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【第39話】リーダーが変わると職員が変わる③

さて、二人のリーダーとの話し合いでは、職員同士の対話の機会を増やそうということになった。

ただ、これまでも順子は対話の必要性は感じていて、その機会を確保しようとしてきたのだが、事務や雑務が多くそのような時間を確保できていなかったのである。

すると幼児リーダーの飛田が、園内で行っている会議の一覧を作ろうというアイデアを出してくれた。乳児リーダーの滝本とも相談し、一覧には、参加者、必要な時間を入れていった。


自分たちの取り組みにまだ自信がなかった順子は、電話で自分たちの取り組みを栗田に報告した。すると栗田は、その新たな取り組みについて絶賛した。

「見える化するのはとても良いことですね。一覧を園長も含めて4名のリーダーで眺めてみるといろいろな発見があると思いますよ。あと、一覧に『会議の目的』や、『園内研修』など、人が集まる機会はすべて入れるようにしてみてください」


たしかに栗田の言う通り、一覧にして4人で眺めてみると、多くの気づきが得られた。


「会議の多くが情報共有の時間で終わっていますね」

と飛田が発言する。

「なんだか、ちゃんと情報共有しないと不安になっちゃうのよね」

と、油井園長が頷きながらつぶやき、滝本と飛田は共感し頷いた。順子だけは油井園長から「不安」という気持ちがオープンに語られたことに驚いていた。
普段から職員の退職に関しては不安そうにしていても、自分の気持ちを言語化することはなかった。順子は少しそれを寂しく感じていたのだが、滝本と飛田の前でそのような話をすることがとても以外だったのである。


滝本は「はい」と手を挙げた。なんとなく順子が「どうぞ」と促す。

「そうですよね・・・。特に保護者への伝達事項などがおろそかになるのは私も不安です。なので、私のクラスでは、常勤の職員がパートの職員に伝え、パートの職員に私が確認するという取り組みをしています」

「えっ、それってどういうこと?」今日の順子は驚いてばかりだ。そのような工夫をしているという話は始めて聞いた。

「以前、常勤の職員では情報共有ができていても、パートの職員ができていないことがあったんです。でも、延長保育の時間にパートの職員しかいなかったことがあって、伝え漏れが起こって・・・。それから特に大切な情報は、パートの職員にも伝えるようにして、伝わったかどうかを私がパートの職員に確認するようにしているんです」

「それいいですね。他のクラスでも同じような取り組みはできないでしょうか?」飛田は前のめりになって、声も大きくなっている。

「良いと思うわ。どのクラスでもその取り組みができれば、今よりも情報共有がしっかりできそうね」

油井園長がこの場にいることで、意思決定が即時にできる。滝本のクラスのやり方を参考に、情報共有の仕方について職員会議で職員からアイデアを出してもらうことになった。


順子は滝本や飛田が油井園長の前で発言できるかどうか心配だったが、杞憂に終わった。

会議の目的が明確だと発言しやすくなるのかもしれない、と順子は思った。そういえば普段やっている会議は、目的が明確に共有されていないのかもしれない。

「会議の最初の時間に、会議の議題や目的をしっかり共有することをしてみてはどうでしょうか?」と順子は提案した。三人の顔がこちらを向く。自分の伝えたい内容を正確に理解してもらうためには、丁寧さが求められるな、と順子は思った。

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