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弾き語りって、なに着りゃいいの?

どんな衣装で、どんな髪型でステージに立つかは相当大事な問題だ。別に見た目を良くしてカッコつけたいわけではない。人前に立ち何かを「伝える」からには、「伝わりやすさ」を意識するべきなのだ。夏っぽい音楽ならさわやかなマリンルックを、パンクなら鋲付き革ジャンとツンツンヘアー、自然体の音楽ならTシャツとジーンズみたいな感じで。聞き手を自分の世界に巻き込むために、ステレオタイプなイメージを逆利用する感覚だ。

何にも属さない奇抜なファッションなら、それはそれで独自性をアピールできる。表現者側がファッションに気を遣うことによって、聞き手側の心構えが整い、こちらの伝えたいことが伝わりやすくなる。

また、表現者自身の気持ちが高ぶるようなアイテムを身に着けるのも大事だ。青色が好きなら青い服、サッカーが好きならサッカーにちなんだファッションを。大事な人の手作りアイテムを身につけることで心を落ち着かせたり、リスペクトしているアーティストの髪型を真似てテンションを上げるのも悪くない。

バンドやチームの場合、メンバー全員がそろいの衣装を着ていたり、何らかの統一感があると、そこにグループとしての理念が見え隠れする。聞き手は、統一されたイメージから何かを感じ取り、それが「伝わりやすさ」につながっていく。

メンバーがバラバラの衣装を着る場合も、それがグループならではの個性になって何かが伝わる。ただ、聞き手の感性によっては、誤ったイメージが伝わったり、混乱が生じてしまったりする場合もある。「衣装なんて適当でいいよね」が許されるのは、よっぽど自分たちの作品やパフォーマンスに自信がある場合に限られる、と思っている。


今回、弾き語りで初ライブをするにあたっての私のプランは? いま、弾き語りで表現しようと思っているのは「自然体の自分」「自分の生きざま」である。

髪型は普段通りでいく。「サイド刈り上げ、てっぺん結び」は、20代でバンドをやっていた時期も、自分のトレードマークになっていた髪型だ。高校3年生のときに、ライブハウスでみかけたあるバンドの黒髪ロングへアーのボーカリストが、サイドヘアを剃り上げていたのを見て「え、サイドつるつるじゃん。どういうこと? なんかやべぇ。っていうか、かっこいい」と思い、勢い込んで真似したのがわがサイド刈り上げ人生の出発点である。そのときは、完全にツルツルにした。また、当時好きだった「DOOM」というバンドの超絶技巧ベーシスト・諸田コウさんも両サイドを剃り上げていた。「諸田さんも剃ってるしなぁ」と、ベースに夢中になっていた高校時代の私は、思い切った決断をしたのだった。あこがれからの暴走。諸田さんほど大胆な剃り上げではなかったけど。

20代になり、バンド活動に明け暮れていた時期は、最初は肩ぐらいまで長い黒髪、続いて一般黒髪、青髪、金髪、その後はサイドを刈り上げて金髪てっぺん結びに。「どうか髪型だけでも覚えて帰ってください」みたいな思いで、インパクトを追求していった結果そうなった。ブリーチしまくって「銀髪にしちゃおうかな」と思ったこともあった。51歳になり、いまでは白髪まじり。都合よく解釈して「シルバーヘアーの夢がかないつつある」と思いこむことにしており、何気に気に入っている。

この髪型には、少年時代のあこがれと自分の歴史が宿り、いまや自分にとって自然なものになった。なのでライブだからといって余計なことはしない。帽子もかぶらない。このヘアスタイルは人に覚えてもらいやすいので、フリーランスとして仕事をするうえでも、キャラ付けの一環になり役立っている。


問題は衣装のほうだ。

最近、サンバチームで人前に出るときは、チームのイメージカラーが配色されたシャツだったり、カーニバルのパレードで着た衣装だったり。ロックバンドでも、衣装をそろえたり、色味だけは統一したりすることが多かった。
 人生のなかでもっとも力を注いでいたバンドは、結成当初はいわゆるソフトビジュアル系みたいな感じで黒スーツにカラーシャツっていう感じだった。でも、音楽性やバンドとしての存在感に自信を持てるようになってからは、メンバーめいめいに好きなものを着るようになった。さっき書いたように、どこかに「衣装なんて適当でいいから、音楽で勝負しよう」みたいな気分があったし、ライブ本数が増えていくなかで、毎回スーツを着るのが面倒になったとも言える。かっこよさより、演奏しやすい方がいいし、衣装の準備に時間をかけるよりも、その時間で新曲を作った方がいい。

今回は「自然体の自分」というコンセプトで行くのだから、カッコつけた衣装を着るのは違う。一瞬、派手目なシャツでも新調しようかと思ったけれど、気ノリしなかった。じゃあ、ラフな感じで、Tシャツでいいのか? 自分の生きざまを歌うのなら、いっそ、Tシャツの正面に「俺」とデカい文字を印刷しようかとも思ったが、ぱっと見意味が分からないし、観光地で売っているジョークシャツみたいな感じは絶対に避けたかったので、やめた。できれば「弾き語りはじめました」「自分のすべてを弾き語りに注ぎ込むぜ」みたいな、決意が伝わるようなメッセージがプリントされているものがいいのだけれど、それも一歩間違えればダサい。仮に「これならいいんじゃない?」っていうTシャツが見つかったとしても、そもそも、自分のいまの体形を考えるとサイズが合う可能性は相当低い

