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ものの見方を変えようと頑張ることがトラウマのトリガーになります

視点を変えれば生きづらさはなくなる、というわけで、こんな努力をしていませんか。

「生徒に嫌われてると思う?それは思い込みだよね。生徒はたまたま今日テストの点数が悪くて落ち込んでいるだけだよ。」

「何にも怖いことは起こっていないのに、そんなにびくびくする必要はないよ。周りをよく見てみよう」

「そんなにネガティブにばかり考えない方がいいね」

・・・
そろそろ胸が痛くなってきました。

いくら言い聞かせても直らないネガティブな癖、生徒の無表情に「嫌われた!」と落ち込む、怖がりなどは、あなたがおかしいのではなく、かつて厳しい日々を生き延びた証かもしれません。その反応があるから生き延びられた、状況が変わっても、かつての反応が残っていると考えることができます。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因は、危険が去った後も、私たちの神経系が命を守ろうとし続けることにあります。私たちがトリガーされると、交感神経が活性化し、身体とこころに警報を出します。(中略)それにより身体的エネルギーがほとばしり強い本能的衝動が起こって、そして超人的な強靭さも行使できるのです。しかし、行動するのが危険だった場合、身体は交感神経の覚醒を脅威として認識し、副交感神経系が自動的にブレーキを踏むように動員され、私たちの動きを激しく停止させる可能性があります。そうして何年経っても副交感神経系が優位なままだと、人はエネルギーも意欲も自信も失われた状態のままとなります。

「トラウマ変容ワークブック」(ジェニーナ・フィッシャー著浅井咲子訳)第3章

ポイントは、危険が去ったあとも、危険の最中のように神経系が働き続けることです。そうすると、目の前の生徒の表情に、かつて「不機嫌な母親にこっぴどく怒られた」場面が蘇ります。これは頭で考えてそう判断するのではありません!厳しい状況に考えている暇はありません。思考をつかさどる脳ではなく脳のもっと原始的な部分の働きです。

私を含めて多くのトラウマサバイバーはそうだと思いますが、記憶にあるかないかの幼い頃に毎日繰り返される厳しい状況がありました。私の場合は、母親が金切り声で罵倒する、姉妹一緒の部屋で一人で安らぐ場がなく妹たちと凄まじいライバル関係になる、ASD傾向のある父親が心をグサグサ傷つけることを言う、などです。

おそらく私は生き残るために様々な「スキル」を発達させたことでしょう。泣いたり怒りを表現するのが危険な家庭環境では、子どもは怒りを分離して感じなくするという器用なことができるようです。私が怒りを表現すると母が怒り狂うので、非常に危険でした。

数々のトラウマ的な出来事が起こると、様々な防衛策を使えるように人格のサブパーツを発達させるように、細かい分離が起こるようです。サブパーツたちはそれぞれ担当する分野があります。詳細は「トラウマ変容ワークブック」85ページをご覧ください。それは生き残りのための精妙な仕組みです。幼い私がそうやって戦場を生き延びたのだと振り返ると、身体の仕組みの優秀さと私の生きた環境の厳しさに、言葉にならない思いが溢れてきます。


ここの神社のお使いはうさぎ

同書の言葉を借りれば「日常を送るパーツ」が親に命ぜられるままに小学校と中学校にに通い、県下一のトップ進学校で受験勉強に励んで名門大学に合格する一連の動きを無駄なく遂行しました。他方、「服従パーツ」が希望を持つことがリスクとなる家庭環境を生き残れるように絶望感や無力感をもたらしました。

成人して思考力が成熟すると、内面の矛盾を感じるようになりました。「なぜ、いまここでこんなに絶望するんだろう?全然そんな状況じゃないのに。」「どうして何てことないのに死ぬほど動揺するんだろう」「あの人に酷いこと言われたのに、へらへら言う通りしちゃったのは何て情けないんだろう。」など。

多くのサバイバーがそうであるように、私もまた「自分は欠陥品に違いない」と結論づけました。その自責の念が、さらに自分をむしばみます。努力が実って合格した名門大学では、周りが優秀なだけに下手なことを言えないと身構え、誰にも言えないまま苦しみました。

事情を知らない人が「他の人も人知れず悩んでいるんだから、話してみたらよかったのに。」と言いますが、そういう「話せばなんてことなかった」というものではありません。安心安全を感じられない環境で育つと社会交流のための神経系が育たないようです。人と快適に関わることが難しい状態です。周りの学生に弱音を吐くなどという選択肢は、当時の私の宇宙に存在しません。羞恥心、自己嫌悪、自分責めが止まらず、名門大学の学生であるという誇りでぎりぎり持ちこたえていましたが、内面は崩壊寸前でした。


あひるたち

さて、話を冒頭に戻しましょう。
自分のネガティブな、おかしなものの見方を「直そう」とすることは、それ自体が自己否定につながり、トラウマのトリガーを引くと思います。参考書ではなく、経験に基づく私の見解です。そのネガティブなものの見方は考えて身につけたものではなく、生き残りのための神経系の働きが思考に影響したかもしれません。栄養や病気の可能性もありますが。

まだあまり普及していないのですが、身体と心理の両方にアプローチする安全な手法があります。私がお世話になっている葵井美香子さんのセラピーやソマティックエクスペリエンスなどです。リンク先をぜひご覧ください。

(参考)
葵井美香子セッションの特徴
ソマティックエクスペリエンス・プラクティショナー花丘ちぐささんブログ

幸いなことに、優しくて安全な手法のおかげで、あれほど怖かったことが怖くなくなり、ちょっと不愛想な生徒さんも可愛く見えてくるぐらいゆとりが生まれました。とても嬉しい。

普段はオンラインで数学を教えています。自称”風が吹けば飛ぶ先生”
お仕事ブログ「中3・高1の数学でつまずいても基本をきっちり押さえれば理系の受験に間に合う」



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