手紙を書く習慣

日々の穏やかな出来事を

やさしくあたたかい視線で

ていねいに描いている

庄野潤三さんの小説、

『貝殻と海の音』が

僕の気持ちを和ませてくれる。


子供が大きくなって結婚し

それぞれが家庭を築き、

夫婦ふたりだけとなった生活。

結婚五十年を迎える夫婦が

どんな日常を過ごしているか。

庄野さん74歳の作品である。


息子ふたりと娘ひとりとの

それぞれの家族との交流は

何気ないありふれたものだ。

子供たちとの付き合いの様子、

小さな孫たちのふるまいは

老夫婦の日々に潤いを与える。


その潤いをもたらす鍵は

子供や孫との手紙のやりとりだ。

電話で済むところを手紙を書く。

文章も内容もたわいないが、

気持ちがグッと伝わってしまう。

手紙って素晴らしいと思わせる。


今ならさしずめメールだろう。

しかしメールは冷たく感じる。

気をつけないと互いの関係は

殺伐としたものになってしまう。

冷ややかで乾いた印象になる。

しかし手紙はとてもあたたかい。


庄野さんの家族のように

手紙を書く習慣を身につけたい。

電話やメールにしてしまうのを

なるべく手紙にするのだ。

とくにお礼や感謝することは

肉筆で手紙にしてお出しする。


そのひと手間を惜しむことなく

できるだけ手紙を書くようにしたい。

そう思わせてくれた小説だった。