オタク文化と就職氷河期世代

 私はこれまでオタク史を調べていて、体感的に「オタク文化と就職氷河期世代には何かつながりがあるな」と思う事が多々ありました。これは空気感のような物なので、今後はそのニュアンスが失われていくだろうと思われます。ですので、今回は就職氷河期世代がオタクに与えた影響を考えていきたいと思います。

 まず、就職氷河期世代とは1993年~2005年に社会に出た世代で「ロスジェネ世代」「団塊ジュニア」とも呼ばれます。この世代は高校・大学の卒業直前にバブル景気が崩壊したため反動で求人倍率が非常に悪く、就職活動にとても苦労した世代です。就職難のためブラック企業に入社してしまったり非正規雇用を余儀なくされた人も多く、当時の日本社会は今以上に転職が難しかった事もあり、氷河期世代は現在でも苦しみ続けている世代だと言えます。
 氷河期世代についても本来なら参考文献に当たるのがスジでしょうが、本筋とはズレるのですみませんが詳しくはWikipediaの内容を御覧ください。
 就職氷河期の中でも山一証券破綻の後で最も景気の谷だったのが1998年~2002年なので、今回はその中間の2000年に大学を卒業した人の人生を追体験しようと思います。

・誕生~幼児時代 1977~1982
 2000年に大学を卒業するという事は1977年4月~1978年3月に誕生したという事なので、氷河期世代のXさんは1977年誕生としましょう。戦隊ヒーローは75年からゴレンジャーが放送されています。78年に銀河鉄道999、79年にガンダム、81年にうる星やつらです。この辺りの文化は氷河期世代の上のバブル世代か、氷河期でも70年生まれぐらいの世代が愛好する文化だと言えるでしょう。
 Xさんが幼稚園児だった頃はDr.スランプ・キン肉マンなどジャンプ黄金期のコンテンツを好んだでしょう。また、特撮ではギャバンのような宇宙刑事シリーズが始まりました。戦隊ヒーローではゴーグルファイブ・ダイナマン・バイオマン等が放送されていました。「ひょうきん族」や「笑っていいとも」が放送開始されるなど、テレビ文化も絶好調です。

・小学生時代 1983~1989
 1980年の日本のGDPは256兆円であったが、85年に340兆円、90年に461兆円と日本経済は爆発的に成長しました(ちなみに97年に543兆円まで成長した後は22年までほぼ横ばい)。当時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるほど日本が明るくて力強い時代であった事をまずは押さえておきましょう。
 Xさんの小学校時代で最大のトピックスは83年にファミリーコンピュータが発売された事です。Xさんはファミコン少年として大いにゲームに熱中した事でしょう。86年には初代ドラゴンクエストが発売されたので完璧にドラクエ世代です。漫画は北斗の拳にドラゴンボールとジャンプ黄金期です。
 アニメはロボットアニメが沢山放映されているんですが、エルガイムやZガンダムのように「ちょっと大人向けかな?」と思うような作品が多いです。これら作品はXさんより数歳年上(74年生まれぐらい)がハマったかもしれません。Xさんはハマらなかったかもしれませんし、あるいはガンダムでもSDガンダムの方にハマったかもしれません。
 84年にナウシカ、86年にラピュタなんですが、多分当時の小学生では存在に気づけなかったと思います。氷河期世代のオタクで「ジブリを見た事がない」「ジブリは嫌い」という人がいたとしても全く不思議ではないでしょう。
 改めて見返すと、ファミコンやジャンプのように「王道!」を強く感じさせる時代です。この時期の子供文化が輝いていた事は団塊ジュニアの人口の多さと関連があるかもしれません。コンテンツに恵まれた小学生時代だったんだなと思いました。(リーマン世代の僕も90年代楽しかったけどね)

