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小さな変更と大きな可能性 〜J2リーグ 第24節 大宮アルディージャ vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第24節 大宮アルディージャvsレノファ山口FCの試合は,1-0で大宮アルディージャの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


3バックのポジション変更

この試合の山口のトピックスは,3バックの菊池と楠本のポジション変更でした。これまで3バックは右に前貴之,真ん中に楠本,左に菊池で固定されていました。しかし,この試合は真ん中に菊池,左に楠本となりました。

その狙いとしては,大宮の1トップであるファンマを対人に強い菊池をぶつけることで抑えようというものだったのだろうと思います。ファンマはサイドに流れて起点を作ることも多く,それを抑えるためには菊池に明確にマークさせる必要があったのでしょう。

その点で言えば,前半から菊池は失点シーン以外は仕事をしていたと言えると思います。ファンマも苛立ちを表していたように見えましたし,与えられたタスクはこなしていたと思います。ですから,山下のミスキックをファンマが収めてからの失点シーンは勿体無かったと思います。あの一瞬の隙を仕留めた大宮が見事でした。

ただ,この変更で気になったことは別のところにあります。それはビルドアップの面です。真ん中に菊池,左に楠本という変更によってビルドアップが窮屈になってしまうのではないかということです。

これまでは,ボールを扱う能力の高い前貴之がいる右サイドでボールをつなぎながら,中長距離のパスが出せる楠本が真ん中から左サイドの瀬川へ展開することが1つのパターンでした。楠本が真ん中にいることによって,右にも左にも縦にも展開できていました

しかし,3バックの中ではどうしてもビルドアップの能力では劣ってしまう菊池が真ん中になると,この状況が変わってくるのではないかと思うのです。この試合では特に前半,左の楠本にボールが渡らないという状況があったと思いました。つまり,真ん中から左への展開が少なかったということです。

大宮の方もそれは意識していたように見えました。ファンマが菊池に対して左に出させないようなプレスをかけているシーンが何度かありました。9分や14分のシーンはファンマのプレスのコース取りによってビルドアップのルートが右サイドに限定され,大宮に奪われるというプレーでした。菊池も試合の中で良い縦パスを出すシーン(51〜52分)もありましたが,窮屈になっているように見えるシーンもありました。

それぞれ1試合のデータになってしまいますが,栃木戦のパス数は真ん中の楠本が64本,左の菊池が43本でした。一方で大宮戦のパス数は左の楠本が39本,真ん中の菊池が48本でした。

ポジションが変わるということはこういうことだと思うのです。3バックの真ん中の選手のボールを扱う機会が増えることは必然です。だからこそ,選手の特性を考えた時にどの選手をどこのポジションに配置するのかということが重要です。ビルドアップのことだけを考えれば,楠本が真ん中の方が良いと思います。

ただ,この観点からだけで決めることができないのがサッカーです。何を重視して何に目をつぶるのかという取捨選択が必ずあります。

次節の横浜戦もイバや皆川,戸島など強いFWがたくさんいます。楠本左,菊池真ん中という変更が継続なのかどうなのかに注目したいと思います。継続ならば,どうやってビルドアップを図るのかという点に,楠本真ん中・菊池左に戻すのであれば,どうやって相手のFW陣を止めるのかという点に注目です。



山口にアクセントをつけられる田中パウロ淳一への期待

一瞬の隙から大宮に先制を許し,そのまま追いつくことができずに敗戦となってしまいましたが,その要因の1つに交代で投入したパウロを封じられてしまったことが挙げられます。73分に川井代わり投入され,システムも4-4-2のようになり,その右サイドでプレーしましたが,ここで効果的なプレーを出すことができませんでした。

その理由の1つが大宮の対応の良さです。特に対面でマッチアップすることになったイッペイ・シノヅカの対応は見事でした。パウロは簡単に抜くことができず,時間をかけさせられ1vs2での仕掛けを強いられてしまいました。この状況に持ち込んだイッペイはさすがの対応でした。

しかし,パウロが封じられた理由は大宮側の対応だけにあるとは思えません。山口が右サイドでのパウロの生かし方を見つけられてないのではないかと思うのです。一言で言うと,山口にはまっていないように見えるのです。

シーズン序盤からパウロを右サイドで使う時には,あえて孤立させることを狙っているのだと思います。パウロの特徴であるドリブルを生かすためには,1vs1の状況を作ることが必要です。そのためには下手に味方はパウロに近寄らない方が良いわけです。これがあえて孤立させるということだと思うのですが,この孤立のさせ方が大宮戦はうまくいっていませんでした。

見るべきポイントは1vs1の状況を作れているかどうかです。79分50秒あたりのパウロの仕掛けはどうでしょう。パウロがボールを持った瞬間はイッペイとの1vs1が作れているように見えます。右SBの前貴之もあえて寄らずにペナ内に入っていきます。しかし,パウロがカットインして中に入っていこうとすると,大前がその先の侵入を防ぐようなポジションを取っています。これではパウロから見たら1vs2の状況です。
この後パウロが切り返しを見せ,縦に持ち運ぼうとしますが,その大前にクロスをカットされてしまいました。
このシーンでは前貴之が大前を引っ張る必要があったと思います。インナーラップで大前を動かしパウロにカットインさせるでも良かったですし,逆に目の前で止まる事によって,パウロに縦を突破させるでも良かったと思います。

他にも88分20秒90分20秒のシーンもパウロは1vs1ではなく1vs2の状態でボールを受けることになってしまっています。

これらのシーンはチームにとっての課題です。もちろんパウロの突破はチームとして大きな武器になり得るものです。だからこそ,このような起用をしているのだと思います。

ここでレノファだけではなくフロンターレも好きな私は,家長のことを思い浮かべました。2017年にフロンターレに加入して連覇に欠かせない存在となり2018年のMVPも獲得した家長ですが,加入してしばらくはチームにハマらない状態が続いていました。もちろん怪我があってプレーできない時期もあったわけですが,それでも家長ほどの選手がこれだけ長くハマらないことは驚きでした。

そんな家長が「遂にフロンターレにハマったな」と印象づけた試合が2017年8月13日に行われた鹿島アントラーズ戦でした。この試合ではリーグ戦初ゴールを挙げたのですが,それだけではなく攻守にわたって存在感を見せました。この試合の後,それまで3試合しかスタメン出場がなかった家長は,出場停止の1試合を除く全試合にスタメンで出場し優勝に大きく貢献しました。

パウロもフロンターレの家長のように,山口にアクセントをつけられる特徴を持った選手だと思います。1度その生かし方を本人もチームも見つけることができれば山口に欠かせない存在になる可能性を持っているでしょう。

家長がフロンターレにはまった8月13日を1つの基準とすれば,そこまであと山口は3試合となっています。横浜戦,水戸戦,柏戦の3試合の中でパウロの生かし方を見つけられるかどうかという点を楽しみにしたいと思います。


*文中敬称略


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