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練習場所にまつわるエトセトラ

弾き語りライブを決心したのは確か2月下旬。準備が整ってからライブ日程を決める流れだと埒があかないと思い、会場となるDOMAの廣井さんにお願いして先に日付を決めた。本番までは丸2か月以上ある。昔作った持ち曲と、カバーと、新曲を組み合わせれば30~40分のライブはできるはずだ。

曲には自信がある。聴いてくれた人がどう思うかは別として、自分のなかからあふれ出てくる曲は、おのずと自分好みになるので、すべてが名曲だと思っている。アコギの演奏はきっと大丈夫。……と、ライブを決心した時期は、割と簡単に考えていた。後に、アコギのコンディション不良が発覚し、弦高が高くて肝心なコードが弾きにくい、といった問題が浮上するとは思っていなかった。歌は苦手だけど、自分の味を出せばなんとかなる気がする。とうよりも、技術的なことはさておいて「できることを精いっぱいやるしかない」と腹をくくった。

個別に考えると、なんとかなる気がするが、コード進行と歌詞を体に叩き込み「アコギ演奏と歌をいかに調和させるか」となると話は別だ。こればかりは実際に演奏してみて、問題点があれば改善し、オートマチックに弾き語れるレベルまで練習するしかない。


2月後半から3月中頃までは、選曲や新曲づくりにあてた。練習の質を上げるためにも、余計な曲に時間を割くわけにはいかないので、曲順も想定しながら「どの曲をやろうかな」と結構じっくりと考えた。自分の演奏技術を考慮しながら、過去に培ってきたライブ構成のノウハウも参考にして計画を立て、闇雲にリハーサルするのを避けた。

ライブで演奏する曲が9割方固まり「さて練習をしよう」と思って最初に出かけたのは、家から歩いていける音楽練習スタジオ「ラクスタ」だった。京王線北野駅からすぐの場所にあるラクスタは、ネット予約、オンライン決済、受付は無人、24時間営業、というなかなか攻めたシステムのスタジオだ。

バンド利用とは別の料金体系で、個人練習は割安で利用できる。1時間700円。しかし、練習スタジオをヘヴィに活用していた20数年前は、個人練習と言ったら1時間500円が相場だったので、どうしても割高に思えてしまう。初練習時、2時間利用したのだが、確かめることが多かったせいもあり、あっという間に時間切れとなり「これで1400円かぁ」と、若干腰が引けてしまう感覚があった。

「もう少し安く練習できる方法はないだろうか」ということで、市民センターの音楽室を利用することにした。北野市民センターなら、ラクスタと同じように歩いていける。大和田市民センターも原付で10分くらい。どちらも音楽室は4時間使って800円だ。利用者は合唱や吹奏楽の練習がメインなのだろう。練習スタジオのようなドラムセットやギターアンプは用意されていないけれど、弾き語りなら問題ない。

北野市民センターの音楽室は予約で埋まりがちだけど、大和田市民センターの音楽室は意外と空きが多い。「明日の夕方、練習時間が作れそうだぞ」というときに、飛び込み予約もしやすい。市民センターは音楽室以外でも楽器や歌の練習ができる部屋がある。先日は、北野市民センターの和室で練習をさせてもらった。ただ音楽室のような防音はないので、練習中の裏声は隣の部屋や廊下に筒抜けだ。ふとわれに返った瞬間、照れちゃう。

それからもう一軒、片倉町のカラオケ屋さん「BANBAN」も利用させてもらっている。楽器練習OKとのことで、手前の部屋で三味線、自分のところはアコギ弾き語り、その奥の部屋でサックス、という日もあった。「お互い頑張ろうな」みたいな、妙な仲間意識が芽生え、その日はテンションがあがった。

BANBANはフリータイム制があり、午前10時以降の受付で、午後20時まで一律料金で利用できる。1ドリンクか、またはフリードリンクを注文する必要があるので市民センターよりは高くつくが、フル活用するなら10時間滞在しても2000円かからないのでコスパは抜群だ。私が利用するときは、どこかでお昼ご飯を食べて、13時前から気が済むまで、というパターンが多い。3月中旬から4月あたままでは春休み特別料金だったらしく割高だったが、この前はフリードリンク付きで1500円以下で利用できた。いま調べたら、20時に受付が始まる「夜の部」のフリータイム制もあり、こちらは朝5時まで利用できるようだ。料金は少し高くなるみたい。

フリードリンクのディスペンサーで、炭酸入りの紅茶が飲めるのもうれしい。個人的にティーソーダが大好きなのだが、なかなか飲める場所がないので、BANBANのドリンクバーは非常に助かる。また、フリードリンクを注文すると、自分で盛り付けるスタイルのソフトクリームも食べ放題になる。

