『ROMA/ローマ』を観た後に知っておきたい10のこと
アルフォンソ・キュアロン監督がNetflixと組んで制作した映画『ROMA/ローマ』の理解を深めるためのテキストです。
「観る前に知っておきたい10のこと」では、監督があえて説明しなかった時代背景や事件を観る前に説明するのはNGかと思い自粛しました。こちらで説明しています。
■『ROMA/ローマ』を観た後に知っておきたい10のこと
①経済格差は拡大し、政府と民衆との対立は深まるばかりだった当時のメキシコ
本作は、1970〜71年のメキシコを舞台としています。長期の一党支配体制を敷いていた制度的革命党(PRI)への農村部や学生からの反感が高まっていました。政府は1968年にメキシコシティー・オリンピック、1970年にメキシコ・ワールドカップを開催し、人気を集めようとするが、経済格差は拡大し、政府と民衆との対立は深まるばかりでした。映画の中でも街を歩く軍隊や警察の姿が執拗に登場しています。
②武装集団「ロス・アルコネス(鷹団/鷹兵団)」
クレオの恋人だったフェルミンが所属する武装集団。1960年代末に政府が結社した武装集団で、政府を守るために存在し、その存在は長い間秘密にされていました。フェルミンがクレオに「武術が俺を救ってくれた」と言っていますが、ロス・アルコネスは軍事訓練プログラムの一環で、剣道、空手、柔道、ボクシングなどの訓練をしていたそうです。
③コーパス・クリスティの虐殺(血の木曜日事件)
クレオとテレサ(祖母)がベビーベットを買いに行くために家具屋に行くと学生運動のデモ隊と警官隊の衝突に遭遇します。家具屋の中に逃げ込んでくる若者を冷酷に殺害する武装集団に怯えるクレオとテレサですが、その中にフェルミンの姿があり、去り際にクレオにも銃口を向け──。
この場面は、71年に起きたコーパス・クリスティの虐殺(血の木曜日事件)を再現しています。政府に抗議・反対運動をした学生を中心に120人が殺害された事件には、政府軍の支援組織である武装集団「ロス・アルコネス」が関わっていました。
メキシコでは、1968年にも軍と警察による学生と民間人の大虐殺事件「トラテロルコ事件」(数百人が死亡したとされる)が起きています。また、2014年にはその「トラテロルコ事件」の記念行事に参加しようとした学生43人が警察に拉致され大量に行方不明になり、一部死体が発見されたという「メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件」が起きています。
④『宇宙からの脱出』
子どもたちがクレオに連れられて映画館に行き、映画を観ます。『ゼロ・グラビティー』を彷彿させる、2人の宇宙飛行士が宇宙船の船外で活動する映像が出てきますが、この映像は1969年に公開された『宇宙からの脱出』という映画の1場面です。アルフォンソ・キュアロン監督は、この映画を観て映画人になろうと決めたそうです。アルフォンソ・キュアロンの弟
⑤『大進撃』
クレオがフェルミンに妊娠したことを映画館内で伝える場面で観ている映画は『大進撃』。第二次世界大戦下のフランスを舞台にした1966年公開のフランス映画です。この場面は、映画館の中なのに、クレオの表情がうっすらわかるくらい明るいんですが、画面の部分に電球をつけて撮影し、あとでこの『大進撃』を映像をはめ込んだそうです。
⑥波のシーンの撮影
もう1場面、「どうやって撮影したの?」という場面が、クライマックスの波のシーンです。この場面は、撮影用に桟橋のようなものを作って撮影したそうです。
⑦クランプス
クリスマスのシーンで、なまはげのような妖怪が出てきます。これはヨーロッパ中部に伝わる伝説の怪物クランプスです。クリスマスのお祝いに登場します。半分ヤギ、半分悪魔の姿をしたクランプスは、「良い子」にするよう人々を叩いて回ります。なまはげと出で立ちも目的も似ていますが、なまはげの起源がクランプスにあるという説もあります。
⑧「おばけのようになって過去に戻った視点で表現した」
「観る前に知っておきたい10のこと」でも、あえて本作が説明的でないことに触れましたが、そのことを監督は「おばけのようになって過去に戻った視点で表現した」と言っています。水平方向へのパンニングがくり返され、カメラワークも、常に主人公たちから離れて非常に客観的な視点から撮られているのは、「おばけ」のような視点で表現したかったからなのです。
⑨『Music Inspired by the Film Rome』
本作には使用された楽曲が収録されたサントラ盤以外に、『Music Inspired by the Film Rome』というインスパイア盤があります。インスパイア盤には、キュアロン監督自らセレクトしたアーティストたちによる、今作からインスパイアされたオリジナル楽曲やカヴァー曲が収録されています。ビリー・アイリッシュやベックの書き下ろし曲はシングル・カットされました。Bu Cuarónという、馴染みのないアーティストがいるなあと思ったら、今15歳のキュアロン監督の娘さんだということです。いい曲です。
キュアロン監督の子どもと言えば、『ゼロ・グラビティ』の脚本をキュアロン監督と一緒に書いたJonás Cuarónも、キュアロン監督の子どもで、『Año uña』『Desierto』という2本の映画を監督しています。芸術家一家です。
⑩タイトルの「ROMA」を逆にすると「愛」
タイトルの「ROMA」を逆にすると「AMOR」。スペイン語で「愛」の意味です。みなさんは本作を観て、何を感じたでしょうか?
「『ROMA/ローマ』を観る前に知っておきたい10のこと」「『ROMA/ローマ』を観た後に知っておきたい10のこと」で、鑑賞の助けとなるような情報を紹介させていただきました。個人的感想はあまり書いていませんが、『ROMA/ローマ』は傑作だと思っています。そう思わなかったら、こんな風に調べたり、書いたりしません。
日本では、Netflixさんが『ROMA/ローマ』の広報に手間をかけたりしなさそうなので、個人的応援として、記事を書きました。1人でも多くの方に観ていただけたらなあと思っています。
(Netflixで観れます。『ROMA/ローマ』の1ファンで、Netflixの回し者ではありません)
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