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一次元から三次元へ:ブレトン・ウッズ後の世界の輪郭ー「南半球」の通貨統合プロセス

Modern Diplomacy
Yaroslav Lissovolik
2023年2月3日

元記事はこちら。

2023年の幕開けは、BRICS諸国の代表から新通貨の創設をめぐる発言が相次いだ年であった。

特にブラジルのルーラ大統領はBRICSとメルコスールの共通通貨の創設を呼びかけ、ロシアのラブロフ外相は今年南アフリカで開催されるBRICSサミットでの議論にBRICS共通通貨の創設を盛り込むと表明した
そして、このような国際通貨システムの変化の多くは時間を要するとしても、この変革のベクトルはますます明確になってきている。新しい国際通貨制度は、現在の先進国通貨と並ぶ"世界的な基軸通貨を目指す新たな地域通貨"の創設に向け、その方向性を強めていく。発展途上国の主要地域が地域通貨を形成する多地域国際通貨制度は、世界の金融市場に大きな選択肢を提供し、一部の基軸通貨への依存を軽減することができるだろう。

ほぼ各国通貨のみで構成される断片的なグローバル金融システムは、支配的な経済圏の通貨に過度に依存する余地を残している。米国の債務上限はデフォルトを避けるために引き上げられたが、世界の基軸通貨である米ドルの「法外な特権」は、財政浪費の拡大やMMTのような関連理論の出現という形で、「モラルハザード」パターンに拍車をかけている

IMF の最近の報告書にあるように、「現在の準備制度の弱点(「新トリフィンのジレンマ」)にもかかわらず現状からの大きなシフトは、支配的な通貨に代わる実行可能な選択肢がある場合にのみ可能である」[1]。このように、現在の通貨制度の根本的な弱点を(代替通貨の出現を条件としながらも)認識したIMFは、現在の通貨制度の「無謬性」に対する疑念が高まっていることを示す重要な証左である。2022年末までの米国の公的債務の対GDP比は、名目GDPが(物価上昇により)膨らんだことを背景に、2021年第1四半期と比較してGDP比で9%近く減少した。このような米国の公的債務の価値の下落は、米ドル建て資産への多額の投資を選択している国々の準備金保有に悪影響を及ぼしています。同時に、インフレによる債務残高対GDP比の低下とともに、米国債の名目ストックは増加し続け、過去数年間、米国債の上限を繰り返し引き上げざるを得なかった。そして2023年、米国議会のパワーバランスが崩れ、米国がデフォルトに陥るリスクは、新興国市場に新たな恐怖を与え、世界経済の唯一の「重心」への依存度が高いことの危険性を思い起こさせることになった。

このような依存度の高さと南半球の通貨空間の分断を克服するために、途上国は地域的(メルコスール経済圏の通貨案のように)または地域横断的(R5 BRICS通貨バスケット案のように)により大きな通貨ブロックを形成することができます。
このような「南半球」の通貨統合のプロセスが継続すれば、最終的には加盟国のGDPや準備金の規模から見て十分な経済的重みを持つ通貨が形成され、世界の基軸通貨グループに含まれることになるかもしれません。

マクロ地域通貨統合を基礎とする国際通貨システムは、世界基軸通貨の新たな候補を育成する機会を増やすことになる。南半球には、世界の基軸通貨として十分な経済的重みを持つ地域通貨が、少なくとも3つ存在する可能性がある。

中南米共通の基軸通貨

アフリカ共通の基軸通貨

アジア共通の基軸通貨

ラテンアメリカの路線は、ブラジルのルーラ・ダ・シルヴァがすでに提唱している。
アフリカでは、AfCFTAの形成やアフリカ連合の世界的地位の向上(今後数年でG20の本格的なメンバーになる可能性が高い)により、アフリカ大陸の国家経済のみならず、地域統合や通貨アレンジメントの経済政策が徐々に協調されつつあることを意味している。アジアでは、ここ数年、汎アジア単一通貨上海協力機構加盟国の共通通貨など、いくつかの提案がすでに発表されている。

