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Generative AI領域のゲームチェンジャー

Generative AIと加速する市場

こんにちは、HAKOBUNEインターンの有村です!
Generative AI(生成人工知能)は、テキストや画像などを生成する人工知能の分野で、ChatGPTやMidjourneyの登場以来注目を集め、急激に市場が成長しています。
Generative AI関連のスタートアップも急速に増加し、投資家からの出資も増えています。2022年には、Generative AIに2.6億ドル(約3600億円)もの資金が集まりました。

Generative AI関連のスタートアップに対する合計出資額と取引数の推移:CB Insights

メガテック企業もGenerative AI分野への投資や開発を強化しており、アメリカではMicrosoftやGoogleやMeta、中国でもBaidu、アリババなどの企業がこの分野に参入しています。
大規模言語モデルの開発と適用が恐ろしい速度で進む中、ニッチな分野にてGenerative AIを活用し、その業界に衝撃を与えているゲームチェンジャー的スタートアップも出現してきています。
AIによって業界構造や作業プロセスが一変するかもしれない、というのはもはや推測ではなく、現在進行形で変わりつつあります。
今回はそうした、Generative AIを活用した革新的なスタートアップに焦点を当てて、紹介していきたいと思います。

既存の市場を揺さぶる、
ゲームチェンジャー的スタートアップ

Perplexity AI :次世代の検索エンジン

HP:https://www.perplexity.ai
設立年: 2022年8月
拠点:アメリカ(カリフォルニア)
シリーズ:Series-A
累計資金調達額:2800万ドル

もはやGoogleだけでは適切な情報を得ることが難しくなっています。情報が氾濫する中、ググって出てくるのはSEO対策された中身の薄い記事ばかり。そんな検索エンジンの状況に一石を投じたのがPerplexity AIです。
検索に特化し、参照を示してくれるChatGPTというのが簡単なサービス内容となります。従来の検索エンジンでは対応できないような長い質問にも対応し、ChatGPTと違って最新の情報をそのソースと共に提供してくれるため、より簡単に、正確な情報を取得することができます。

長い質問に対して回答を生成し、その下に参照したソースを提示してくれる。

また検索時に、文章生成に利用するソースの属性を限定することができ、学術的、Youtube、Wikipediaと利用目的に合わせて生成結果を調整することができます。
言語モデルはGPT-3.5を組み込んでおり、ユーザー登録することでGPT-4も利用可能です。言語の生成の面ではChatGPTに劣りますが、検索に関してはとてつもなくパワフルなツールになります。
Perplexity AIはユーザー登録せずとも手軽に利用できるため、ぜひ一度触ってみてください。

クリックでPerplexity.aiに移動

共同創設者であるAravind Srinivasは、OpenAI、Google、DeepMindでのリサーチインターンを経てOpenAIでGenerative AIの研究をしていた人物で、他の創設者もMeta AIやMicrosoft Bingといった、現在のGenerative AI領域の最先端をいく企業から出ています。
Perplexity AIは今年2023年の3月に、New Enterprise Associates(NEA)がリードし、シリーズAで2500万ドルもの資金を調達しています。
検索エンジンにおけるGoogleのライバルとして期待されているPerplexity AIですが、使ってみると、日本語にあまり対応していないことと、参照ソースに統一性がないことに少し違和感を感じました。
これから英語以外の言語にも対応し、利用するソースの属性をより細かく指定できるようにすることで、その検索エンジンとしての利便性は格段に上がると思います。
直近ではOpenAIに出資しているMicrosoftが、GPT-4を組み込んだ新しいBingをリリースし、世間の注目を集めました。こうした検索エンジンの戦国時代の中、Perplexity AIのようなスタートアップが覇権を握ることができるのか、これから注目しがいがあります。

Glass Health : 医師系AIのフロンティア

HP:https://glass.health
設立年: 2023年3月
拠点:アメリカ(カリフォルニア)
シリーズ:Pre-Seed
累計資金調達額:50万ドル

医師免許がなくても適切な治療ができる、そんなブラック・ジャックのようなAIが現れました。
Glass AIは患者の症状や特性をプロントに書き込むことで、診断結果と治療計画を瞬時に生成してくれます。医療分野に特化したChatGPTというとわかりやすいかもしれません。
ChatGPTなどのAIチャットボットとの特筆すべき違いは、その大規模言語モデル(LLM)にあります。
Glass AI 1.0ではChatGPTと同じく、インターネットで公開されているデータによってトレーニングされていますが、Glass AI 2.0では有志で作成された、全米の臨床医によるデータベースによってトレーニングされており、より専門的で正確なアウトプットを生成できます。
利用者(主に医師)のうち約80%が「参考になる」、70%が「正確である」と評価しています。

