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【第1回】北斎づくしバックストーリー【展示造作編】

こんにちは、北斎づくし運営です!

北斎づくしの裏話をにてお伝えする「北斎づくしバックストーリー」。

noteにて連載を始めました!

第1回はあの凄まじい北斎ワールドを表現している展示空間にまつわる裏話、【展示造作編】をお届けします!

インタビューは凸版印刷株式会社 文化事業推進本部の岸上剛士さんです。

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①ご担当を教えてください。

主催者として展示造作の制作進行を担当しました。具体的には空間デザインを担っていただいたATTA(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)の田根剛さんやスタッフとの設計検討を中心に、グラフィックデザインの祖父江慎さん達を交えた展示造作会議の主催、施工会社も含めた実施設計や費用の調整などを行いました。

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△施工の様子。

②特別展「北斎づくし」開催の経緯を教えてください。

きっかけは弊社メンバーと『北斎漫画』コレクターである浦上満さんとの出会いです。

凸版印刷文化事業推進本部は、かねてから文化財を扱ったデジタルアーカイブやそのデータを使ったコンテンツの開発を行っており、多くの文化財ホルダーの方々との出会いがあります。そのなかで10年ほど前に浦上さんとのご縁があり、世界的にも貴重な興味深いコレクションをぜひ多くの方に見ていただく機会を作りたいという発想から、約3〜4年前に展覧会の企画が生まれました。

そのような経緯でスタートした北斎づくし展は、浦上さんのご紹介でパリのグラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで北斎展の経験があった建築家・田根剛さんに参画頂き、その後ライター・エディターの橋本麻里さんやアートディレクター・祖父江慎さんなど、北斎を敬愛する豪華なメンバーが集結し、訪日される方にも体験いただきたいという思いで東京五輪が行われる2020年夏の開催に向けて始動しました。

しかしその矢先、COVID‑19の世界的流行で2020年の展覧会は延期に。開催が危ぶまれた北斎づくし展ですが、多くの関係者の協力を経て、昨年末に再始動をいたしました。

そこからはもう、怒涛の日々でしたが…
何とか2021年7月22日に開催を迎える事が出来ました!

③特別展「北斎づくし」へのこだわりや見どころを教えてください。

本展の大きな特徴としてあげられるのが通常の展覧会では考えられない規模の展示造作です。

今回展示する作品、特に『北斎漫画』『富嶽百景』そして読本や絵手本は、本来どれも手にとって読むことができる小さなサイズの本です。その作品それぞれの個性を引き出しながら、鑑賞に没入できるようデザインされた空間を是非堪能いただきたいです。例えば、天井から吊られたバナーを見て「北斎はこんな幽霊を描いていたのか!」と発見し、本物の作品とじっくり向き合っていただくなど、造作と作品との行ったり来たりも是非楽しんでいただきたいです。

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△『北斎漫画』が展示されている部屋

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△『富嶽百景』が展示されている部屋

美術館ではなく、通常はビジネスカンファレンス等に利用される事が多い六本木ミッドタウン・ホールの大空間を如何に北斎の作品に集中できる空間にするか、これは当初から田根さんを悩ませた課題でした。限られた予算や納期の中で、展示する北斎の作品それぞれの個性に合わせ、没入できる空間を実現するかという擦り合わせは、施工中も含めて開幕ギリギリまで行っていました。
北斎づくし最初の展示室は北斎漫画のコラージュに包まれた大空間ですが、広いホール壁面を覆っているのはポンジという、店舗ののぼり旗に使われるようなポリエステル生地なんです。これに絵柄をプリントして使おうというアイデアは、予算や施工の難問を実に軽やかに飛び越えてくれました。そんな造作上の工夫も感じ取っていただけたら嬉しいです。

読本の部屋も実に迫力のある空間に仕上がりました。ここは、特に弊社の印刷技術が発揮されている部屋でもあります。

わずか10〜20センチの本の中の図を、展示会場では壁いっぱいに印刷をする。それって結構大変なことなんです。祖父江さんという印刷知識に長けた方がアートディレクターに入り、かつ弊社には「グラフィックトライアル」という様々な印刷手法や限界に挑戦する取り組みを行なっている部署があるのですが、そこで祖父江さんと一緒にお仕事をした経験があるメンバーが入ってくれたことによって、力の籠もった展示空間を作り上げることができました。

作品を撮影するところから、壁紙やカーペットの素材に合わせて色味や細部の調子を細かく調整して全体のまとまりを作り出していく作業は、まさに職人技です。

インクジェットプリンターを使用しているのですが、こんなに綺麗に出力できるというのは、今回色々と実験して私も初めて知りました。

まさに印刷現場の力が展示空間の力強さに直結したと思います。

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△「読本挿絵」が展示されている部屋

④大変だったことはありますか。

2020年夏に向けた準備段階で、田根さんにはスマートなプランを既に描いていただいていました。再始動にあたり、本格的に会場デザインにも祖父江さんに加わっていただき、改めてどんな展示空間にしていこうかと議論が始まったタイミングがありました。「これはクリエイター同士の方向性がぶつかっているのかな!?」とドキドキしながら、その化学反応を忍耐強く待つという時期もありました。大変というよりは、そうした瞬間を御一緒できて光栄だったとも言えますね。

大きな方向性は、橋本麻里さんが「づくし」というコンセプトを提案してくださったところから、一気に纏まっていきました。展示造作会議を重ねていく中で、世界で評価されている偉人北斎というよりは、クスッと笑えるギャグセンスに満ちた人間臭い北斎の温もりを感じながらプランを詰めていく感覚も強まっていきました。それらがズバッとデザインに落とし込まれていくプロセスは実に痛快でした。進行上は本当にギリギリでしたが…。

施工費用も各方面で「づくし」が発生したので調整が大変でしたしね。笑

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△会場入口には『踊独稽古』(悪玉踊り)がお出迎え!思わずクスッと笑ってしまいます。


⑤イチオシの北斎作品は?

この展覧会を通じて今まであまり見たことがなかった『富嶽百景』に向き合う機会が増えました。特にピシッと稲妻が走っている「夕立の不二」はかっこいいなと思いました。雷がこっちに向かってくる感じがありますよね。

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△『富嶽百景』夕立の不二 浦上満氏 蔵

また、自分は建築都市が好きなこともあって、北斎が描いた可愛いタッチの街並みに惹かれました。これは櫓ですかね?お城が好きなんですよ、私。

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△『北斎漫画』四編 浦上満氏 蔵

⑥これから「北斎づくし」にご来場される方に向けて

個人的に、最初の北斎漫画の部屋は情報量が非常に多いにもかかわらず、なぜか落ち着いて感じられます。それはもしかすると、北斎が生前過ごしていた絵に囲まれてとっ散らかった空間とリンクしているからかもしれないとも思います。

ぜひ、北斎の頭の中に飛び込んだつもりで展示会場をお楽しみください!

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インタビュー:岸上剛士(凸版印刷株式会社 文化事業推進本部)                  編集:三澤(北斎づくしSNS担当)


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公開期間▶︎2021/9/23(木)-10/10(日)

公開場所▶︎展覧会公式サイト https://hokusai2021.jp/special/

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