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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本!
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#QOLあげてみた

情景105.「夏の音。鳴き声」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「夏の音。鳴き声」です。 もう夏ですね。 ……あっづい。 おひるどきに乗る電車が結構好きですね。 ひとはまばら。 なんなら、自分以外はいないんじゃないかな、というぐらいに空いている車両で、シートに腰掛けて顔を突き出し、左右の車両をのぞく。 うまくいけば、先頭車両から最後尾まで見通せます。 さらに乗務員室の扉の小窓から、外に広がる線路のその奥までが小さく見えることも。 そうした吹き抜ける場にいるのがなんだか心

情景266.「四文字指令」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「四文字指令」です。 仕事帰りの情景。 四文字で察しあう阿吽の呼吸。 ブタコマ、生姜、キャベツ。……ギリ、中華丼もありえるか? タイミングを見計らい、文言を省いてコミュニケーションを取る。 はじめの頃は、電話したり長文を打ったりして、細かくやり取りをしていたのかもしれません。 それも、回数を重ね、お互いのルーティンが理解していくうちに、タイミングを図るだけであれこれ手間なくできるようになっていきます。 よく

情景86.「夜陰の風」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「夜陰の風」です。 季節の移り変わりを肌で感じ取ること。 時を忘れ、ひとり過ごしているときにふと、気づいたもの。 私はこういう過ごし方が結構好きなのですが、ヒトによっては退屈なのかも? 私の擦り切れ愛読書の中で、司馬遼太郎御大のエッセイ集『以下、無用のことながら』という一冊があります。 擦り切れ愛読書って何かって? そりゃあ、擦り切れるほど読み込んだ書物のことですよ。 実際、繰り返し読み、付箋も張り、マー

情景288.「人差し指と中指にだけ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「人差し指と中指にだけ」です。 隙間から漏れ入るように差し込んでくる陽のひかり。 お気に入りの光のかたち。 私は、情景描写において光と風をよく使います。 光も影も、常に在るものですから、日頃ふと目に留まった光のかたちはなんとなく記憶してしまいがちで、地の文を書くときにそれを取り出し、文章にふりかけるように使ってしまうようです。 おかげで私は、手クセで地の文を書くと、光や風がつい出がち。 それで、光の話なの

情景10.「カフェの壁を飾るもの」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「カフェの壁を飾るもの」です。 カフェの情景。 文字通りの紅一点。あざやかに映えるものなんだなって。 紙の本には、読んで楽しむ以外にインテリア的なおもしろさもありますよね。 私自身、子供の頃から本棚というモノ自体が好きでした。 かつて、はじめて自分の部屋というものを与えられたとき、壁際には大きな本棚が備えついていました。 その本棚は、引っ越しの際に母方の実家から譲り受けたものだそうで、叔母の結婚の際に大工さ

情景01.「白雲」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「白雲」です。 葉桜の緑が陽を透かすようになり、暖と涼を交互におぼえる過ごしやすい季節になりました。 ちょうどいいからこのタイミングで、はじまりの情景にふれたいと思います。 白雲。 241文字の掌編小説。 『あなたが見た情景』は、日常にそった情景を書き連ねていくものでした。 文章に触れることであなたの中にある景色に触れてもらえるような、そんな小さなお話の集まりです。 その象徴のような最初の話です。 たった

情景234.「乳白色のレンガ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「乳白色のレンガ」です。 お菓子作りに初挑戦。 バターと砂糖の量に最初はビビりつつ、食べるのは一瞬。 「大丈夫。すぐに慣れるから」 ……何に? そういえば、先日はホワイトデーでしたね。 最近はバレンタインもホワイトデーも、形式ばった「お菓子を渡す日」というより、その日にちなんだアクティビティで、その日自体を楽しむような、そんなコト発信的なイベントでゆるふわに親しまれている感じがしますね。 バレンタインは女子

情景49-50.「送り雪」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「送り雪」です。 浅い春のなごり雪。 出立する子を見送るために車を走らせる親。 送る人のそばに舞う、ちりのような。 晴れているのに、粉雪が舞っている。 まれにある不思議な天気です。 おかげで空気はつめたくて、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、玄関を歩いて駐車場へ。 見送る人に寄り添うように。 そういうふうに舞うから、“送り雪”。 そんな情景をこの掌編にしたためました。 余談ですが作中では、

情景219.「春にはまだ早い」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「春にはまだはやい」です。 先日、急に暖かくなりました。 翌日、また寒さが戻ってきました。 季節の移り変わりの中にまじる感じ、匂いのようなもの。 ただ、春にはまだ早い。 私たちは時を季節で区切って生きていますから、その時々で目にするものを、つい季節感や風物詩という風に捉えてしまいます。 とりわけ「春」には、何かと意味をもたせがち。 一瞬のうちに、ほわっと芽生えるなにか。 浮き上がるように嬉しいもの。 ちょ

情景222.「待ち合わせ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「待ち合わせ」です。 最近は“タイパ”なんて言葉をよく聞くようになったでしょう。 これを書いたころはまだなかったと思うんですけどね。 実際、3日前とかに予定を詰めようとすると結構しんどいものがある……のかな。 当日だとなおさら。(イヤではない) 物理的に可能かどうか以上に、「うぉっ」と思って断ってしまうかもしれません。(べつにイヤということではない) 私の場合、飲みの予定ならいつでもいいのですが、ある程度

情景101.「空港のカーテンウォール」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「空港のカーテンウォール」です。 高い天井、好きですか。 私は大好き。 ガラス壁、好きですか。 それもかなり好き。 私にとって、空港は魅力が尽きない場所です。 ほどよい非日常感。 行き交う人々のそれぞれの“旅感”。 役割ごとにしっかりと管理された空間。 レストランが街場より輝いて見える。 カツカレーもいつもより2割増くらい美味しい気がする。 (お値段も2割増な気がしなくもない) そして何より、場の開放感。

情景215.「未明に灯る斜光」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「未明に灯る斜光」です。 未明って、いつから未明? ともあれ、あのひとたちの朝はとてもとても早い。 早朝のお散歩。 ときに、夜明け前に目が覚めてしまって、いつもより元気があるからちょっと出歩いてみよう、みたいな。 (夜明け前ならすっぴんでもまァ大丈夫だよね……!) そんな朝があったとして。 私は低血圧で起きぬけはかなり好不調に波があるのですが、それでもふいにそんな気分になります。 歩いていけるくらいの近

情景162.「坪庭に降る寂光」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「坪庭に降る寂光」です。 実、落ちれば育つこの風土。 なんて、格好いいことは言えないけれど、そんな風に思えた夕暮れの庭。 世間では、ぼんやりと庭を眺める、という行為自体が最近はレアというか、あんまりやらなくなっているのかもと感じます。 実家に和室(畳の部屋)があって、そこからちっさいちっさい庭をよく眺めているのですが、普段暮らしている福岡市内のマンションには庭なんてありませんし。 ただ、 こういう風に感

情景200.「時津風、晴れた先」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「時津風、晴れた先」です。 時津風(ときつかぜ)とは、いい頃合いに吹く風のこと。 ふと見上げたとき、見えない風が山頂の雲を晴らす。 その瞬間を切り取るように。 私の田舎は福岡の西の方にある糸島という地域です。 田舎ですが、歴史あり海あり山あり川あり食べ物あり公園あり何より福岡市の隣ということで、居心地のいいまちです。 先日まで帰省していて、今日また福岡市内の方に移動してきました。 帰省したら必ず散歩をする