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アマノフーズの話

【アマノフーズのフリーズドライに魅せられていると語っているだけの雑文】

 自慢できるレベルに料理が嫌いである。
 いや、苦手とか下手ではなく嫌いさを自慢してどうするのだ。

 面倒だし、なにより汚れるのが不快だ。汚れたら掃除をしなければいけないから余計に面倒だ。負のループである。
 加えて、私は仕事後の帰宅が遅い。残業が多いというわけではなく、単にシフトがそうなっているのである。朝遅く起きて、夜遅く帰ってくる。夕食を摂るのは早くて23時だ。

 料理嫌いの私がそんな時間から料理を始めるかといえばもちろんまったくそんなことはなく(18時に帰っても結局料理はしないのだが、それはとりあえず別の話である)、コンビニで半額のお弁当を物色したり、冷凍パスタをチンしたり、ときには立ち食い蕎麦屋に寄ったりしていたのだが、そんな爛れた食生活に光明が差した。

 フリーズドライのお味噌汁である。

 フリーズドライ。
 カサカサのキューブにお湯をかけた途端、ぶわっと具と夢が広がるあれである。

 ふるさと納税でフリーズドライのスープセットを手に入れてから、少しだけまともな食事ができるようになった。冷凍ご飯とお味噌汁、納豆。朝食のような献立だが、23時の食事なんてこんなもので良いのである。気が向けばコンビニの唐揚げが買えるし、運が良ければ帰りのスーパーで半額のお刺身が買える。昨日のチキンソテーが冷蔵庫に残っていることもある。
 フリーズドライといえば、製法のおかげか「具だくさん」なものが多い。野菜も摂れるので大助かりだ。

 そして先日、満を持して我が家に大御所がやってきた。
 アマノフーズ様の詰め合わせである。

 アマノフーズといえばフリーズドライ。フリーズドライといえばアマノフーズ。それくらいの有名どころである。異論は認める。
 詰め合わせといってもただの箱ではない。アウトレットである。安いのである。安いということは、普段は手が出ないあんなものやこんなものも楽しめるのである。ブラボー。

 フリーズドライ。
 そう聞いたとき、なにを思い浮かべるだろうか。味噌汁、スープ、乾燥野菜――そのあたりだと思う。

 定番は味噌汁だ。アマノフーズのお味噌汁は間違いない。ナスはじゅわっとしているし、なめこはつるっとしているし、ネギはしゃきしゃきだ。湯気に香る味噌に癒される。

 それだけでも充分なのだが、そこに留まらないのが恐ろしいところである。知らない間に、フリーズドライはとんでもない進化を遂げていた。

 まず、にゅうめんである。

 普通にお湯を入れる。スープができると思いきや、崩れたキューブからつるつるのにゅうめんが現れる。ほんのり柚子の香りがする。ちょっとした小腹満たしに最適だ。遅い朝食にも良い。頭痛持ちとしては、寝込んだときの非常食としても重宝しそうで頼もしく思っている。体調がすぐれないとき、だしの風味は、なんというかメンタルに効く。

 続いてカレーである。

 半信半疑でお湯を注いだら本当にカレーになった。どころか、お家芸のごろごろ野菜まで出てくるのだからたまらない。じゅわっとカレーの染みたナス。おいしくないわけがない。いや、事実おいしいのだ。おいしかった。
 一般的なカレーと比べると粘度は低めだが、それでもちゃんと、とろりとしている。スープカレーなどではなく、「カレーを食べた」という満足感が得られるのは驚きである。

 ここに留まらない。
 更に更に。
 牛とじ丼なんてものまでぶっこまれる。

 え、マジで……? と思いながら、例のキューブにお湯を注ぐ。ほろりと崩れて、とろりと混ざって、――できた。パッケージに嘘偽りない姿の、ふんわり卵の牛とじ。ごはんに掛ければ立派な丼だ。なんということでしょう。

 キューブの中には無限が詰まっている。
 深夜に牛とじ丼を掻っこみながら、技術の進歩に感謝する。

 ごちそうさまでした。

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