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心中事件発生!(前編)~どうする菩薩?

生命保険の募集人にとって最も大事な仕事は、保険事故への対応です。では、実際に事故が起きたとき、募集人はどのような対応をするのでしょうか。菩薩が経験した事例を紹介します。


▶保険で最も大切な仕事とは?

ちょっとした、なぞかけをしましょう。
「生命保険の募集人*とかけて、消防士と解く」(*セールスマンのこと)
「その心は?」
「ほとんど平穏、でも、いざというときは全力対応」
 
生命保険の募集人にとって重要な仕事とはなんでしょう。
売り上げを上げること?いっぱい保険に入ってもらうこと?
たしかに大事な仕事ではあります。
 
でも、いちばん大事なのはお客様。
保険に入るお客様の立場からみたら、どうでしょうか?
お客様が最も望んでいるのは、「自分や家族に何かあったときに、きちんと対応してもらうこと」です。保険は安心を提供しているのですから、ここは絶対にはずせないところです。
 
しかし、実際には、病気や死亡といったケース(保険事故)は、あまり起きません。生命保険は、原則として健康な人しか入れないので、すぐに何かが起きるということはないのです。ただし、もし事故が発生したら、全力で対応しなければなりません。事故が発生しているときは、お客様にとって緊急事態。そのときに担当者があたふたしていたら、お客様をさらに不安にしてしまいます。緊急事態だからこそ、万全の対応をすることが、保険の募集人には求められています。
 

消防士さん、ありがとう

「保険の募集人は、消防士みたいなもの」という話をよくします。火事はめったにおきません。しかし、もし火事になったら、消防士はすぐにかけつけ、最善の対応をします。そのために、彼らは普段のトレーニングを怠りません。私たちが見えないところで、地道な訓練を積んでいるからこそ、私たちの生活が守られています。自分自身は、保険に関わる人として、彼らと同じように「縁の下の力持ち」でありたいと思っています。

 

▶何でもない日の一本の電話

ある何でもない日のこと。
「トゥルル~、トゥルル~」
内線の電話が鳴ります。
「菩薩さん、〇〇さんからお電話です」
 
オフィスで事務作業をしていたとき、電話がありました。名前に聞き覚えがなかったので、「誰かな?」と思いながら、電話をとります。年配の男性の声でした。
 
「息子が亡くなったので、保険金の手続きをお願いします」
 
その息子さんは、もともとは別の担当者から保険に加入したのですが、その後担当者が退職したため、私が契約を引き継ぎました(当時のルールでは、引き継いでも私には報酬はありません)。息子さんにも、そのお父さんにもお会いしたことはなかったので、思い出せないのも無理はありません。
 
お父様のお話をうかがうと、息子さん(40代)はお母さん(70代)と、車の中に排気ガスを引き込んで亡くなられたとのことでした。「親子心中」です。お父様は、奥様とお子様を同時に亡くされてしまいました。さぞお辛いと思ったのですが、受話器から聞こえてくるお父様の声は、どこか淡々としていました。「突然の出来事ではなく、起こるべくして起きた」と受け止めていらっしゃるように感じました。
 
私にも少し思い当たることがありました。保険の契約者である息子さんに、引継ぎのご挨拶でお電話しました。少しお話しできたのですが、「あとは母と話してください」とおっしゃって、会話が終わりました。その後、保険については、いつもお母様と電話でお話をしていました。不思議な感じがしました。40代の男性が、自分のことをお母さんに任せていたので。
 
息子さんは結婚したときに保険に加入したようですが、その後離婚をされて、ご両親と一緒に暮らしていました。お母さまからはっきりとは聞くことはありませんでしたが、離婚後、おそらく精神的な問題を抱えていたのでしょう。その姿をいちばん近くでみていたお母さまが、子どもを思う気持ちから、心を決められたのだと思います。 

▶誰が保険金を受け取るの?

ここからは保険の手続きの話です。
息子さんの加入していた保険の契約形態は以下のとおりでした。
被保険者:息子さん
受取人 :お母さん
なお、息子さんにきょうだいはいません。 

関係図

通常、保険金は受取人が受け取ります。しかし、この場合、受取人であるお母さんも同時に亡くなっています。「被保険者、受取人同時死亡」というケースです。心中以外にも、自動車事故や飛行機事故、火事や震災などの災害では、同時死亡のケースが発生します。
 
ここで問題です。
この場合、誰が保険金を受け取れるのでしょうか?
 
普通に考えると「お父さん」。
それしかないですよね。
正解です(ひっかけ問題ではありませんでした)。
ただ、その根拠が問題です。
お父さんが保険金を受け取れる根拠は何でしょう?
 
可能性は2つです。
①お父さんは、被保険者である息子さんの相続人だから
②お父さんは、受取人であるお母さんの相続人(配偶者)だから
 
保険のルール上、保険金を受け取れるのは「受取人」です。
では、受取人が亡くなっているとしたら、誰が保険金を受け取るのでしょう。それは「受取人の相続人」です。ということで、答えは②です。
 
話はまだ終わりではありません。お父さんがお母さん(妻)の相続人であることは間違いないでしょう。けれども、お母さんの相続人はお父さんだけですか、という問題があります。他に相続人はいませんか、という話です。
 
保険金の支払いについて、保険会社の手続きは厳格です。お父さんが相続人だからといって、すんなりと保険金を支払うことはありません。お父さん以外に本当に相続人がいないのかを証明しないといけません。
 
思ったより長くなったので、今回はここまで。
続きはすぐに書きます。
それでは。

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