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心中事件発生!(後編) ~菩薩がしたこと

保険金の受取人がなくなった場合、「受取人の相続人」に権利が移る。相続人は複数存在することもあるので、特定をする必要があるが、その作業はお客様の責任である。心中事件に遭遇した菩薩がどのような対応をしたのか、そこから見えてくる保険金の持つ意味とは何なのかについて考える。


▶前回の復習

※前編はこちら→https://note.com/hokenbosatsu/n/nf3799ec3bc11

生命保険に入っていた息子さんがお母さまと「親子心中」をしました。保険の担当者である私は、保険金を受け取るべき人に渡さないといけません。けれども、契約上の受取人であるお母さまは亡くなっています。この場合、「受取人の相続人」、つまりお母さんの相続人に保険金を受け取る権利があります。お父さんが相続人であることは確実です。でも、保険会社はそれだけでは、保険金を支払えません。相続人が他にもいる可能性があるからです。

関係図

▶受取人が亡くなったら、どうする?

生命保険に加入するとき、保険金の受取人を指定します。死亡保険の場合、通常、保険に入る本人(被保険者)以外の親族を指定します(法人で契約する場合は、法人になることもあります)。被保険者が亡くなると、指定された受取人が保険金を受け取ります。受取人はひとりに限られるわけではなく、たとえばAに50%、Bに50%というように複数の受取人を指定することも可能です(保険会社や保険種類によって取り扱いは違うかも知れません)。
 
このケースでは、受取人が亡くなり、受取人は「お母さんの相続人」となりました。受取人が特定されていない状態です。お父さん以外に相続人がいれば、相続人全員が保険金を受け取る権利が発生します。なので、相続人を確定させる作業が必要です。具体的には、お母さんに他の相続人がいるのかいないのかを確認します。つまり、お母さんに他に子どもがいないのかを調べないといけません。
 
では、どうやって調べればよいのでしょうか?
戸籍を取り寄せます。ただし、いまの戸籍だけでは十分ではありません。お母さんがお父さんと結婚すると、戸籍が新しくなるので、過去のことはわかりません。過去の分まで調べるために、お母さんが産まれてからの戸籍をすべて取り寄せます。 

▶保険金をお渡しするまで、けっこう大変(汗)

なかなかたいへんな作業です。
しかし、この作業はすべてお客様の側で行ってもらいます。保険会社の保険金担当(営業担当ではない)は、必要な書類を提出するように指示はしてくれます。でも、実際にやってはくれません。保険会社は保険金を支払うのが仕事、保険金を支払うための書類を整えるのはお客様の仕事、という立場だからです。
 
今回は、お父さんが書類を整える役回りです。
しかし、大きな問題がありました。お父さんは70歳を越えていて、足が不自由なのです。買い物に行くのも大変で、役所まで行って戸籍を取り寄せる、さらに別の役所に手紙を出して、戸籍を取り寄せるというのは、とうてい無理な感じです。法律の専門家に頼んで、戸籍を取り寄せるということもできますが、お金がかかることです。
 
こうなった選択肢はひとつ。
私が全部引き受けました。
 
新宿から埼玉県の所沢市にお住いのお父さんのお宅にうかがいました。そこで、委任状に署名捺印をいただき、その足で数駅先の役所まで出向き、現在の戸籍を入手。それとは別に、結婚前のお母さんの戸籍がある役所に、郵送で戸籍を送ってもらうよう依頼します。お母さんに他の相続人はいませんでした(一安心)。すべての書類を整えて、会社に提出。お父さんは無事に保険金を受け取ることができました。ボランティア活動でしたが、自分の役割は果たせました。 

▶保険金のやり取りが持つ意味

保険金の受け渡しは、保険のしくみの中で、最も重要な瞬間です。保険に加入したご本人やご家族は、病気や死亡といった事態に直面しています。精神的にも普通の状態ではありません。前回お話しした消防士の例でいえば、火事が起きている状況です。火事が起きているのなら、最初にしないといけないのは、「人を救助すること」「火を消すこと」です。保険にあてはめると、保険会社と担当者の仕事は、受け取るべき人にすみやかに保険金を渡すことです。いろんな手続きに煩わされるのは、本末転倒です。
 
少し前の話になりますが、生命保険業界で「保険金の未払い問題」がありました。本来払うべき保険金が払われていないケースが数多く見つかり、保険会社は過去にさかのぼって、払うべき保険金を確認することになりました(手作業なので、保険金の部署に大量の人を移動させて対応)。その教訓から、保険金の支払いもれを防ぐために、保険会社は以下の2つの方向で対応しています。
 
1)お客様がネットでも保険金の手続きができるように、DX化をすすめる
2)担当者を介さず、お客様と保険会社で直接やりとりをする
 
ネットを使えるのはよいと思います。担当者を介さないことで、書類の提出忘れがなくなり、保険金を受け取るまでに日数が短縮されるのはよいことです。
 
ネットでの保険金請求は、私もやったことがあります。たしかに便利だとは感じましたが、ある程度保険の知識がないと、難しい気がします。たいていのお客様は電話すると思います。担当者を介さないことで、事務的にスムーズになるのはわかりますが、お金のやりとりだけを重視している感じが否めません。
 
菩薩としては、このような対応が悪いとは思いませんが、ちょっと寂しさも感じます。
 
保険会社の側からみると、お客様が保険に加入して、掛け金を払ってくれたということは、お客様が自分たちを信頼してくれたという証(あかし)です。保険は、お金だけ払って一円も戻ってこないことがあるので、一歩間違えると「詐欺」そのものです。
 
それでも、保険会社はいろいろと信頼を積み重ねて、それをお客様が認めてくれたから、保険に入るわけです。お客様の信頼に対して、保険会社は安心を提供し、保険金を払うことで信頼にこたえます。そうだとしたら、「信頼にこたえるためのかたち(姿勢)」も重要なのではないでしょうか。これまでの信頼にこたえ、担当者がきちんとお礼を述べ、受取りまでの責任を果たす。人と人とのつながりを大事にすることは、忘れないで欲しいと願います。
 
大事なことなので、この話題はこれからもちょくちょく取り上げます。
感想やご意見、お待ちしてます。

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