「くらくら両想い」第12話

くらくら の あと (おまけ1・クリスマス編)

 付き合ってから初めてのクリスマス。それはもう気合を入れて臨みたかったけど、当たり前のように部活はある。部活が終わったら急いで帰ってシャワーを浴び、着替えてから待ち合わせ場所の駅に向かう。さっきまで運動していたから疲れているけど、自然と歩く速度は上がっていく。だって早く会いたい。

「円歌!」
「葵、部活お疲れさま~」

 駅前で待っていた円歌は手をこすり合わせていて。

「ごめん、寒かったよね。先にお茶でもしよう?」
「うん」

 本当はライトアップされた庭園を見に行く予定だってけど、まずは暖まるためにカフェに向かう。私はホットコーヒーで円歌はココアを頼んだ。お洒落なソファに向かい合って座って、注文を待っている間に、私の方へ円歌が両手を伸ばす。

「ん」
「何?」
「あっためて」

 注文が届く間、円歌の両手を手で包み温めた。11月に怪我をしていた円歌の右手首からは包帯が取れ、すっかり元に戻っていた。そして今日、待ちに待った“あれ”を楽しみにしていた。
 飲み物が届いてようやく手を離す。ココアを飲んでいるだけなのに、かわいいと思ってしまう。

「どしたの?こっち見つめて。飲まないの?」
「ちょっと見惚れてた」
「えぇ?何それ」
「服もかわいい」
「ありがと。これ新しく買ったんだ~」
 
 コート姿もかわいかったけど、温かい店内で見れた新しく買ったというワンピースもかわいかった。しばらく取り留めのない話をして。でも遅くなるといけないから。

「そろそろイルミネーション見に行く?」
「うん」

 お店を出て。当たり前のように手を繋ぐ。電車に乗って、目的地の庭園にたどり着いた。イルミネーションほどきらきらしているわけではないけど、ライトアップされた庭園はどこか幻想的で。自然と二人とも黙ったまま静かに園内を巡った。最後には撮影スポットで写真を撮って、満足して帰路に着く。

「なんか落ち着き過ぎじゃない?私たち一応付き合ったばかりなのに」
「葵は今くらいでもちょうどいいけど」
「んー…葵がいいならいっか」

 正直めちゃくちゃ甘えたいし、甘えられたいけど、バスケ部でレギュラーを取るまではキスまでと言われているから、あまりがっつけないところもあった。だって我慢できなくなりそうだから。
 円歌の家まで送る間にある公園に寄って、ようやく“あれ”の出番が近づく。円歌はブランコに座っていて、私は目の前に立って“あれ”をポケットから出す。

「ようやくつけられるね」
「うん……ね、つけて」

 “あれ”は円歌から誕生日にもらったペアリングのこと。怪我が治るまでお互いに指にはめるのは待とうって話になって。治ったころに、せっかくだからクリスマスにしようということになっていた。
 ブランコに座る円歌の目線に合わせるように屈んで、右手の薬指にペアリングをはめた。円歌も私に同じように私の指にリングをはめる。円歌は私の指にはめられたリングを愛でるように撫でている。

「うん。めっちゃいい……でも学校じゃつけられないからなぁ」
「そんな円歌に良いものがあります」
「なに?」

 カバンから細い長方形のクリスマスカラーに包装されたプレゼントを渡す。

「これね、ネックレスチェーンなの。だから学校の時はこれでどう?葵もそうするから」
「ありがとう……お揃い増えたね」
「ね」

 心は暖かいけど、公園にこれ以上いたら寒いから、さすがに帰ろうかと思った時。円歌の手を握っていて、ふとそうしたいと思って体が勝手に動いていた。

「葵?」

 ゆっくりと円歌の左手を持ち上げて、薬指に唇を落とした。円歌を見つめる
と、円歌もこちらを見つめていて、ただお互い黙ったままの時間が流れる。行動に起こしてしまったからには伝えたいことがあるけど、今更になって自信がなくなり言葉が出ない。でも円歌が意味を求めてくれたから、意を決して伝えた。

「葵……これって、どういう意味?」
「……ここ。予約していい?」

 円歌の左手の薬指を撫でながら伝える。まだ高校生の私たちには現実的ではなくて、夢みたいな話だけど。そうしたいと思ってしまったから。

「いいけど……キャンセルしないでね?」
「うん。ありがと円歌」

 嬉しくて、円歌に抱きしめる。腕の中で円歌が嬉しそうに笑っているのがわかる。円歌も喜んでくれていることが、より私を嬉しくさせる。

「ねぇ葵。今日クリスマスだよ?」
「うん?どうしたの急に」
「……指だけじゃやだ」
「あぁもう」

 おねだりなんて、そんな私を喜ばすことばかりしないでほしい。円歌にキスをした。昔から円歌とよく遊んでいた公園でこんなことするなんて。でもこれが家だったら止まれなかったから、公園で良かったと思う。

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