・中学生時代 1990~1992
 1988年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発生したので、この時期から一気に「オタク=犯罪者予備軍」というイメージが付きます。Xさんはちょうど中学生に突入したのでここでオタク趣味を捨てるか、それともオタク趣味を貫いて迫害されるかの選択を迫られます。
 ガンダムシリーズが終了して劇場版やOVAのみなってしまい、ロボットアニメは勇者シリーズのように小学校低学年向けになってしまいます。他のアニメもちびまる子とかクレヨンしんちゃんとか幼児~小学生向けばっかり。中学生にもなれば特撮も卒業しますし。ネットも無い時代です。これは辛い!ナディアとセーラームーンで凌ぐぐらいしか思いつきません!もしもXさんがオタクであれば、この時期は被害者意識を募らせていた時代かもしれません。
 この時代の救いはゲームです。スーパーファミコンやメガドライブが発売され伝説級の名作が大量に発売されました。ゲームセンターでは91年にストリートファイター2が稼働し初めて格闘ゲームが大人気。当時中学生だった人は対戦に熱中した人も多かったかもしれません。Xさんの中学時代はゲーオタ天国アニオタ地獄ですね。
 余談ですが、80年代末にオグリキャップという馬が大人気になったため90年代には競馬ブームが発生します。

・高校生時代 1993~1995
 ガンダムシリーズが復活し、エヴァも放送され、その他アニメも佳作が増えてくる時期です。氷河期世代で腐女子の方はそろそろアップをしだす頃でしょう。が、男性オタクはまだ「萌え」が発明されていないので高校生のXさんは悶々としていたかもしれません。パソコンを入手するのも難しかったでしょうし。ときメモをやっていたのかな?
 もちろんゲームもプレイステーションやセガサターンが発売され未だ絶頂期です。想像してみるに、思春期にこんなものすごいコンテンツをぶつけられたら、そりゃあオタクになるよなという気持ちがします。何かとんでもない事が起きるかもしれないというワクワク感を持って高校生活に突入していたんですね。まだバブル崩壊はそこまで実体経済に影響を与えていません。

・大学生時代 1996~2000
 アニメはエヴァブームの熱気がまだ続いていて佳作がどんどん出ています。ゲームはもちろんFF7を筆頭に名作の嵐。漫画は少年マガジンがブームでGTOやはじめの一歩のように青年でも楽しめる作品が人気。漫画だと「ラブひな」、ゲームだと各種恋愛シミュレーションゲームやサクラ大戦が出てきてオタク的価値観の作品も広まり始めます。当時ジャンプからマガジンに覇権が移ったのは、氷河期世代の成長も理由の一つだったのかもしれません。

 Xさんは大学生になったのでパソコンを買ったでしょう。という事はアダルトゲームもできるしインターネットで海外のエロサイトを見るのも自由というわけです。オタクのXさんにとっては毎日が楽しくて仕方なかったでしょう。この当時の大学生オタクのイメージとしては、時代は5年後になってしまうんですが木尾士目「げんしけん」が参考になるでしょう。
 しかし、1997年には金融危機が起き日本経済は瀕死状態になります。Xさんの大学生活終盤は就職活動に苦しめられたでしょう。
 ここで私が気づいたのは、団塊ジュニア世代が20歳ぐらいになると同時に「萌え」が発明されている事です。「萌え」という物は意識的では無いでしょうが、団塊ジュニアという人口ボリュームに対して「エロ」をぶつける事を狙ったムーブメントだったのかもしれません。

・社会人20代~30代初頭 2000~2006
 氷河期世代がテーマの記事なのでXさんはフリーターになったと仮定して歴史を見ていきましょう。この辺りは深夜アニメや萌え作品がバンバン繰り出されていた時代です。ローゼンメイデンのように今では風化した作品が多いです。ガンダムはSEED。漫画はワンピース・ナルトなど第二次ジャンプ黄金期が始まる時代です。ゲームはプレイステーション2が主流の時代です。ソロプレイのゲームが主流ですが、当時社会人なりたてならラグナロクオンラインやFF11のようなMMORPGにハマっていた人も多いかもしれません。
 Xさんはフリーターになりましたが、まだ幸福度は高かったんじゃないかと思います。理由として、当時のオタクの「深夜アニメを見て感想を2ちゃんねるにカキコしたり、ゲームをしたり」という生活にはあまりお金がかからないからです。当時のインターネット空間は物凄い熱気があり、これは氷河期世代がネットを手にして、20代の熱意や行動力を爆発させたんだろうと思います。
 結婚もまだまだ先の話だし、小泉純一郎内閣も大人気でした。まだ未来への希望がかすかに残っていました。当時は20代向けの作品が沢山でて、それをネットの仲間と楽しんでいる内にいつの間にか時間が過ぎてしまったんだろうと思います。この頃、ゴールデンタイムにアニメ作品が無くなったように記憶しています。オタク文化と子供文化がズレ始めた時期でした。

