LGBTが理解できない人へ ー 同性愛は生物進化の一部なんだから偏見を持つな
先日、ずんと落ち込んだ出来事があった。
それはアルバイトから帰ってきたお昼のこと。自宅でお昼ごはんを作るとともに観られる動画を、Youtubeで探そうとしていた。
アプリを開くと、チャンネル『Asian Boss』がアップした動画がおすすめ欄にあった。このチャンネルでは、アジア各国の最新ニュースや社会問題、タブー、トレンドをお題に、街頭の人々やスペシャリストにインタビューしていて、各国で今何が起きているのか、国民はどう思っているのかが垣間見られる。遠く離れた異国に住むわたしは、日本人の真の意見が聞ける手段として気に入っているチャンネルでもあります。
おすすめされた最新動画を観終わったあと、過去にアップされた動画を一通り目を通すと、「LGBTに関して、日本人はどう思うか」というお題の動画も作られていた。2017年4月、大阪市が30代と40代の男性カップルを里親に認定したことを受け、街頭の人々はどう思っているのかをインタビューしている内容だった。
「日本人は実際、同性愛に対してどう思っているのだろう?」
日本に住んでいたころは、友人らとこの議題に関して話したことがないし、LGBTコミュニティに属する人とも知り合ったことがなかった。興味本位にポチッとクリックしてみる。
「ふつうの家庭は、母親がいて、父親がいて、子どもがいるわけでしょ?」
「母親だけか、父親だけの家庭というのは、おかしくない?」
「子どもができたら、異性が好きになるように育ってほしい」
あたかも毛嫌いする否定的な意見に、ハッとする。性別はどうであれ、人を愛することに批判するなんてどういうこと? 親を必要とする幼い子どもを育てたいだけなのに……と、少々憤りまで感じてしまったほど。もちろん動画内には肯定的な意見もあったが、LGBTに対して偏見を持つ日本人がいるのは事実のようだ。このような日本の「今」に、観終わったころには肩が落ちてしまった。
特に、
「男女の間で子どもが生まれてくるのが、日本では当たり前」
「男がいて、女がいて、人類が相続しているわけですよ」
「どちらかが欠けたら、人類が滅亡しちゃう」
など、生物的な観点から述べられた意見たちに、わたしどうしても違和感を覚えてしまった。何を思ってこの人たちは、そう偏見を持っているのだろうかーー。
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ひと昔、このようなネット記事を読みました。
それは、新書『オスとメスはどちらが得か?』の作者で静岡大学農学部教授の稲垣栄洋が書かれた記事。
稲垣氏によると、生命が誕生した38億年前は、性別の区別がない単細胞生物が単細胞分裂を繰り返しては個体を増やしていった。やがて、似た性質の個体が増えていくよりも、性質の異なる個体を増やしていったほうが生物種として生き残っていくには有利なので、メスとオスが遺伝子を交換することによって、バラエティに富んだ子孫が産まれるような生態へと変化したという。
メスとオスの確立は卵子と精子のように、栄養分を豊富に持ち、遺伝子を受け取って子孫を残す大きな配偶子と、移動能力が高く、遺伝子を運ぶだけの小さな配偶子のそれぞれが発達した結果によるもの。最初からオスの個体とメスの個体とが作られたわけではなく、もともと生物に作られたのは、生殖細胞としてのオスの配偶子とメスの配偶子であると付け加えている。以前読んだことのある『ルリボシカミキリの青』(福岡伸一・著)にも似たような内容が記されていたので、このことについてはかすかに頭の片隅に残っていた。
ようは、生命誕生時には性別がなく、次第に何億年もの歳月を経て、メスとオスという概念が確立。その間には子孫(こども)が誕生し、また何世代にも渡って現在に至っている。
だが、進化は止まることはありません。20億年前の当時の小さな単細胞が、人間が発達した脳や自由に歩き回れる足の持ち主になることは想像もしていなかったと同じように、わたしたちも想像ができない何億年先まで、生物はこつこつと流動的に変化し続けるのだ。そしてその変化のひとつは、まさに目の前に見えている。
女が女に対し、また男が男に対し特別な感情を抱き、性的に魅力を感じるということ。
自分自身を異性の性別で定義するということ。
自分自身をどのような性別にも定義できないということ。
わたしたちはまさに、生物の歴史において変化が著しい時代に生きているのだ。
同性を愛する者から、動画に出ていた人が言うような異性を愛する「ふつう」な者が共存する、多種多様なこの時代にーー。
わたしは、自分自身のことを「女性」と定義し、「男性」に対して好意を抱くストレート。男性としか付き合ったことがなく、今でも男性であるスイス人の夫と暮らしています。
スイスで知り合った仲のいいアメリカ人は、自分自身のことを「男性」と定義し、男性としか付き合ったことがないゲイ。
また夫の仲のいい女友達は、自分自身のことを「女性」と定義し、男性と女性の両方と付き合った経験があり、現在は女性に魅力を感じているバイセクシャルだ。
共通祖先から人間、サル、ゴリラが派生していったように、人間もさまざまな性カテゴリーへ派生している。性の多様性はある種、生物が進化し続ける上で起きることに驚く必要はないと個人的に思うのです。
だから「生物学的に意を反している」という理由でLGBTに偏見を持つことは、生物進化を完全に無視していることに等しいのではないでしょうか。パソコンが使えない犬に対して偏見を持つと同じくらい、変だと思う。
それに、2020年では同性同士で子孫は作れないとしても、また何億年後には可能になることだって十分にあり得る。20億2020年に生きる人間(あるいはそれらしき生物)が2020年に生きるわたしたちを振り返って、「女と男がセックスして子どもを産んでいたなんて、変なの!」と気持ち悪がられるかもしれない。もはや子どもなんて誕生することすらなくなるかもしれない。過去から言われ続けていた「当たり前」にしがみつき、その意見を頑なに押し付けることは正直、自分勝手なのではないでしょうか。
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街頭インタビューに加えて、当チャンネルは「LGBT関して、日本のLGBTはどう思うか」も製作しており、重い肩を抱えながら合わせて観てみた。
苦難苦悩は拭えないながらも、LGBTコミュニティに属する人にとって、日本社会は少しずつ待遇がよくなっていると述べていた。
動画が製作された2017年から3年が経った今でも、港区が制服など性別表現の自由・尊重する条例案を提出したほか、同性パートナーシップ制度を導入する自治体が増え続けている。日本も多様化が進む現代に追いつこうとする姿勢が見えてきたのは、ストレートなわたしにしても喜ばしいことです。
とはいえ、偏見的な目を持つ人や、差別的な態度を取る人がまったくいなくなるのは、残念ながら難しい。少なくとも、LGBTは生物進化の一部なんだから、あたり強くする必要はないと大きな声で言いたい。
LGBTのあなた。
もし誰かがあなたを批判するような人がいたら、思いっきりこう言い返して欲しい。
「わたしは生物の歴史を変えている張本人なんだから、そうつべこべ言うな」とーー。
あなたは決しておかしくはない。
過去から言われ続けていた「当たり前」にしがみついている人が、おかしいだけなんです。
自分が自分であること。そのことに対して誇りを持ってほしい。