彼の実家
彼の実家は、街中の大きな家だった。
玄関を開けると、制服を着た女の子が「お兄ちゃん、お帰り!」と出迎えた。
「あ、これ妹。高校生。」
彼は私を簡単に紹介すると、妹は少し冷たい目でこちらを見てから、
「ふーん。どうも。それより、お土産なあに?お兄ちゃん!」
と、彼の腕を組んで居間へと連れて行った。
畳が敷かれた広い居間には、祖母がいた。
祖母はかなり高齢で、あまりしゃべることはなったけれど、私を見てニコリと微笑んでくれた。
笑いが絶えない、とても明るい一家だった。
私は、テレビのホームドラマのような家庭に、どう振る舞っていいか分からずに戸惑った。
一家団欒の邪魔をしては迷惑だろうと、理由をつけて二階の彼の部屋に引っ込んでいると、階下から声が聞こえた。
「大人しいお嬢さんだねえ。大丈夫?お前がいいなら、いいけど」
「同棲はいいけど、結婚はちょっと待て。子供は作るなよ」
廊下で会った妹は、ちょっと怒ったように小さな声で言った。
「お兄ちゃんが優しいからって勘違いしないでよね。お兄ちゃんは誰にでも優しいんだから」
自分に自信がなかった私は、嫌われたと思って一人、涙した。
自分はこの素敵な家族に受け入れられる資格はないんだ。
それでも彼らは、彼の前では私に対してフレンドリーだったし、
彼も楽しそうだったので、何も言わなかった。
それに私も、彼が好きで一緒に住みたいというよりも、東京に残りたい下心の方が強い後ろめたさがあった。
何はともかく、同棲は認められた。
保証人の欄に書かれた、東京でも名を知られた父親の会社名は、強力だった。
「へー、お父さん、あの会社の?じゃあ何も心配ないね」
私達は婚約者として、アパートを契約した。
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