芥川龍之介『鼻』

鼻が恐ろしく長い坊さんの話である。
ボクはすぐに手塚治の漫画に出てくる
お茶の水博士を思い浮かべた。
博士はコンプレックスがあったか忘れたが、
坊さんは長い鼻を人に笑われ気に病んでいる。

弟子の一人が鼻を短くする術を知って、
それとなく師匠の坊さんに告げてみる。
気のない素振りをしながらもやることになり、
長い鼻を熱湯に浸けてふやかせるのだが、
坊さんにとってはちっとも熱くない。

ふやかした赤い鼻を弟子が踏みつける。
すると鼻の穴からニョロニョロと
脂肪の塊のようなものが出てくる。
長かった鼻は見事に短くなるのだ。
坊さんは喜び。めでだしめでたしである。

ところが話がそこで終わらないのが、
人間を奥深く観察する芥川龍之介である。
坊さんの普通の鼻を世間がまた笑うのだ。
普通に戻ったことが人々には面白いのか、
それともそれが逆に面白くなくて笑うのか。
坊さんは元の長い鼻に戻りたいと願い、
事実そうなってほっとするのである。