右:診断結果を、可能性の高い病気の順に提示してくれる。最後には参考文献も記載。
左:具体的な治療方法や計画も出力できる。

私も胃腸の悩みをGlass AIにて書き込んでみたところ、前回病院で言われたこととほぼ同じ診断結果・治療方法が生成されました。病院だと1時間だった待ち時間が、10秒になりました。
このように一般のユーザーにも非常にニーズがあるサービスだと思いますが、Glass AIは医療関係者以外に広める予定はないと明記しています。これはおそらく、医療関係の法律や社会倫理に関する問題がまだあるからだと思います。
生成された内容を鵜呑みにしたり、それこそブラック・ジャックのようなことをして悪用したりと、一般公開するには未だ多くの課題が残ります。
しかし医師が患者の診断時や、医療計画の作成時において活用することで、病院の効率性は驚異的に上がるでしょう。長ったらしい病院の待ち時間も、スピーディーに回すことができるようになります。
Glass HealthはY CombinatorのWinter 2023バッチに採択されたスタートアップで、そこでPre-Seedとして50万ドルの資金を調達しています。
共同創設者のDereck Paulはハーバードメディカルスクールにも在籍していた医師博士で、Graham Ramseyは多くの医療系スタートアップでエンジニアとして経験を積んでいます。二人がGlass AIを開発したきっかけは、コロナ禍によって医療業界にもテクノロジーによる改革が必要だと強く感じたからだそうです。
その業界を変えたいという強いビジョンと、UXが使いやすいという点で、私個人としてもGlass AIを応援しています。また私は医師との会話が大の苦手であるため、将来的には一般ユーザーにもリリースして欲しいと願っています。
この医療業界のゲームチェンジャーには、これから様々な投資家やVCが投資検討を行うと思うので、そちらにも注目したいです。

Harvey : マイオウンリトル弁護士

HP:https://www.harvey.ai
設立年: 2022年1月
拠点:アメリカ(カリフォルニア)
シリーズ:Series-A
累計資金調達額:2600万ドル

法廷にてAIとAIが熱い(CPUの処理によって)論争を交わし、AIが判決を下す。
Harveyはそんな未来の訪れを感じさせる、法律事務所向けのAIツールです。
HarveyはGPT4をベースに、インターネットの一般的な法律データに加え、法律事務所の業務成果物などでさらにトレーニングされています。これにより法律業界のような専門性が必要な分野でも、質の高いインサイトや予測を生成することが可能となります。
現在は既にAllen & Overyのような大手法律事務所や、会計系コンサルファームのPwCと提携しており、契約分析やデューデリジェンス、リサーチなどの実際の業務で活用されています。
Harveyは利用しているデータのプライバシーといった倫理的問題もあり、現在は承認された法律事務所のみにリリースされています。
共同創設者は、MetaやDeepMindにて大規模言語モデル(LLM)を研究していたGabriel Pereyraと、ロースクール出身で法律事務所での経験もあるWinston Weinbergです。
Seed期にはベースとなるGPT-4を開発しているOpenAIのスタートアップファンドから500万ドルの資金を調達し、また2023年の3月にはSequoia Capitalから2100万ドルもの資金をシリーズAで調達しています。大手企業との提携により、これからも投資家やVCが殺到するでしょう。
またHarveyの成功により法律領域でのGenerative AIスタートアップも増えてくると思います。
そうなると法律事務所はより優れた大規模言語モデル(LLM)を取り入れようとし、法廷ではAI vs AIの性能バトルが繰り広げられるというディストピア的世界も実現されてしまうのかもしれません。
一般公開は未だされていないベールに包まれたサービスですが、これからの動向を見守りたいと思います。

AQEMIA : 製薬業界の革命児

HP:https://www.aqemia.com
設立年: 2019年6月
拠点:フランス(パリ)
シリーズ:Series-A
累計資金調達額:3300万ドル

病気になったら、それに効く薬が一瞬でできてしまう!
そんなドラえもんの秘密道具のような技術を開発しているスタートアップがAQEMIAです。
AQEMIAはフランス発の創薬スタートアップであり、量子力学アルゴリズムとGenerative AIの活用により、かつてないスピードでの新薬発見を可能にしています。
AQEMIAはその革新的技術により、従来の手法のなんと10,000倍の速度で新薬の候補を生成できます。まさに創薬の革命と言えるでしょう。
従来の創薬プロセスでは実験データに依存してますが、AQUEMIAは量子力学アルゴリズムにより正確なデータを自分で生成し、それを元に適切な分子化合物の組み合わせを生成します。標的との親和性を予測しながら生成するため、より成功率の高い組み合わせを編み出すことができます。
AQEMIAのベースにあるこの量子力学アルゴリズムはOxfordやCambridgeなどといった名だたる大学での12年間の研究により生み出されたらしいです。
正直、背後にある技術は医療系の知識に乏しい私にはいささか難しく、有識者にぜひお話を聞きたいと思いました。こちら、詳しい方がいたらぜひ私の方にDMしていただけると助かります!
またAQEMIAはその技術の細かい説明を下記サイトにて行っていますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