 当時私は高校生だったのですが、高校の図書室にラノベが沢山置かれていた事を覚えています。ハルヒやブギーポップを一応手に取ったのですが、なんだかしっくり来なくて、斜に構えていた私は町田康や舞城王太郎や筒井康隆を読んでいました。今にして思えば、ああいったラノベ群は高校生のための物ではなく、大学を卒業した人が高校時代を懐かしむために読むものだったのかなあと感じました。例外的に「ダブルブリット」というマイナーなラノベがあって、それの1巻はすごく好きでした。

 2007~2009ぐらいはゼロ年代の続きであまり変わらないです。らきすたや超電磁砲のような秀作も多いですし、そうしたアニメを実況するのは楽しかったでしょう。2006年以降はオタクブーム・アキバブームになり、メイドカフェが出来ました。メイドカフェも当時の氷河期世代をターゲットにした業態だったのかもしれません。

ラノベは何度も言いますように10代の中盤から20代の前半が読者ターゲットです。そして巨大な人口の塊である団塊ジュニア世代が大人になった時に大きく市場も落ち込んだはずなのです。そこで20代のもてない中年向けに「萌え」という2次元の彼女を用意することで市場減を繋ぎとめた。それが2003年頃の光景で氷河期世代は現実と戦うのではなく「逃げる」を選択したのです。

ラノベは氷河期世代と共に去っていくのか カクヨム 「らんた」氏 近況ノート

・30代前半~中盤 2009~2014
 09年のリーマンショック、11年の東日本大震災でフリーターのXさんの生活は非常に苦しめられます。Xさんも派遣村に並んだかもしれません。また、昔はパワーハラスメントという言葉も無く、ブラック企業やサービス残業という言葉もネットでの隠語扱いだったので、正社員の氷河期世代も嬲られっぱなしでした。
 そうした社会病理がアニメ作品に現れます。震災から数年後のアニメを見ると、ごちうさのようなまんがタイムきらら的な日常系アニメが増えていきます。これはゼロ年代の萌え≒性欲から10年代の日常系≒癒しへと氷河期世代がアニメに求めるものがシフトしたのだと考えられます。

 また、氷河期世代はこの時期にゲームへの興味を喪失したと考えられます。2006年にプレイステーション3とWiiが発売される訳ですが、それ以降の時期はSFC~PS1の頃に発売されたソフトがどんどんマンネリ化していく時期でした。日本製ゲームソフトが曲がり角を迎えた時期です。入れ替わるようにしてこの時期からオンライン対戦ゲームが主流になっていきます。しかし氷河期世代はもう30代なので反射神経が衰え始めているので対戦ゲームを遊んでも勝てないので楽しくありません。なので氷河期世代はこの時、お金の力で相手に勝つことができるソシャゲに興味が移ったのかもしれません。

 この時期はAKB48のようなアイドルブームの時期です。氷河期世代は雇用に恵まれなかったり、雇用があったとしてもブラック企業の長時間労働で時間や精神的余裕が無かったりで、結婚できた人が少なかったです。年齢的にも30代中盤でそろそろ結婚は厳しいです。結果、マイホーム・子供の養育費・自家用車などを買う必要が無くなります。フリーターでも同じです。結果「家を買えるレベルの大金は持っていないが、プチ贅沢できる金は持っている。」という状態になりがちです。なので、この時期、マーケティングとして独身氷河期オタクの財布が狙われていたのかもしれません。
 毎日フリーターで生活して、ワンルームに住んで、吉野家の牛丼を食えるぐらいの金はある。でももう年齢的に結婚はできないし、金の使い道がない。毎日の生活がむなしい、自分はオタクだからアイドルやソシャゲにお金を使おう。そうすればアイドルが握手してくれるので自尊心が回復する。これが当時のフリーターのオタクの生活だったのかもしれません。

