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トップガン マーヴェリック -原映画的な〈動き〉の感動と, 狂人トム・クルーズの面白さ-

感想、短評

満を持して、公開された次世代航空機映画。
観た感想としては、まず前作『トップガン』と同じ過ぎて驚いたのと、映画の原初的な”動き”に関する感動を物凄く与えてくれる作品であったという事。

鑑賞直後の感想はこちら ↓

前作と殆ど同じ?

まず、【前作と同じ】という点については、特に説明する必要もないと思われる。 

”あの”オープニングや、バーのシーン、ビーチでのスポーツ、恋人とのロマンス等といった要素は勿論。 プロットも、全く同じといって良いレベルだ。

これは、2012年にメモを残し橋から飛び降りてこの世を去ったトニー・スコットへの捧げられた映画であるから、という見方も出来るかも知れない。
実際、いくらかはそういう面があることも確かだろう。
しかし、忘れてはならないのが、本作が航空戦闘映画だという事。
かつて、新たな戦闘機が開発される度に制作されてきた数々の航空機映画、それらのあるあるネタを詰め込み、集大成として製作されたのが1986年『トップガン』だとすれば、現代の最新技術と最新戦闘機で製作した次世代航空戦闘映画『トップガン マーヴェリック』でが、同じような出で立ちになるのは必然とも言えるかもしれない。

何にせよ、前作へオマージュがストレートであるという点は今作の良かった所だ。マーベル映画や、新スターウォーズトリロジーにおける「これいいよね? わかる?」といった、これ見よがしのオタクマウントのような部分が無いのだ。 それどころか、本作では、鑑賞中、オマージュどうのこうのに感じ入るより前に、飛行機が猛スピードで駆けるという〈動き〉そのものへの感動に圧倒されてしまう。

リュミエールから通底する〈動き〉への熱狂

この、〈動き〉のもたらす感動を、映画黎明期の作品『ラ・シオタ駅への列車の到着』から考えてみたい。
これは、シネマトグラフを開発したリュミエールによる1895年の映画で、
これが上映されたとき、観客たちは自分らに向かって近付いてくる実物大の列車の動きに圧倒され、叫び声を上げながら部屋の後方へ走り出した。
という逸話が有名だ。

その話そのものは、誇張された都市伝説のような様相を帯びているが、当時の人々が初期映画にこれまでにもなく興奮したのは事実だった。

1895年 3月22日に行われた、リュミエール社による最初の無料上映会における目玉は、当時会社が必死に開発していたカラー写真だった。(リュミエール家は元々写真館) しかし、講演の最後に補足として実演された『工場の出口』に聴講者は熱狂し、そのフィルム上映を直ぐに繰り返すよう求めたという。写真雑誌のレビュワーによれば「運動が得た名声はカラーへの評判を間違えなく凌駕していた。[中略] 生き生きと動き出すイメージの投影の成功は計り知れないもので、人々の熱狂を駆き立てるほどだった。」
この、〈動き〉への熱狂が、当初シネマトグラフという動画記録機 兼 上映機を販売しようと考えていたリュミエールの考えを改めさせ、映画を製作し入場料を取って上映する商売へと、方向転換を迫ったのだ。

自分が普段見る事の出来ない動き(運動)、或いは何処かへ行けば見られるものであったとしても、それが目の前で再現(表出)される事自体に抗いようのない魅力があったのではないか? 
駅に列車が入ってくる風景など、プラットフォームに立って眺めていればたばの日常風景だ。(勿論、当時は今以上に高級であったという事を考慮する必要があるが、それでも駅以外の線路等で列車を眺める事はそんなに難しい事ではないだろう。)  しかし、それを暗い室内で、目の前のスクリーンに再現された時、映画の魔術ともいうべき魅力を放つのだ。

現代に生きる我々の周りはモニターに溢れており、しかもその多くは企業広告であるという現実が、この ”動きの再現” に対する感動を鈍らせているのではないか? 私自身もそうだが、例えば映画を見たときに、その背景や、意図する真意に思い巡らす事でしか感動を得ずらいような、そんな感覚は無いだろうか?

本作でF-18が曲がりくねった狭い経路を超音速で飛ぶのを見ていると、言いようのない感動がこみ上げて来た。そして、「残りはこれがずっと続くだけでも良いな」と思えてしまう。映画黎明期から通底する、映画の面白さを体験出来たような気がした。

スターウォーズとの類似性

もう一つ、原初的という事で関連付けるなら、『スターウォーズIV/新たなる希望』との類似性を挙げられるかも知れない。マーヴェリックが敵の軍事施設を破壊する作戦は、正にデススター破壊作戦と似ているし、(何れも、狭い通路を戦闘機で疾走し、これまた小さな穴に爆弾を落とすというもだ) プロットを見ても、例えば、敵の弱点が分かりブリーフィングをして仲間と決死の作戦に向かう とか、父の死とか、メンターと若者の関係など似通った部分が多い。『トップガン マーヴェリック』の場合はスター映画でもあるので、トム・クルーズという異常な存在が、メンターでもあり、成長する主人公でもあり、組織のトップ陣として作戦を立案する者でもあり、チームを率いるリーダーでもあり。。1人でどんだけやるんだ!?といった事はあるのだが。 

そもそも、スターウォーズIVは、ジョージ・ルーカスが、アドヴェンチャーものや西部劇といった昔からあるアメリカ娯楽の面白さや、第二次大戦を題材にした航空戦闘映画、乗り物で猛スピードに駆ける事の面白さ(彼は元々レーサー志望だった)といった諸々の要素を、各地の神話などに見られる元型的なプロットで紡いだものであった事を考えると、この2作の類似性には興味深いものがある。


トム・クルーズのストレンジな製作秘話


公開が遅れた約2年の間に色んな撮影秘話が聞こえ漏れてきていた。

トム・クルーズの異常性には先にも少し触れたが、1作目『トップガン』から36年間、常にトップスターとして活躍している事や、還暦近い彼が20代若手俳優のようなラブロマンスを演じている時点で、冷静に見なくても、ヤバい奴 である事には疑いようがない。

ここでは、『トップガン マーヴェリック』のインタビュー等から、トム・クルーズのストレンジさが垣間見えるものを厳選し、紹介したいと思う。

① トム・クルーズがやるから、、しかたなく、?