https://medium.com/aqemia

共同創設者のEmmanuelle Martiano RollandはBCGの元プリンシパルで、製薬業界のプロジェクトをメインに携わっていました。Maximilien Levesqueは量子力学の博士号を持ち、フランスの高等師範学校にて創薬のための量子力学アルゴリズムやGenerative AIの研究をしていました。
こうした経歴を見るとAQEMIAを創設したのにも納得がいきます。
AQEMIAは2022年11月に、EurazeoBpifranceがリードし、シリーズAで3300万ドルもの資金を調達しています。
Generative AIを活用した創薬系スタートアップは、AQEMIAの他にもNew Equilibrium BioscienceInsilico MedicineEntosなど2019年辺りから水面下で出てきてはいるので、今後もっと深く記事にしていきたいと考えています。創薬とGenerative AIは相性がいいのかもしれません。

Vertical Generative AIの黄金期

今回の記事では医療や法律といった特定のドメイン(領域)に特化したGenerative AIのスタートアップをメインに紹介しました。
こうした特定ドメインに特化して開発されたAIはVertical AIと呼ばれ、その領域特有のデータセットによりトレーニングされていることが特徴です。
2023年からは、こうした特定のデータセットによって微調整(Fine Tuning)されたGenerative AIが集中的に開発されるのではないかと言われています。

今後のGenerative AIの進歩と活用の予想:SEQUOIA Capital

こうしたドメイン特化のGenerative AIは、既存の業界に大きく揺さぶりをかけるとと共に、AI周りのスタートアップの競争環境をより激しくするでしょう。
個人的には以下の3つがこうしたVertical Generative AIスタートアップにおける課題になってくるのかと思います。

  1. 学習用データセットのプライバシーの問題

  2. 学習に利用するデータセットの収集

  3. サービス導入時の業界からの反発

1に関してはGenerative AI全般の問題としてかねてから議論されていましたが、扱うデータセットがより非公式で時には個人情報を含むため、ドメイン特化のAIはより気を配らなければなりません。
また2に関しては、同じく扱うデータセットが普通と違ってインターネット上に大量に転がっていないという性質上、ドメインによっては限られたアウトプットしか生成できないという問題がありえます。これに対しては、インターネット上のデータと専門性の高いデータを柔軟に組み合わせることで克服する必要があります。
3に関しては、こうしたドメイン特化のAIは対象となる業界内の既存企業にとっては脅威として捉えられ、かつ保守的な文化や構造が複雑な業界などにおいては導入が難しいのが一番の理由でしょう。今回取り上げたスタートアップは、Generative AIのエンジニアや研究者だけでなく、そのドメインの専門家がチームに入っていることが成功に繋がったのだと思います。
Vertical Generative AIは比較的新しい概念かもしれませんが、昨今のAIの急激なモデルの進歩を見るに、あらゆる業界で実際にGenerative AIのサービスが導入され定着するのも時間の問題のように思えます。

最後に

次回の記事では、ゲームAIとその社会実装についてより深く掘り下げていきたいと考えています。
HAKOBUNEはこれまでにも、社会性を持つ汎用型AIを開発しているスタートアップや、AI司会者によるオンラインミーティングの自動化サービスを提供しているtenderなど、Generative AIを活用したスタートアップに投資してきました。
またHAKOBUNEではGenerative AIの領域だけでなく、**将来の時代を象徴する"変化"**に積極的に投資していきます!
これからの社会を担う起業家や、アイデア段階にいる方々ともぜひお話をしたいと考えていますので、お気軽にご連絡ください!

HAKOBUNEのウェブサイト:https://www.hkbn.vc
記者のTwitter:https://twitter.com/shinichi815


<参考資料>
Dealroom.com, Generative AI startups
Netguru, 31 Remarkable Generative AI Startups You Simply Can't Ignore
CB Insights, The state of generative AI in 7 charts
Fast Company, Is Perplexity AI showing us the future of search?
Y Combinator, Glass Health, COMPANY LAUNCHES
Clio, Harvey AI: What We Know So Far
Tech.eu, Using “deep physics powered- AI”, Aqemia raises €30 million to further its drug discovery pipeline
Sequoia, Generative AI: A Creative New World