火を噴く課長(2005年07月05日)
2005年07月05日 記
以前勤めていた会社の上司はよく火を噴いていた。比喩ではない。字義通り、フロアで「ぼわっ」と景気よく火を噴くのである。まるで大道芸人のように(というか、大道芸人しかやらんだろう。ふつー)。スピリタスというポーランド産ウォッカはアルコール度数が96度もある。それを口に含んで、ライターの火を目前にかざす。その火を目指して一気に吹きかけると、それはもう見事な火炎が立ち上る。美しい。よくスプリンクラーが作動しなかったものである。もっとも一度、傍にいた同僚の髪の毛が焦げたことがあったが。
とにかくこの上司はあらゆる意味で型破りだった。仕事もできたが、記憶に残っているのはもっぱらそれ以外での奇抜な行動のほうが多い。例えば、とある金曜日に出社すると、呼び出しがかかる。聞けば明日、大学時代の友人の結婚式があるという。ほぉ、それはメデタイですねぇなどとテキトーに相槌を打っていると、なんでもその式の段取りを任されているのだと言う。このあたりからだんだんと話がキナ臭くなってくる。
「えっ!?それはたいへんじゃないですか?」
「うん、だからさぁ…」
「?」
「メンバーみんなで行くぞ!」
「!!!!??」
というわけでその日の夜。気の合うメンバーを引き連れて出立。目指すは東京である。内心、「ひえ~」とも思うが、こっちも若かったからけっこう楽しんでいた。だが、どういう理由か司会進行を「お前(僕だ!)がやれ」という命令が下る。あせる……、しかし上司命令。いやとはいえない。こうして徹夜で高速を走りぬけ、見知らぬ人の結婚式の司会を務めることとなった。結婚式の司会など、むろん初めてのことである。むちゃくちゃだ。当然のことながら、式は、ぐだぐだのぐずぐずとなった。新郎の父親は明らかに怒っていた。そりゃそうだろう。
でもむちゃくちゃにした当人である上司は、平気のへいさである。しかも最後に「いやぁ、あいつ(新郎のこと)ってそんなに仲よかったわけじゃないんだよね~」とのたまわれる始末。さすがに気が抜けたが、不思議と怒る気もしない。妙な人徳があるのだ。思い起こせば、バット(プラスチックだけど)で殴られたりもしたけれど、なにかと目をかけてもらった。今でも営業マネージャーとして関西方面でばりばり働いているようである。もしこの日記を読んでたら、貸しっぱなしの吉田秋生の『BANANA FISH』全12巻、早く返してください。
2024年03月22日 付記
しかし今思い返してもすごい。当時でさえコンプラ的にはアウトだったと思うのだが……。この課長とは、現在もぼちぼちと交流が続いている。『BANANA FISH』はまだ返してもらっていない。
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