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秋の夜を短編で楽しむ

さて、読書の秋である。
個人的には「食欲の秋」「新酒の秋」な私なので、読書もお酒のグラス片手に楽しむ事が多い。となるとやっぱり短編をセレクトしてしまう。

「こんなぶ厚い本を読んだぜ」的な達成感を読書に求める人もいるが、私は短編が好きだ。吟味した言葉と文章の妙味をぎゅっと凝縮して味わえるから。

とりあえず人に勧めるとしたらまずは基本のこの2冊。
アリス・マンローとジュンパ・ラヒリ。

お供はハイボール

最近になって、本当にアリス・マンローが好きになった。
ジュンパ・ラヒリが都会のエリート女だとしたら、アリスは地方の年増ホステス。長年の経験で磨いた目で、人が心に隠した何かを炙り出してくる。

家族の用事で遠出した退屈な午後。成り行きで初対面の男と肌を重ねた若い主婦は、帰宅するために乗ったフェリーのデッキでその日の出来事を「宝物のように集めて片付け、とって」おこうとする。
非日常の体験にうっとりするわけでも、不倫の罪に怯えるわけでもなく。こんな体験はおそらく生涯一度きりで、だから何も忘れたくないと願う気持ちと「宝物」という言葉。そして平凡な田舎の主婦の人生がその後に続く。

初めて読んだ時は「こんな田舎のおばさんの話がどうしてノーベル賞?」と思ったけれど、なぜかストーリーが頭から離れず何冊も本を買い、何度も読み返した。
つまり人の心の入り口は小さいかもしれないけれど、その奥はどこまでも広がっていて、そこにはまだ誰も気づいていないすごいストーリーがあるのでは、と期待してしまうから。

合わせるお酒は、ストーリーの重さに負けない強いものがおススメです。



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