《日記》君たちには私は何に見える?

さっきまで海辺に座っていた。

波の音、風の音。

虫の音。


ただ、じっと座っていた。

近くに首裏を大怪我した白猫がいた。

私と同じ眼をしてた。



『…アンタ、傷に響くよ
海風は』

っせぇよ。

って顔してた。


怯えてた。
でも睨んでた。

何だかんだ、肝据わった目ぇしてた。



いつもなら可哀想って言うのに、先に出てきた言葉は

『ごめんね』

だった。


私には彼を助けられない。


まだ暑い時期だから、傷が膿んでしまったら命を落とすかも知れない。



大黒様は白兎に蒲の穂にくるまって寝るといいよって教えてあげたみたいだけど。


いまの私にはどうやらその知識も活かせそうにない。


彼は私を見ていた。

同じ眼で私も彼を見ていた。





傷に響くってさ…

海風。

私、なんでここに居るんだろうね。


物理的な傷じゃないから…かな。






まだ夕暮れだったのに、だんだんに暗くなり。

気付いたら日も落ちていた。









…ふぅ

私が顔をあげると一帯にカニがいた。

私があまりにもじっとしていたので『岩認定』されていたのだ。

どうしよう、急に立ち上がったらこの子たちびっくりしちゃうじゃないか…


昔からこうだ。

私は。

悲しいことや苦しいことがあると、

思い出したり、なぞったりすると、


じっと自然の中で座っている。


海辺なら足元がカニで埋まり、

花畑なら頭にチョウチョがとまる。

秋の終わりなら弱々しくそっとトンボが休んでいたりする。

人の頭で。



私は爆弾なのに、この子たちは私のことが怖くないみたい。


最近、自分を爆弾と自覚したけど、カニさんたちには私が爆弾に見えないらしい。




だけど、いい加減足がしびれてきた。





私はねぐらに帰ることにした。




帰り際、

『…海風はよけなよ』

ポツリと白い彼に言ったが、どうやら本人はヤマは越えたつもりらしく、

『お前こそさっさと帰れよ』

とばかりに一瞥されてしまった。









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