・30代後半~47歳 2015~2024
①異世界転生俺TUEEE!
 もう転職のような人生やり直しも厳しくなってくる年齢です。この時期、今にしては空しいのですが「アベノミクスで景気回復」という声も聞かれていました。が、就職氷河期の人は年齢もありますし、もう精神的に疲れ果ててしまって、アベノミクスで上手く良い仕事を見つけられなかったのかもしれません。30代中盤以降の転職には経験が必要ですが、経験を積む機会を剥奪されていたのが氷河期世代です。
 この時代を氷河期から分析すると、真っ先になろう系をどう考えるかという問題にブチ当たります。「氷河期世代が40代を迎え、もはや現実世界での希望が全く無くなってしまったので、その救いのはけ口として異世界転生・なろう系がブームになった。」という説明はものすごくわかりやすいです。私もそうだと思います。氷河期世代はファミコン小僧でドラクエ世代であり、20代にはMMOブームがありました。彼らが本当に転生したかったのは異世界ではなくて80年代の小学生時代だったのかもしれません。

 しかし、わかりやすいからこそあえて天邪鬼な視点を入れます。なろう系はすでに過去のSFや時代劇のような巨大ジャンルになっています。だからこそスタージョンの法則の「SFの9割はクズだ」を思い出す必要があります。
 私は正直なろう系のアニメは見ません。でも、私は視聴していませんが「Re:ゼロ」や「無職転生」や「このすば」や「異世界居酒屋のぶ」のような、俺TUEEE!のテンプレを外して尚且つ大人気の作品がある事も知っています。そうした作品の中には文学的価値が高い物もあるでしょう。また、異世界転生の中でも「SAO」や「まおゆう」のようなジャンルの先駆者的作品には、作品の質に関わらず敬意を払うべきかと思います。そもそも根本的に「聖戦士ダンバイン」「ハリー・ポッター」「ゼロの使い魔」のように異世界転生っぽさを持つ作品は過去にもぽつぽつとヒットしていました。なので、異世界というジャンルが悪いのではなく、個々の作品を読んで「これは読むに値する作品・値しない作品」と切り分ける必要があると思います。

 現実問題、異世界はすでにジャンル自体が巨大化していて、最近ヒットしている作品のだと、異世界という枠組み自体のパロディーが主流になってきているようです。代表的なのは「追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する」ですし、私が偶然読んだ中だと「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが」もそうです。筒井康隆の小説のように、過去にはSF小説と名付ければ何をやっても許されていたように、異世界というジャンルが何をやっても許されるジャンルになっているようです。今後の異世界は「パーティ追放や婚約破棄をオナニー的に楽しむ作品」と「異世界を舞台に出鱈目をやりつづける作品」に分裂していくでしょう。