そう考えると、もう、自分でデザインして、着られるサイズを扱っている店に注文するしかない。デザインに費やす時間があったら、歌とアコギの練習をした方がいいと思いながらも、こういうデザイン作業が好きなので、ついついやってしまう。昔から、オリジナルのTシャツを作るのは好きだった。バンドのデモテープやCDに、おまけとしてオリジナルTシャツをつけて売ったり、バンド主催のイベントで出演者全員用のそろいのTシャツを作ったりもしてきた。当時は「Tシャツくん」という、家庭用シルクスクリーン印刷機を使っていた。扱いが面倒なのと、割高なので、使うのはよっぽど気合いが入っているときだけ。でも近頃はデザインデータをアップロードすれば、Tシャツをはじめとするオリジナルアイテムを作れるネットサービスがある。これがめっちゃ便利だ。

私が利用しているのは「SUZURI」というサイト。これまでも、いくつか自分用のTシャツを作ってきた。そして、今回もSUZURIでライブの衣装を作ることにした。Tシャツなら普段通り。よそ行き感がなく、自分らしいスタイルである。自分でデザインを考え、利用しなれたSUZURIで製作というのも、自分らしくて自然なことだ。

SUZURIで自作したTシャツでステージに立つことは決めた。では、どんなデザインするのかが次の問題になる。かつて小山田圭吾さんが「コーネリアス」を名乗ったように、私も弾き語りミュージシャンとして何かしら別名義を名乗り、ロゴをデザインしてTシャツにプリントするのはどうだろうか? いや、今回は「自然体」がコンセプトなので、「澤井一」の実名で活動したい。じゃあ「澤井一」でかっこいいデザインを作ればいいのか? 自分の名前入りのTシャツは、中学校の体操着みたいになりそうだから避けたい。なんといっても、下の名前「一」がロゴデザインに向いていない。

何かキャラクターイラストのようなものは用意できないだろうか。だが、考えてみるとソロ活動なのだから、イメージキャラクターは自分自身に他ならない。自分以外のキャラクターを用意してしまうと「自分らしく歌ってみたい」というコンセプトがぶれてしまう。それに、そもそもイラストを描く能力がない。じゃあ、写真や似顔絵をTシャツにプリントすればいいのか? 見た目を売りにしたいならそれもいいけれど、勝負どころはそこじゃない。

などなど、考えているなかで、ふと「ロックバンドのツアーグッズみたいなデザインのTシャツはどうだろうか」とひらめいた。ツアータイトル、公演日時と訪問先がずらりと背中にプリントされているタイプ。あれを参考に「澤井一ライブ・イン・DOMA」みたいな、Tシャツを作れないだろうか。あるいは、フェスグッズのような、背中に出演バンドのロゴがずらりとプリントされている感じのTシャツもかっこ良さそうだ。

「それならば、自分がこれまでに組んできたバンドの名前を背中にプリントして、フェスTみたいなデザインにすればいいんじゃないだろうか。そうすれば自分の歴史を背負って本番に臨める。『生きざまを表現したい』というコンセプトにも合う」

という感じで、一気にデザインの方向性が決まった。こうなったら話は早い。パソコンにロゴデザインのデータが残っていたのは2~3バンドのみだったので、あとは勝手にロゴを作り出して、自分がいままで参加してきた全15バンドのロゴ入りTシャツが完成した。

今回プリントしたのは、オリジナル曲で活動したバンド、ユニットの名前のみ。ASADO ASAKAWAでは、まだオリジナル曲を作ってないけれど、これから作る予定なので入れた。「15バンドか。俺も頑張ってきたな」と思うべきか、それとも「節操なくやってきて、どれも大した成果が出てないじゃないか」と嘆くべきか。悩ましい。

バンドロゴをプリントした背中に対して、正面には「I've been playing in bands for a long time, but I'm thinking of doing a solo performance」という英文を印刷した。意味は「長い間バンドで活動してきたけど、ソロ活動をしてみようと思っているんだ」である。自分自身の過去を背負い、いま現在の思いを胸に掲げる。ちょっとやりすぎちゃってる感じが照れくさくもあるけど、自分を奮い立たせるために、これくらいやってもいいだろう。

パソコンで組み上げたデザインデータをSUZURIにアップロードして、待つこと1~2週間でTシャツが仕上がってくる。仕上がってから、高校1年生のときに組んだ「秘密結社・武装らすかる」というバンドの名前を入れ忘れたことに気が付いた。人生で初めてオリジナルを作ったバンド。高校2年生で人生初のライブをやったのも武装らすかるだった。別に嫌な思い出があって、記憶から消し去っていたわけでもないのに、シンプルにうっかりした。

ちなみに、Tシャツの生地はドライタイプ。色は「ネイビー」にした。厳密には異なるようだが日本語で表すなら「群青色」。「青」には、清涼感、若々しさ、未成熟といったイメージといったイメージを持っている。それでいて知的で物憂げなイメージもあり、完全燃焼する炎も青い。その青が群れを成し、重なり合って深みのある「群青」となる。いつからか、そんな風に思うようになり、群青色は「まだ何者でもない悩みの中にある自分が、葛藤しつつも前に進むときのテーマカラー」になった。51歳にして弾き語り1年生の自分にとって、ネイビー=群青色は勇気をもらえる色なのだ。

ただ、届いたシャツは、かなり黒に近いネイビーだった。前に注文したときに「この濃紺、ちょうどいいな」と思った覚えがあったのだが、あれはもう1ランク明るい色味の「インディゴ」だったのだろう。注文履歴を確認するべきだった。はぁ。

武装らすかるの名前を入れ忘れるわ、生地の色が思った以上に濃いわで、Tシャツは100点の仕上がりとは言い難いけど、それは誰のせいでもない、全部自分のせい。そんなうっかりも自分の一部だ。今回用意したTシャツは「うっかりも込み」で自分らしさが伝わる衣装だと言えるだろう。だからこそ、堂々とこれを着て本番に臨む!

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