これらの地域通貨はすべて、それぞれの統合された地域ブロックという形で十分な経済的重みと規模を持ち、世界の基軸通貨の地位を獲得することができる可能性がある。地域通貨が世界金融システムの不可欠な一部となる可能性は、通貨分野における地域通貨/地域協定の様式に以下のようなオプションがあることによって拡大します。

リージョナルバスケット
●既存の各国通貨に代わる地域通貨
●地域スワップライン
●デジタル地域通貨/カレンシーバスケット
●地域別会計単位


地域通貨であれ域外通貨であれ、新しい通貨はアンカーや参照点を必要とするが、その役割はこれまで主に米ドルとユーロによって果たされてきた。
中国の台頭は、南半球の経済にとって主要な貿易相手国であることを意味し、途上国経済が基準点をドルやユーロから人民元やBRICS基軸通貨(人民元が大きな割合を占めると思われる)に変更する時期に来ている可能性がある。特に、固定相場制やペッグ制を採用している途上国は、自国通貨をBRICSバスケットにペッグすることや、この新しい通貨を会計単位として採用することを検討する可能性がある。これは、南-南貿易の重要性が高まっていることを特徴とする過去10年の傾向とよく一致する。
また、途上国経済(途上国の地域パートナー間を含む)間の数十年にわたる貿易不足の後、対外貿易と投資の南-南路線への多様化をさらに促進するためにより有利な条件を提供することになるであろう。

何十年もの間、途上国経済の貿易パターンは、米国やEUといった先進国との貿易シェアが高く、これらの経済圏の近隣諸国との貿易シェアは潜在的な可能性よりも低いという特徴があった。
貿易の強度を国間の距離と経済的な重さ(GDP)で表す重力モデルの指標は、距離の重さが小さいほど地域貿易を促進する大きな可能性があることを示唆しています。地域経済統合や、ラテンアメリカで計画されている地域通貨SURのような地域通貨の創設は、世界経済の成長のために、この南-南地域貿易の潜在力を実現するのに役立つだろう。

国際通貨システム再生の3本柱には、以下のようなポスト・ブレトン・ウッズの原則、すなわち3D原則が必要である。

●脱一極化 (Poly-centricity): 基軸通貨を前提としたシステムで、多くの地域通貨や地域間の通貨バスケットが含まれる可能性がある - 結果として、EMとDMの基軸通貨が共存することになり、グローバル通貨システムにおいて「中核と周辺」のパターンが設定されることはない。
非政治化:新しい国際通貨制度は、その重要な基盤の一つとして「非政治化条項」を含む必要がある。基軸通貨は、制裁やその他の制限を課す際にこれらの通貨を使用しないことを法的に確約する必要がある。
ディス・インフレ: DM通貨の「法外な特権」が解消されることで、グローバルな通貨システムにおけるインフレの脆弱性が減殺される可能性がある。同時に、グローバルな通貨システムにおける競争力は、準備・資源に裏付けられた信頼できる通貨に引き寄せられ始める

新しいシステムは、新しい地域経済センターの出現を含む世界経済の現実とダイナミクスの変化を反映する必要があり、また、国際社会の側からの通貨に対する要求の高まり、すなわち、国や地域の準備や資源によって適切にサポートされる、現実の通貨であることに対処する必要があります。

国際通貨システムの3Dビジョンを描くもう一つの方法は、地域統合ブロックとその通貨、開発機関によって代表される地域層を通貨システムに導入することである。
この地域層は、下層の国民経済と上層の世界経済機関(IMFや世界銀行など)の層を補完するものである
国際通貨システムの地域層の主な構成要素はほぼ揃っており、以下の3つの主要要素で構成されている。

地域金融アレンジメント(RFAs)
●地域開発銀行(RDBs)
●地域通貨メカニズム


金融市場にとって、地域経済・通貨ブロックの出現を特徴とする国際通貨システムは、新興国市場(EM)と先進国経済(DM)のデカップリングをもたらすかもしれません。
これは、米国とEUの金融市場の優位性が、
発展途上国の市場力学の全体像を大きく左右するという現在のパラダイムとは異なります。

