高島太一を殺したい5人/石持浅海

「高島太一を殺したい5人」(石持浅海)読了。
好きな作家の1人である石持さんのデビュー20周年記念作品とのことで胸を高鳴らせながら購入。

高島太一を殺したい。
殺人の罪を隠蔽したい。
高島太一の罪も隠蔽したい。
高島太一の被害者の罪も隠蔽したい。
うまくいくのか、そんなこと。

高島太一を殺したい5人(石持浅海)帯より

帯の文章からまたしても異色のミステリであることが窺え、読む前から期待値爆あがりだった。
正直なところ、オチはいまいちだったなと思う。期待しすぎていたが故のことだが、オチがつくまでの過程が面白すぎて、結末を呆気なく感じてしまった。鳥肌の立つ、この物語がタイトル通り狂気に満ちていることを再認識させてくれるオチではあるのだが。石持さんの他作品は、もう少し期待や予感をさせるラストが多かったように記憶している。

一方で、論理性と人間らしさが同居するセリフの数々、「ミステリを進行できる会話劇」という石持さんの凄技は十二分に感じることができる作品だった。石持さんファンの多くが、終始「これこれ、これが読みたかったんだよ!」「すげー!!」と声をあげながら読み進めることになるだろう。

殺意とは、それほどの体験がないと生まれないものだという気がする。

高島太一を殺したい5人/石持浅海

この一文を読んだ時こそが、今回の読書体験で唯一ニヤけた瞬間かもしれない。石持さんの好きな作品の一つ、「殺し屋、やってます」に対する強烈なアンチテーゼのように感じたからだ。皮肉ですか!?違うかな….とソワソワしながら笑ってしまった。
ネタバレしない程度に説明すると「殺し屋、やってます」は、タイトル通り、殺し屋が「殺し屋をやってまっせ」と自分の仕事の一部始終を見せてくれるような物語だ。彼はただ仕事として、当然の、日常的な活動として殺しを実行する。一方、今作では"それほどの体験"がないと殺意は生まれないということになっており、「殺し屋」の異常性を際立たせている。
何か名称があるのか知らないけれど、作中の描写で他作品の良さを香らせてくれる技ー私はこれを名作家の匂わせと呼んでいるーを感じられるのは、小説を作家買いすることの1つの醍醐味だろう。

皆様これを機に、ぜひ石持ワールドに浸ってくださいませ。

最後に私のオススメ3選を置いておきます。

アイルランドの薔薇
今までに読んだミステリの中で最も面白かった。
石持先生の処女作である。本格ミステリでありながら、緻密な人物描写から伝わるアイルランドの社会情勢や日本・欧米各国の国民性の違いを楽しめる。情景の描き方も見事で、温度や香り、喧騒が伝わってくる良作。

Rのつく月には気をつけよう
寝る前の読書タイムに最適。
笑って泣けて夢中になれる日常ミステリ。石持先生の作品の中では比較的、登場人物たちが好感度高く描かれているように感じる。
酒とつまみを囲んで謎解きを繰り広げる3人のことを、私も旧知の友人のように思っているよ。

殺し屋、やってます
こちらもまた日常ミステリ。
緊迫感とちょっとしたワクワク、日常と非日常を同時に感じたい時にぴったり。
やってることは殺人だし、あくまで殺してしまうのだけれど、殺しの準備が周到すぎて対象について詳しくなりすぎる、謎を解いてしまう、そんな彼のことが憎めない一作です。
「高島太一を〜」と併せてぜひ。

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