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読めばゴッホが好きになる!‐漫画『さよならソルシエ』を読んで、美術館へいこう!

「絵画ってのはこんなんじゃなくてもっと難しいもんじゃないのかねぇ……ほらお偉いさんを描いたり、なんだか深いメッセージがあったり……」
「この絵にもあるだろう ”パンは美味い” ってメッセージが」


19世紀のフランス、パリの街角のパン屋の主人とその妻の会話である。
主人が大好きなパンをモチーフに描いた、お世辞にもこの時代には上手いと評されない絵を前にするそのシーンに、この漫画のテーマが現れていると思う。

世界的に有名な画家ゴッホを主人公にした漫画『さよならソルシエ(著:穂積)』である。

宝島社「このマンガがすごい!」2014年オンナ編1位に選ばれていたので、名前や表紙だけでも知っているという人がいるかも知れない。

正確には、ゴッホ兄弟を主人公にした漫画だ。ゴッホというのはいわゆる「姓」にあたる部分で、兄であり画家のフィンセント・ファン・ゴッホと、弟であり画商テオドルス・ファン・ゴッホの2人の人生を中心に話は展開する。

2人が生きた時代は19世紀末。とても簡単に説明すると、当時の画家が成功するためには政府の息がかかった美術アカデミーに入選することが必須。そのためには役人が気に入る宗教画や肖像画を描く必要があった。宗教画と肖像画は教養や気品があるとみなされる時代だったのだ。

でもおかしい。わたしたちが知っているゴッホの作品は、宗教画やら肖像画のようなお上品な雰囲気ではなかった。それもそのはず、ゴッホの作品はそのブームの次(正確にはさらに次の次……くらいだと思うが同時に存在する派閥もあって一言では言えない)の作風だからだ。つまり、19世紀とは絵画のブームが大きく移り変わる時代であったのだ。

いわゆる『ポスト印象派』と呼ばれたゴッホをはじめとした新時代の画家たちは、政府主導のアート界のあり方に反発して、政府を通さない自主的な展覧会を開くなどして活動していた。『ソルシエ』内ではこうした画家の活動にも触れ、そのブームの牽引者の一人として、弟の画商テオドルス・ファン・ゴッホを描いている。

冒頭で紹介した、パン屋の絵もそのブームの一端を担う描写がある。そのシーンは一部の上流貴族のためだけのアートは終わり、街角で嗜まれる、庶民の生活に根ざしたものであるという、メッセージを受け取ることができる。


伝記を除くと、これまでゴッホに触れるマンガはあっても、ゴッホ自身を主人公に据えたマンガはなかった。その意味でも『ソルシエ』への注目度は高かった。たくさんのレビューや感想が寄せられたが、世間の評価は絶賛と批判の真っ二つに分かれていた。あまりの賛否両論のせいか、物語の壮大さに対して全2巻で納めたことを打ち切りでは?という噂も囁かれている。

賛否を呼んだ理由のひとつは、史実と異なるキャラ設定と展開である。
史実では、兄フィンセントは生涯を通して周囲との折り合いが悪く、職や住居を転々としている。奇跡的に意気投合した画家ゴーギャンと一時的に同居するが、大喧嘩の末、フィンセントは自分の耳を片方削ぎ落とすという凶行に出て、精神病院へ収監されたという逸話も有名である。

そんな直情的なイメージが強いフィンセントだが、『ソルシエ』のフィンセントはまったく逆の温厚で純朴な人物として描かれている。生き生きとした、感情があふれてくるようなタッチで描かれるフィンセントの絵は、当たり前の日常や庶民の暮らしに光を当てる『無垢なゴッホ』だから描けた……という解釈なのだろうか。

そんな兄の唯一の理解者であり、金銭的な支援を惜しまず兄の絵を広めるために尽力し続けた画商の弟テオドルス。一見、気難しい兄を健気に支える心優しい弟のように見えるが、『ソルシエ』ではやはり真逆の人物像で描かれてる。兄フィンセントの才能に憧れと尊敬を持ちながらも同時に嫉妬も感じ、また当時の政府主導の絵画界に対して反旗を翻す、新進気鋭の革命児として描かれている。

たしかに作者の創作が随所に散りばめられていることは違いないが、最後の最後で大つじつま合わせがおきる。ゴッホを知っている人はもちろん、知らない人も驚くに違いない。

仮に打ち切りであったとしても十分に面白い。
「その方法があったか……」と思わず声に出してしまった。

その大伏線回収方法は、ぜひ本書を読んで確認してほしい。

読み終わったら、ゴッホの絵を実際にみいこう。
時期よく、ゴッホ展が開催予定だ。

え?会期中に日本にいないだって?もちろん大丈夫。

日本でもゴッホの絵を所蔵している美術館はたくさんある。

こちらのまとめサイトを参考にされると良いと思う。

ゴッホ展が終わってしまっても、こんなにたくさんのゴッホの絵をみることが出来るなんて…日本はすばらしい。

ちなみにわたしは日本所蔵品の中では、ひろしま美術館の所蔵の『ドービニーの庭』が好きである。


みなさんはどのゴッホが好きだろうか?
ぜひ本物をみて、”美味いパン”をみつけてほしい。


編集:アカ ヨシロウ

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