最後に、過去数十年にわたる世界的な景気後退の頻度の上昇をもたらした脆弱性は、まだ解決されていないのである。
現在のブレトンウッズ体制の限界から抜け出すための重要な道筋の一つは、基軸通貨を拡大し、南半球に出現しうる新たな地域通貨を導入することである。
進化する国際通貨制度は、貿易構造や投資フローなど、世界経済の将来の進展と切り離すことはできない。この点で、世界経済の地域化、貿易ブロックとその地域開発機関(地域開発銀行、地域金融アレンジメント)の台頭は、国際通貨システムの地域化をより強く求めることになる。

[1] Aiyar, Shekhar, Ilyina, Anna, and others (2023).地理経済的な分断と多国間主義の将来.スタッフ・ディスカッション・ノートSDN/2023/001.国際通貨基金(International Monetary Fund), ワシントンDC.

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1   【BRICSの基軸通貨:進むべき道

現段階では、BRICS の基軸通貨は BRICS 経済圏の自国通貨に取って代わるものではなく、むしろそれを補完し、途上国通貨が基軸通貨としての地位を獲得する能力を高めるものであることは明らかである。
当初は、BRICSの新通貨は各国通貨での取引を促進するための勘定単位の役割を果たすことができる。長期的には、R5通貨は新興市場の中央銀行にとって決済や貯蓄・準備の役割を果たすようになるかもしれない。



2  【BRICSブロックが2023年に重要なグローバル経済的役割を果たす理由

https://note.com/homme_jian2/n/n834eb7e32f40?magazine_key=m2f93249e87eb

2022年に世界が目撃した最も明確なトレンドの1つは、グローバルな経済力の東方への移動が加速していることであった。
この移動の多くは、当初、上海協力機構(SCO)の継続的な強化を通じて達成されたものであった。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5つの主要新興国からなるBRICSグループは、共同政策の調整という点で大きな進展を見せ、他のいくつかの国も影響力を増すBRICSブロックへの参加に明確な関心を示しており、2023年は世界経済と地政学的展望の中で最も影響力のある年となりそうである。


参考記事

1   【ラテンアメリカの通貨統合への到達

ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領と彼のアルゼンチンのカウンターパート、アルベルト・フェルナンデスは、ラテンアメリカの共有アカウントのユニットのビジョンを進めました。
米ドルに代わる信頼性の高い地域通貨単位を確立するには、強力な政治的リーダーシップと技術革新の効果的な活用の組み合わせが必要である。共有された口座単位は、最終的には新しいタイプの貨幣に進化し、個人的な取引のためのトークン化されたサーという形をとることができるだろう。

2    【IMFが発表した世界通貨「ユニバーサル・モネタリーユニット」が世界経済に革命を起こすと言われている。

本日、国際通貨基金(IMF)春季総会2023において、デジタル通貨金融庁(DCMA)は、参加中央銀行の通貨主権を強化し、IMFが提案した最近の暗号資産政策勧告に準拠した国際中央銀行デジタル通貨(CBDC)を正式に立ち上げると発表しました。
UMU(Universal Monetary Unit)はANSI文字Üで表され、法的には貨幣商品であり、あらゆる法定決済通貨で取引が可能で、銀行規制を実施し、国際銀行システムの金融の健全性を守るためにCBDCと同様の機能を有しています。

3    【BISと4つの中央銀行、クロスボーダーCBDCプラットフォームでのリアルバリュー取引の試験運用を成功裏に終了

国際決済銀行(BIS)と4つの中央銀行は、プロジェクトmBridgeの一環として、商業銀行が国境を越えた実額取引に中央銀行デジタル通貨(CBDC)を使用する試験的な取り組みを成功裏に完了させました。
BISイノベーションハブ香港センターは、香港金融管理局、タイ銀行、中国人民銀行デジタル通貨研究所、アラブ首長国連邦中央銀行と協力しました。


4    【共通通貨はアフリカの経済的地位を世界的に改善できる

https://stratnewsglobal.com/africa/common-currency-can-improve-africas-economic-position-globally/

東アフリカ諸国が最近発表した、今後4年間で単一通貨に移行することを視野に入れているという発表に反応しています。
東アフリカ通貨統合は、10年前から進められてきました。2013年に東アフリカ共同体通貨同盟設立のための議定書に署名して以来、加盟国の経済・金融システムを統合するためのさまざまな取り組みが行われてきました。

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