バンド用の練習スタジオや市民センターのように事前に予約しなくても、店に着いたそのときから利用できるのも助かる。予約時間にスタジオに到着するべく、手前の予定を切り上げたり、遅刻を気にして慌てたりしないで済む。

ただし、お店が混んでいたら利用できないというデメリットはある。また、混雑時はフリータイムの上限が3時間になってしまうという落とし穴もある。ジックリ練習するつもりでスケジュール調整していたのに、「すみませんがお待ちのお客さんがいらっしゃいますので」と言われ、切り上げざるを得なかった日もあった。「そういうこともある」と覚悟をして利用している。


エレキギターやエレキベースは、自宅で練習ができる。アンプにつながずに弾けば生音は小さい。アンプにヘッドフォンをつないで演奏することも可能だ。サンバ楽器も、私が一番最初に取り組んだ「カイシャ」という楽器は、練習パッドをスティックでトコトコ叩いてトレーニングができる。でも、アコギも歌も、家では全力で練習ができない

市街地の集合住宅住まいであることは、音楽活動をする者にとってはかなりの弱点だ。だからといって、自宅で大きな音を出しても近隣から苦情が来ないような場所で暮らし、何をするにも車で移動して、というのも何かと面倒が付いて回る。結局のところ、いま、置かれた状況で腕を磨くより他はない。

アコギはエレキギターよりも弦が固いので、演奏するために左手の握力が必要になる。また、弦を押さえる指先も、皮がある程度固くなるまでイジめておく必要がある。やわやわの指先では、弦をまともに押さえられない。「ギターの達人は指先が固い状態を通り越して普通の人より柔らかい」なんていう都市伝説じみた話を聞いたことがあるが、私は達人ではないので、皮をある程度は固くしておいた方がいい演奏ができると思っている。

家にいながら握力と指の皮を鍛える方法はないかと考え、ふと、ヘヴィゲージのエレキ弦を張ったエレキギターを弾くようにすれば、アコギにも好影響があるのではないかと思いついた。エレキギターには、長年「アーニーボールの009~042」というセットを使っている。ピンク色のパッケージ。どこでも売っている弦なので、入手に困ることはない。極端な値上がりもせず、可もなく不可もなくなセットである。

これを「アーニーボールの012-056」というセットに変えてみようと思いAmazonで注文した。浅葱色のパッケージ。普段使っているピンクのアーニーボールよりだいぶお高いセットだが、これで握力と指の皮が鍛えられるなら悪い出費ではない。

届いた弦は、ちょっと笑っちゃうくらいに極太だった。普段はピンクのアーニーボールを張っているビル・ローレンスのエレキギター(テレキャスター)に極太弦を張り、チューニングを終えてコードを弾く。「ジョボーン」みたいな若干ジメッとしたサウンド。テレキャスには似合わなかった。

そして、極太弦は張力もエグかったようで、普通にチューニングしただけでネックが順反り状態になった。ハイポジションの弦高が異様に高くなり、リードフレーズがとんでもなく弾きにくい。ネックに変なクセがついてしまうと困るので、慌てて弦を外していつものピンクのアーニーボールに戻した。高かった浅葱色の極太アーニーボールは一瞬でさようなら。無駄遣い。勉強になったけれど。

そんなわけで、家での練習はあきらめた。結局、本番で使うアコギを実際に弾いて、声の限り歌いながら、弾き語ったときの身体の状態や心のゆらぎなどを確かめていくのが一番の練習なので、思いっきり音を出せる場所に行くしかない。

ラクスタ、市民センター、BANBANがあれば、練習場所には困らない。考えてみれば、ずいぶんと恵まれた状況じゃないか! ラクスタは、24時間使えるのが最大のメリットだ。市民センターは利用料金の面で実に素晴らしい、BANBANもお店がすいている日にフリータイムを活用できればコスパ最強だ(ティーソーダもある!)。

4月に入ってから、何気に練習時間を多く作っている。1か月前に比べれば演奏も安定してきた。ただ、最近は同じ曲を練習し過ぎて、自分の曲に飽き始めてしまったのも事実だ。上達するのが先か、完全に飽きてしまうのが先か。

一流のアーティストは、ファンから「待ってました」と言われるような曲と何十年も付き合い、パフォーマンスする度に輝きを放つ。そう考えると、人前に立ってもいないうちに「飽きてきたかも」だなんて論外だ。恥ずかしい。きのうの練習でも、おぼつかない瞬間が何度もあったじゃないか。未熟なんだから、ステージに立つまで歌と演奏を磨くのは当たり前。ステージに立った後も、歌と演奏をに向き合っていくのが作り手の運命だ。練習しやがれ。

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