②部下の女とイチャイチャしたい!
 氷河期世代は何も手に入らなかった世代でした。安定した職業が無い、昇進が無い、恋愛が無い、子供が無い。大学卒業以降に自尊心を満たされるようなイベントが何も無かった世代でした。その事への絶望は、氷河期世代オタクの「部下の女とイチャイチャしたい!」という心の叫びに変化していきました。
 90年代~ゼロ年代の頃のオタク向けの恋愛SLGは「高校生の自分と高校生の彼女との恋愛」が主流でした。文字通り「同級生」という名前のゲームまでありました。しかし10年代以降のオタク向け作品は傾向が違います。その嚆矢が艦これの「提督」、他にはFGOの「マスター」、アイドルマスターの「プロデューサー」、ウマ娘の「トレーナー」、ブルーアーカイブの「先生」、刀剣乱舞の審神者(さにわ)が挙げられます。もはや40代の氷河期世代にとって、10代女子との対等な恋愛関係を夢想するのは困難です。なので、当時のソシャゲ開発者は「男性オタクは上・女性キャラは下」という構造を発明したんです。男性キャラは指揮官・指導者でものすごく優秀で的確。男性が何も努力もせず現場に出ず、女性キャラが一方的に男性を慕ってくれるという訳です。もちろん女性オタクも同様で、女性オタクは男性キャラに財力まで求めるのでよりタチが悪いと考える事もできます。
 また、多くのゲームは軍艦とか競馬のように歴史のフレーバーをまぶすので、こういう構造が分かりづらくなっています。氷河期世代が10代の頃は競馬ブームで、そこまで考えてウマ娘を開発したとしたら物凄いマーケティング力だと言えるでしょう。こういった作品群は氷河期世代の本来なら部下や子供に与えるはずの庇護欲を満たしたり、自分の苦労を認めてほしいという感情を癒す効果があると考えられます。その上で40代の性欲も満たす訳です。いわば「令和の課長島耕作」だと言えるでしょう。
 私自身、こういうゲーム好きです。それは私もまた独身中年男性だからなのかもしれません。どうしてもこういうゲームをする自分をメタ的に眺めてしまって楽しめない自分がいます。自分は歴史や競馬が好きなのでこういうコンテンツも好きなんですが、「艦これ」のケッコンカッコカリのような恋愛・結婚描写があるとギョッとしてしまいます。
 面白い事に旧来型恋愛ゲームは2009年のラブプラスとアマガミを境に全くヒットしなくなりました。現在でも「五等分の花嫁」「女神のカフェテラス」のようなラブコメ漫画はありますが、それはオタクが楽しむ物では無く普通の男子中高生が楽しむような雰囲気を帯びています。オタク向けでも「かぐや様は告らせたい」「僕の心のヤバイやつ」みたいな作品もありますが、それも旧来型のベタベタな萌えではなく、あくまで純粋に漫画として優れた作品であって、一般人が楽しめる=氷河期オタクの萌え文脈で楽しむのは難しい作品になっています。私はこれを「オタクの恋愛離れ」と分析します。あだち充の頃からオタクといえば恋愛モノ好きだったのに、思えば遠くに来たもんだ。

③氷河期とオタク
 2010年以降の氷河期オタクについて考えると、やっぱり「疲労」という言葉に行きつくと思います。昇進もやりがいもない不安定な仕事を続けて、妻子もいなくて、昨日と同じ一日が延々に続いてじわじわと日本社会が退化していく。あるいは災害や失業で突然生活が壊れてしまう。みたいなジワっとしたストレスを常に抱えながら働いているんだろうと思います。そうした感情が「もう創作物やゲームで自分にストレスかけてくんな」という欲求につながるんだと思います。
 本来優秀だった彼らをアルバイトやブラック企業で使い潰してしまった社会に対し、ああそうですか、じゃあ私たちは現実世界から空想の世界に逃走します。というのが、オタク文化の正体だったのかもしれません。いわばオタク文化とは、社会へのテロだったのです。サイレントテロです。我々は氷河期世代を冷酷に扱った報いとして、オタク文化という文化的爆弾が日本で爆発し、その結果国家の持続すら今後は難しくなっていくでしょう。
 オタク文化は、ポケモンやジャンプ作品のように世界中で大人気のものと、なろうやソシャゲのように氷河期世代や韓国・中国の青年男性を癒すものに分裂しているように見受けられます。自分でも意外だったのはボーカロイドと東方Projectが「世界中で人気」側に行った事でした。そして後者の方も、団塊ジュニアというボリュームゾーンに向けて延々と作品が作られ続けるでしょう。今後は「病気」とか「孫」とか「老人がモテモテ」みたいなモチーフが取り入れられていくかもしれません。また、老眼によって文字ベースのオタクコンテンツが衰退するかもしれません。

 こうして確認していった所、オタク文化は就職氷河期世代向けに作られているんだなという想定はやはり正しかったと言わざるをえません。最後に自分事なんですが、改めて自分は股裂き状態だなと感じます。昔のオタクコンテンツは自分より10歳年上の人向けに作られていたわけで、それが自分が十代の頃「オタク文化ってすごく大人びて斬新でカッコいい文化なんだ」と思った理由です。ですが、5年ぐらい前からオタク文化は初老向け文化になってしまいました。かといって世界でウケる方のオタク文化は、自分よりずっと若い・文化的基盤も共有していない世界中の若者向けに作られているわけで、そちらを楽しむのももはや困難です。今後は自分たち85年~95年生まれを狙ったオタクコンテンツも生まれてきて、子供向けは世界向け以外存続できなくなるかもしれません。