友人たちと比べ、どんどん人生のレールから外れていった。でも仲の良い友人以外には、病気のことを言いたくなかった。仕事をはじめてもひたすら隠し続けた。病気の治療中であることを告げることで、仕事を失うのではないかと怖かった。だが、仕事で出会い仲良くなった友人から「本多さんの人生は面白いよ。その経験を伝えるべきだよ」とアドバイスされた。怖かったが、最初はFacebookに投稿し、次に書き始めたばかりの私小説をnoteで公開したら、胸のつかえが取れたようにスッキリした。


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写真:USUさん

 高校2年のとき、友人からRHYMESTERの『俺に言わせりゃ』というアルバムをダビングしたテープを渡された。すぐにハマった。翌年、「マスアピール」(イベント名については記憶が怪しいが)というイベントでRHYMESTERやキングギドラなどを生で初めて見て一層好きになった。44歳の現在まで趣味の一環としてヒップホップを聞き続けている。これまでの人生のなかで一番辛かった時期をRHYMESTERの曲が支えてくれた。でも、特段詳しいわけでもなければ、現場に足を運んだこともそれほど多くはない。

 自分の経験をnoteに公開して以来、あらためて時に私小説のように自らの生い立ちや辛い経験をリリックにして、ストーリーテリングするラッパーの方々の凄みを痛感している。それまでとは完全に聞き方が変わった。ラッパーこそ現代の語り部ではないのかとさえ思うようになった(普段、音楽情報にあまり目を通さないし、音楽ライターでもないので、すでに言われ尽くされているならば許してほしい)。そのことができるラッパーを心から尊敬している。自己を表現するのにはさまざまな手段があるなかで、直接的で、時に残酷にもなり得る言葉を使う彼らは、同じく文章を生業にする自分にとって他人事でない。影響も受ける。

■USUさんの取材は僕の役割

 USUさんの『GHOST』は心に刺さった。いまもその最中だ。曲のなかにかつての自分を見た。同曲は、新潟を代表するラッパーであるUSUさんがアルコール依存症を患い、引退し復活するまでを取り繕わずにリリックにした曲だ。

 特に「落ちるところまで落ちた仕方ねえ 今じゃ屍 もう上がるしかないね」「俺が生きたかったから生きるだけ ただそれだけ」という箇所が昔を思い出させる。僕も20代の終わりから30歳くらいまで、自分のことを追い詰め、死にたかったことがある。そして落ちるところまで落ちた。だから、余計に共感した。(その後、あることをキッカケとして立ち直れた。そのことについてはウェブで書ける心理状況ではないので勘弁してほしい。またまわりのサポートがあり、今に至る)

 『GHOST』を聞いた瞬間、「USUさんを取材しないで、僕のライターとしての価値があるのか?」と考え、取材した。

取材のなかで次の言葉が心に残った。

「──病気のことや弱さを歌詞にすることに怖さはなかったんですか?

USU 最初は恐怖心がありましたよ。でも、すべてさらけ出したら楽になりました。」(https://qjweb.jp/feature/53213/ より引用)

みんながさらけ出し、語ったほうが良いとは決して思わない。でも、上の言葉を取材で聞いたとき、読んでいる人が少ないとはいえ、僕が病気を公にしたときと同じような心境なんだなと共感した。


■あえて記事化しなかったこと

 記事公開後、SNS上の反応はポジティブなものばかりでビックリした。悲しいかなこういった記事には、誹謗中傷がつきものだというのに。
また、依存症当事者や医療関係者が『GHOST』を聞いていたり、記事を読んでいることを人伝に聞き、取材した甲斐があったと思ったと同時に責任も感じる。ただただ、心をさらけ出してくれたUSUさんには感謝しかない。

