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席替えと私

席替えが苦手だった。
小学2年生。ちょっと変わった席替えをした。まず、男子が座りたいところを決める。その間女子は廊下に出て待っている。次に、女子が座りたいところを決める。同じく、男子は廊下で待つ。
「誰が隣かなあ」
きゃあきゃあ言いながら私たちは席について待っていた。
「じゃあ、男子は入ってきてくださーい」
先生の言葉に男子がわっと入ってくる。私の隣は誰だろう・・・キョロキョロ辺りを見回して待っていると、一人の男子が私の隣にやってきた。すごく元気な、いや、いつも騒がしい男子だった。
「えーっ、お前が隣かよ!!」
男子は心底嫌そうに顔をしかめて私を見た。私は泣いた。すかさず女の子たちが慰めてくれる。先生がたしなめる。
今思えばこれくらいで泣くことはなかったのだ。言い返せば良かったのに。
「私だって嫌だよ」と。
でもできなかった。本当に嫌そうな顔をされたのが辛かったから。

***

小学6年生。
くじ引きで席替えをした。私はクラスで一、二番目に背が低かったので、あらかじめ先生には前の席にしてもらえるようにお願いをしていた。
一番前の席は見やすく快適だった。文句はなかった。隣の席の男子にとっては文句しかなかっただろうけれど。
彼は運動神経が抜群で、クラスでも人気者の男子だった。彼は直接的な言葉をかけることはなかったが、虫を見るような目で私を見て、自分の机を私の机からそっと離した。余談だが、私は給食を食べるときも、班のメンバーから少し机を離されるのが常だった。
彼は教科書や下敷きで顔を隠し、私の顔を見ないようにしていた。
私の顔を視界にすら入れたくなかったのか。彼が本当に悪い人ではないことくらい分かっていた。クラスのムードメーカーで、明るい子だった。単に私のことが嫌いだったのだろう。やはり辛かった。

***

「お前ら、また隣なの?」
中学3年生。出席番号順に決められた味気ない新学期の席から、くじ引きによって決められた新しい席。そこで私は連続で同じ男子と隣になった。
休み時間に彼の友達の一人がそう言い放った。彼は野球部で活躍するクラスの中心人物だった。隣に座る男子も、運動神経が良く、クラスで存在感があった。
「かわいそうに」
ニヤニヤしながら私を見た後で、彼は隣の席の男子に同情を込めてつぶやいた。幸いにも、隣人は私の手前何も言わないでいてくれた。
ごめんなさい。本当は「連続で最悪だ」って言いたいよね。私が隣でごめんなさい。
私はうつむいて机の中を整理するふりをした。

***

高校2年生。くじ引きで決まった隣人は、中学3年間私をいじめてきた男子だった。すれ違いざまに「キモい」「くさい」と言われ、休み時間に描いていた絵を見られ「変な絵」とバカにされていた。
放課後、私は職員室へ駆け込み、「こういうことがあったのでどうか席を変えてほしい」と担任に頼み込んだ。途中で涙があふれてきた。情けない。もっと毅然とした態度で言うつもりだったのに。これじゃあ台無しだ。
担任は少し戸惑い、「そうか、わかった」とすぐに承諾してくれた。それから私は男子が隣になると、「前の人の頭で見えないので」などと理由をつけて女子の隣にしてもらえるようにした。後半はさすがに担任も怪しんだようだったが、一応希望は通った。
もちろん、意地悪な女子から嫌な顔をされたことがあるが、それはほんの子供の頃だけだった。中学に上がってからは、少なくとも私の前ではあからさまに嫌な顔はしないでくれた。陰で「あいつが隣かよ」と言われていた可能性はあるが。
高校2年生になって、ようやく私は席替えで悩むことがあまりなくなった。
ここにいてもいいよ、と許されたような気持ちだった。

***

教室という小さな世界の中で、自分の席は唯一の居場所であるはずなのに、そこが私にとっては安心できる場所ではなかった。いつだって隣人から嫌な顔をされていたし、いろんな人たちから嫌がられる私のことを、誰よりも私自身が嫌いだった。
私が○○ちゃんだったら。
嫌な顔一つされず、むしろ男子は優しい笑顔で挨拶をするだろうし、席を離されることもないだろう。隣の人と一緒に取り組む授業でも、邪険に扱われたり、無視されたりすることなく、和やかに進めることができただろう。
あの頃の私はそんな妄想ばかりをしていた。そして、なるべく気配を消して、隣人が少しでも嫌な思いをしないようにと振る舞っていた。何もかもが私のせいなのだから、と。
けれど、そんな風に振る舞っていた昔の自分を今では「よく頑張っていたな!?」とある意味感心してしまう。
そこまで卑屈にならなくても良かったのだ。確かに、私は男子から好かれるような要素が何一つない。
まず、男子に好まれるような容姿では決してないし、愛嬌も何もない地味で暗い人間だった。そのくせ、部活で仲の良い友達や後輩の前ではお笑い芸人のものまねを全力でやって笑わせる。
そんな姿は男子からすれば魅力的に映るはずが全くなく、むしろ不気味で気持ち悪いものだったと思う。
だからといって、おびえて縮こまる必要はなかった。彼らは私の隣になったことを罰ゲームや、被害者になったかのようにとらえていたけれど、私は彼らに何か悪いことをしたわけでもないし、むしろ酷いことを言われていた私の方が被害者だった。まあ、私の存在そのものが嫌であっただろう彼らにとっては、確かに自分たちの方が被害者だったのかもしれないが。

***

あの頃の私へ。よく頑張ったね。よく耐えたね。いつでも新学期の席替えは嫌だったよね。夏休みがずっと終わってほしくなかったよね。
色々嫌なことはあるけれど、何よりも「席替え」が待っていたから。
誰だって好きな人と嫌いな人はいる。今まで嫌な顔をしてきた人たちは、嫌いな私と隣になったのが本当に嫌なだけだったのも今なら分かる。
私だって嫌いな人はたくさんいるし、当時だってたくさんいた。でも、偶然決まった隣人から、あからさまに「お前かよ」オーラを出されて辛かったね。
あの頃頑張っていた私に、そして、8月31日の夜に私と同じような悩みを抱えながらも頑張っている(無理して頑張らなくてもいいし!)すべての人たちに、「偉い!」と伝えたいです。


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