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【第12話】職員観が変わる②

それぞれのグループは、ぎこちなさがありながらも、相互紹介に取り組んでいた。時には真剣に聞き入り、時には笑いが起こり、会場には和やかな雰囲気があった。

研修が始まった当初の緊張感はどこかに吹き飛んでいた。

半ば強制的に自分のことを開示させられるため恥ずかしさもあるが、グループのメンバー全員が同じ経験をするため、「お互い様」という感覚が生まれる。対話とは、結論を出すことだけが重要なのではない。メンバー間で同じ時間や感情を共有することで一体感を感じることができ、それが関係性の向上につながる。


他己紹介の後は、グループごとに模造紙に自分たちの理想の園のイメージを描いていった。模造紙の上には、ユニークな表現方法が見られた。色マジックを使って、イラストで表現したり、文字のフォントや大きさを変えたりして印象を変えるなどの工夫をしているグループもあった。グループごとに模造紙を使った発表があり、話し合いの成果を全体で共有した。最後に「チェックイン」を行ったペアに戻り、今回の研修の感想や気づきを共有して終わった。その時には、栗田がマイクを使って話しかけても、なかなか話し合いをやめようとしない職員の姿もあった。


研修終了前後で、順子の職員に対する見方に少なからず変化があった。一人ひとりの職員が、あんなにも保育への思いを持ち仕事をしていたこと、そして、その思いを他者に対して語れる力があるとは思わなかった。だからこそこれまでは、一方的に園長や主任として指示や決定を伝えたり、問題があれば代わりに解決してあげなければならないと考えていたのだ。


順子は、先日の2歳児クラスでの出来事を思い出していた。子どもであっても、一人の人間として思いを持っている。ただそれが上手く表現できなかったり、表現する機会を与えられていないだけなのだ。あの時自分は、陽菜と莉子がお互いに、言葉にできなかった相手の思いに気づいてほしいと思っていた。だから二人の気持ちに寄り添い、子ども同士がつながる役割を担おうとしていたのだ。


そして、それは職員も同じ。今まで職員の話を聴いていたのは自分だけで、職員が相互に知り合う機会がこれまでほとんどなかったことに順子は気づいた。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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