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ボール奪取マップで見るヨーロッパサッカーとJリーグの違い<1>:CL準々決勝レアルマドリード対リバプール

 少し前に、サッカーファンの間でちょっと話題になったインタビュー記事があった。

 ヴィッセル神戸の酒井高徳が、インタビューに答えて、日本のサッカーとヨーロッパのサッカーの違いについて答えたものだ。

Jリーグとヨーロッパサッカーの違いとは

 これは、内田篤人の引退会見で「CL決勝とJリーグは違う競技」と発言したのを受けたもので、酒井高徳は、「両方のサッカーを『経験した事実』」として、「日本のリーグ全体がやっているサッカーが、世界と比べられないイメージ」「試合の展開に『速さ』が出てこないので、『日本のリズムってゆっくりだよね』『日本って迫力ないよね』となる」と答えた。

 「違う競技」というと思い出すのは1980年代のプロ野球でプレーしたウォーレン・クロマティの、「太平洋の向こうに違うスポーツがあった」という発言。これはメジャーリーグと日本野球の違いについて語ったものだ。

 日本サッカーとヨーロッパサッカー、そもそも戦術理論は向こうのの方が進んでいるわけだし、テレビで見ていても違うし、レベルが違うというのはサッカーファンの常識。ただ、もっと具体的にその違いを理解したいと、この内田篤人と酒井高徳のインタビューを見て思った。

 「守備も消極的すぎます。ゴールを奪いに行く観点から見ても、昨シーズンそれができたのは川崎フロンターレだけでした」との発言もあるので、フロンターレサポーターの私としては気分はいいけれど、この記事を読んで以来、酒井高徳のいう「体験に基づく事実」をきちんと理解したいと思っていた。このインタビューの言葉が、どうも私にとっては実感として入ってこないのだ。

 理由ははっきりしている。超一流のヨーロッパサッカーを問題意識を持ちながら生で見ていないからだ(2002-04年にアメリカに住んでいるときにエキシビションマッチのACミラン対FCバルセロナを見たことがあるし、2003年くらいにプレミアを見に行ったことはあるのだけれど。そのときのJリーグとの違いははっきりと感じたが、それは20年前のサッカー。またいまとは違うだろう)。


「トランジション」が違う??

 この言葉が頭に残りながら、きちんと理解できないもどかしさを感じる中で、「これか!!」と思ったのが、先日のU24日本代表対アルゼンチン代表戦の第1試合。

 レビューで書いたように、トランジションが重なるごとに日本の動いている選手が減っていく。アルゼンチンの選手は減らない。トランジションが絶えず起こりうるサッカーというゲームの中で、意識においても行動においても攻撃と防御をシームレスにつなげることができていない選手の数が、日本の方が多かった。

手がかりとしてのボール奪取マップ

 この「トランジション時のスピードの違い」が私が今のところ理解する「Jリーグとヨーロッパサッカーとの違い」。この視点が、内田篤人や酒井高徳のいう「違い」と同じなのかについては確信はない。けれど自分のできる範囲でこの視点を追ってみようと思う。ボール奪取マップの比較を通じて。

 私はレビューを書くのは現地観戦した試合だけということにしているのだけれど、フロンターレの試合のレビューを書くときには、ボール奪取マップを作っている。

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 同じことを、チャンピオンズリーグのトーナメントステージでやることにした。

CL準々決勝 レアルマドリード対リバプールのボール奪取マップ

 まず選んだのが、ゲーゲンプレッシングの信奉者として名高いユルゲン・クロップ率いるリバプール。準々決勝の相手はレアルマドリード。ファーストレグはレアルマドリードが3-1で勝利、セカンドレグは0-0でリバプールが敗退した。この2試合をボール奪取マップで見てみよう。

 まずファーストレグ。

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 レアルマドリードのボール奪取数41。リバプールのボール奪取数39。フロンターレの今年の数と比較しても少ない方だ。

 面白いのはリバプールのボール奪取を前後半で比較したもの。

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 テレビ観戦した方なら覚えていると思うが、ファーストレグの前半のリバプールは全くプレスがはまっていなかった。ボール奪取マップで見るとそれがはっきりわかる。なんと敵陣でのボール奪取、わずかに1。これでは上手くいくはずもない。後半になると立て直して8回ボール奪取しているが、得点は1にとどまった。

 一方、マドリードは早い時間に先制したこともあって、ボール奪取位置は全体的に低い。しかし、敵陣でのボール奪取は前半4、後半5で、リバプールより多い。

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 セカンドレグを見てみよう。ファーストレグで3-1のリードを奪っていたので、マドリードは重心が低く、ペナルティエリア付近でのボール奪取が多い。それでも合計ボール奪取58回。うち敵陣で12回ボール奪取している。

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 すさまじいのは勝つしかない状況の中で戦ったリバプール。合計ボール奪取74回。うち敵陣で31回。

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川崎フロンターレ対サガン鳥栖戦との類似

 74回というのは、川崎フロンターレ対サガン鳥栖戦と同じ数。フロンターレは敵陣での奪取が32回だから、数字的には似ている。ビジュアル的に見てみよう。

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 フロンターレのマップには選手名が入っているのでその分混み合って見えるが、分布としてみると似たような形に見える。こうしてみると、ボール奪取という観点から見ると、フロンターレとリバプールとのサッカースタイルに有意な違いがあるとは言えない。

 ただ、レアルマドリードとリバプールの対戦のボール奪取マップを作りながら気づいたことがある。ただそれはもう少しデータを取ってから取り上げることにしたい。また、「Jリーグとヨーロッパサッカーの違い」を見るためには、フロンターレ以外のJリーグのチームのボール奪取マップも作る必要がある。次からは対戦チームも併せて作ることにしたい。

 CLの残りの試合と併せて、これからデータを集め、この論点を深めていこうと思う。

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