 だが、USUさんにオンライン取材で1時間半ほど話を聞いたにもかかわらず、記事にしなかった箇所がある。それはアルコール依存症を患った背景として語ってくれた離婚とお子さんへの愛だった。背景を書きたてることで、彼を追い詰めてしまうのではないか。僕はそう危惧した。時に、記事が人を追い詰めることがあるのも事実だ。

『GHOST』/USU,DJ TAGA

■悪夢

 取材後、USUさんとは住まいが新潟と東京と離れてはいるが、プライベートでも連絡をする仲になった。でも、このご時世だから直接会うことは叶っていない。たまにLINEをするなかで、ある日「実はGHOSTの続編のような作品を制作中なんです」というメッセージが来た。強烈な曲なんだろうと楽しみにしていた。

 7月30日、自室でビールを片手に映画を楽しんでいると、USUさんからLINEが来た。「先日制作中と言っていた新曲が完成したので、聞いてみてください」というメッセージとともに、ダウンロード先のURLが記されていた。ファイル名には「NIGHTMARE」と書かれている。おそらく出来上がったばかりのデモをすぐに送ってくれたのだろう。早速、ダウンロードし曲を2回聞いた。曲を聞いていると、多少の酔いもあったのかもしれないが、情景が浮かびウルッとした。もう何年も泣いたことなんてないのに。

「僕は結婚したこともないし、子どももいません。でも、曲を聞いたら情景が浮かび、滅多に涙なんて流さないのにウルッとしました。素晴らしい曲です。USUさんの曲は人の心を揺さぶります。ヤバすぎて、ありきたりな感想ですみません」
自分のボキャブラリーの貧弱さを嘆きながら、すぐにそう感想を送った。

1分後、「ありがとうざいます。自分でも泣きながら書いたのは初めてです。そういってもらえて幸せですよ」と返信があった。さらにメッセージを続けると、このテーマについて書くべきか悩んだこと、でも心には嘘をつけないこと、ありのままの気持ちを書いたことが綴られていた。

■心に刺さるリリックを書ける理由

 新曲『NIGHTMARE』は、USUさんが治療を受ける前、引退してから復帰するまでの間によく見ていたという悪夢、そして離婚して離れ離れになってしまったお子さんへの愛情に満ち溢れた曲だ。切ない、その一言に尽きる。フックの「忘れてく 君を忘れてく そのKissも傷も」という箇所が特にだ。そして「忘れてく」が曲が進むと変化していく。しかし、ここで僕が曲を説明するのも野暮なので、まずは聞いてほしい。ちなみに、本日(8月25日)配信されたが、僕が書きたかったから書いた。ただそれだけのことだ。

その他の配信、ダウンロード 

『NIGHTMARE』/USU DJ TAGA

 僕自身も一番苦しかったときは、よく悪夢で目が覚めた。子どもはいないが、悪夢を頻繁に見て起きる最悪の気持ちは理解できる。悪夢を頻繁に見ると、現実と夢の境がたまにわからくなる。だからこそ、よくここまでさらけ出せるなと思った。

 一度USUさんに、なぜこんなリリックが書けるのですか?と聞いたことがある。彼の答えは、「歌詞は弱さを認めたからきっと皆さんと一緒だと思います。アーティストだからって、ヒップホップだからって、カッコつける必要も、強くいる必要も無くなったからですかね」と返ってきた。その揺るぎない決意に同じく言葉を使う仕事をしている者として大いに刺激を受けた。

 『NIGHTMARE』を聞いたあと、冒頭のUSUさんからのメッセージがふと頭をよぎる。僕は私小説をパート2以降、まったく書いていない。表現手段は違えど、僕も自分に向かい合いひとつの作品を世に出し、その恥部が誰かの勇気や救いになれれば良い。
『GHOST』に続き、『NIGHTMARE』はまたも僕の気持ちを喚起する曲だった。

『GHOST』、『NIGHTMARE』の順に聞くと余計に心に染みると思う。


*当記事は、私的な会話やメッセージが含まれるため、USUさんの許諾を得た上で公開しています。




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