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不合理な思考を無理に手放そうとしてしんどい努力をしている方へ 違うアプローチがある

近頃カウンセラーやセラピストがとても増えているようです。その人たちのブログを読むと、「もう役に立たない思考を手放そう」「過去のことをいつまでもぐちぐち言わず未来を見て」「ネガティブな考え方の枠組みを作り直し」などという言葉を頻繁に目にします。トラウマを抱える人は「それが出来たらどんなにいいか!」と思うかもしれません。

最近も、Xでフォロワー数38万人超の有名人が以下のような投稿をしました。
「そもそも嫌なことをいちいち思い出して毎回嫌な気分になるのおかしくない?苦しい過去も思い出すたび苦しくなるんだから、やめときましょう、繰り返すの。他人の批判なんかも深刻に受け止めるから辛くなるだけ。軽くする―しよう。」

今ではだいぶトラウマ反応が薄れたとはいえ、この言葉にはグサグサきました。なんと無知無理解なお説教をするのだろう。

苦しい過去がいつも蘇ることは、意思の力では止められません。自己憐憫や後ろ向きな態度ではないのです。

言語のさらなる落とし穴は、私たちの思考が「意味をなす」ものでないなら、それは簡単に正せるという幻想だ。認知行動療法の「認知」の部分は、そうした「非機能的思考」を変えることに的を絞っている。これは変化へのトップダウンの取り組みで、そこではセラピストは、ネガティブな認知に疑問を呈したり、その「枠組みの作り直し」(リフレーミング)をしたりする。「レイプされたのは自分のせいだというあなたの感情と、実際の事実を比較しましょう」「運転に対する恐怖心を、今日の道路交通の安全性についての統計と比較しましょう」というように。

「身体はトラウマを記録する」p404

私たちの思考が「意味をなす」ものでないなら、それは簡単に正せるという幻想

あたかも意味のない思考にしがみついているからあなたの状況が悪いのだといわんばかりの、善意のお説教する人が後を絶たないのですが、前提が間違っています。

その役に立たない思考を捨て去らないと状況は改善しないよ、と脅しをかけているようでもあり、落ち込むことやネガティブな感情や思考を否定されているようでもあります。

今だからこう言えますが、クライアントとは弱い立場であり、トラウマを抱えているとなおさら、セラピストやカウンセラーが正しいと思ってしまいます。

トラウマを抱えている人によくあることですが、私も感情を麻痺させて生き延びてきました。自分よりパワーのあるセラピストやカウンセラーが言うことに対する嫌悪感は、自分でも知らないうちに瞬時に感じなくさせてしまいます。瞬間芸当なので本人無自覚です。幼いころからそうやって身を守ってきた名残です。その場では「ありがたいお話を聞いた。私のものの見方がネガティブだから状況が悪いんだ」などと思って、せっせとリフレーミングに励みます。

その時「は」いいんですよね。でも後から胸が苦しくなったりモヤモヤが止まらなくなるなど、何らかの反応が起こることがしばしばでした。なぜあの時言い返せなかったのかと自分を責めたり、カウンセリングを受けた分を帳消しにするほど苦しみました。


かつて私たちのクリニックに、自分の生後二か月の赤ん坊が「とても利己的」だからと助けを求めに来た、取り乱した女性のことが思い出される。子供の発育に関するデータ表を見せたり、利他主義の概念を説明したりしても、彼女に利するところがあっただろうか。そうした情報は、手助けになりそうもない。彼女が、自分自身のおびえた、見捨てられた部分-依存されることへの恐怖という形で表現される部分-にアクセスできるようにならないかぎりは。

「身体はトラウマを記録する」p404

著者のヴァン・デア・コーク博士は、トラウマを負った人が抱く不合理的な思考を、認知的なフラッシュバックとして扱うことを提案します。悲惨な事故の視覚的なフラッシュバックのようなものだと。トラウマが起った時またはその直後に、当事者が抱いていた思考がストレスの多い条件下で再活性化されているそうです。

身に覚えがあります。あれは1991年2月25日、一度目の大学受験の時でした。極度の緊張のためか、最寄り駅から大学までの道を間違えてしまったのです。通りがかりの人に聞いて間違いを知り、急いで引き返しました。

頭の中で自分をこき下ろす声がこだましました。「やっぱり私は駄目だ。出来損ないだ。」などなど。雪がちらつく寒い日でした。外からは寒さが、内側からは自分を責め続ける声が聞こえて、試験会場につく前に私はだいぶ消耗してしまいました。結果はご想像の通りです。

あのとき自分をこき下ろした声は、幼い頃母親に金切り声で怒鳴られたときに心の中で自分を責めた声そのものでした。セリフは母が私を怒鳴る時の言葉にそっくりそのままです。大学受験という極度のストレスがかかる状況で、トラウマが起った時またはその直後に、幼い私が抱いていた思考が再活性化したものとみることができます。

「運転すると人をひき殺すかもしれない」
「飛行機がちょっと揺れると落ちる!と思う」
「やっぱり私はできそこない」
「生後二か月の赤ん坊がとても利己的だ」

こうしたものをトップダウン、つまり意識的に手放すのでなければ、どんな方法があるのでしょうか。ボトムアップ、言い換えれば身体からのアプローチがあります。

・EDMR(眼球運動による脱感作と再処理法)
・ヨガ
・IFS(内的家族システム療法)
・ニューロフィードバック
・演劇
・SE(ソマティック・エクスペリエンシング)
参考 SE Japan
などです。

ちなみに私は上記のどれでもなく、以下のセラピーを3年半受けています。

今受けているセラピーの特徴
https://aoimikako.com/2568-2/

セラピストは私の感情を「もっとポジティブに」などとジャッジしないので安心して話せます。無理に話さなくてもいいのです。これを読んでいる方の状況は分からないのですが、もしトラウマを抱えている方なら、クライアントを否定しないセラピストに出会えることを祈ります。しんどいクライアントにポジティブ変換を迫るのは、やり方が間違っています。しんどくないやり方でトラウマは改善しますよ。


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プロフィール
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普段はオンラインで数学を教える家庭教師です。お仕事ブログ
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