トム・クルーズがやるというので、本作ではキャスト全員が実際に戦闘機に乗り撮影する事になった。これはトムが続編を製作する条件でもあったと、インタビューで語っている。
本作では、戦闘機に最大6個のIMAX認定カメラ(この映画のために開発されたSony Venice 6Kフルフレームカメラ)を装着し、文字通り実際に飛行機を飛ばして撮影されている。
勿論、俳優が操縦して、、という事ではなく戦闘機は2人乗りなので後部に乗って撮影しているのだが、それでも例えばF-18に乗ると7~8Gの力を受けるため(体重の7,8倍の力で空気に押されるという事だ!?)、3ヵ月に渡る耐重力トレーニングを受ける必要が有った。それでも、マイルズ・テラーによれは、新キャストのうち数人は、撮影中戦闘機に乗る度に吐いていたとの事。

『トップガン マーヴェリック』メイキング映像より
本作でマーヴェリック率いるチームが操縦する F-18

また、戦闘機にカメラを固定して撮影する都合上、パイロットを演じる俳優たちは、自分でカメラを回すだけでなく、化粧直しや照明の調整、音響も自分でやらなければならなかった。監督は、俳優が映像を持って戻ってくるまで、何時間も待ち、そして、その映像を見て調整し、また次のテイクに臨む必要があったのだ。

②トムは自らも操縦

トムは今や、俳優というだけでなくパイロットでもある。
5/24に公開されたジェームズ・コーデンのショーでは、トムが実際に操縦する姿が見られる。
このショーでも出てくるが、マーヴェリックの劇中で出てくるP-51マスタングは実際にトムが所有する機体の1つだ。

P-51 マスタング

③トムはヴァンパイア?

2019年7月のEntertainment Tonightのインタビューで、ケリー・マクギリスは本作への出演を依頼されなかったと発言し、一時話題になった。連絡がなかったと思う理由を聞かれた彼女は、「私は年寄りだし、太っているし、年齢相応に見えるし、あのシーンはそういうことじゃないからでしょうね」と答えている。「私は年齢相応な自分の肌と、自分自身に安心感を感じています。それとは反対の事に価値を置く人も多いけれど。」とも。
全くその通りだろう、良くミームにもされている、トムの変わらなさが異常なのだ。。

トムのmeme

④悪魔のビーチシーン 再撮影?

シャツを着ていないビーチフットボールのモンタージュは、トム・クルーズが最初のバージョンでは十分でないと判断したため、2度撮影する必要があったようだ。俳優たちには、そのシーンを再撮影するために引き締まった体を取り戻さなければならなくなり、前回の撮影がダメと判断されたことからさらなるプレッシャーがかかった。

グレン・パウエル
「(1回目を)撮影したその日の夜、みんなでミルクシェイクとティタートッツ(ポテトフライ)を食べに行ったんだ。みんなでビールを飲んで、豪勢にやりましたよ。 一週間後、トムは「もう一回撮らなきゃだめだ。十分な出来ではなかった。もう一回撮るんだ。」と。 そして、みんなまた昼も夜もジムに戻ったんだ。」「シャツを脱ぐ男性俳優の不安は相当なもので、体育館は昼も夜も満員でした。今まで見たこともないような不安の度合いでした。」

1作目での同じようなシーンがとても人気だったため、今作のビーチシーンは、劇中で使用されていない部分の映像も、予告編やその他の宣伝広告にかなり使用されています。

その成果もあり、このシーンは2019年から多くのGIFになり、各所で共有されている。

⑤限界を超えたマーヴェリック

海軍の最高齢戦闘機パイロットが54歳で引退。マーベリックの1962年の誕生から計算すると、『トップガン・マーベリック』では58歳。
トム・クルーズ自身がそうであるように、そしてマーヴェリックが劇中で言うように、限界を超える事を達成しているのだ。


今作の敵は何だったのか?

最後、おまけ的に。

具体的に言及されることはないが、映画で描かれた戦闘任務はイランに対するものであると言われています。マーベリックはF-18を撃墜された後、空母に戻るためにF-14を盗んで飛行しますが、F-14戦闘機を運用している国は、アメリカ以外にはイランしかないためです。1978年イランはアメリカの同盟国であったため、最新鋭のF-14を計80機購入した。しかし、その1年後、イランの国王がホメイニ師によって追放され、80機のF-14戦闘機は突然、敵国の手に渡ったのである。結局、アメリカは2006年にF-14戦闘機を退役させ、すでに博物館に収蔵されているものを除いて、すべて廃棄した。しかし、イランは老朽化したF-14戦闘機を今日まで運用し続けている。

また、本作の敵機は、2020年12月から運用開始された、スホーイ社のSu-57第5世代戦闘機です。

マッハ10で飛行するダークスターの正体は、、?

本作に登場する架空の戦闘機、極超音速のダークスター。
実在するロッキード・マーティン社のプロトタイプ、極超音速機SR-72に似ているという事でマニアの間では話題になったが、そのデザインには実際にロッキード・マーティンが協力しており、機体にはスカンクワークス(軍事関連の秘密開発部門)のスカンクマークが施されている。

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