見出し画像

で、何を歌うの?<演奏曲解説(2)>

澤井一、人生初の弾き語りライブ、3曲目に歌う予定なのは「はずれくじの棒っきれ」という曲。今年2月、徹夜続きで片づけた仕事の忙しさから解放されたあとに、ほうほうのていで最寄りのコンビニにおにぎりを買いに行く数分の間に歌い出しの歌詞とメロディが降ってきた。自分的にはかなりレアな3拍子の曲。

「はずれくじの棒っきれ」

はずれくじの棒っきれを片手立ち尽くす
風が強くなってきたぜ
僕の番はまだか?

あしたかもしれないし
100年後かもわからない
その時が来るまでここで待つさ
ルラルルー

忘れていた約束を突然思い出す
取り返しはつかないから
誰かにやさしくしよう

はずれくじの棒っきれを片手に立ち尽くす
虫たちは住処へ帰る
僕はどうしようかな

アツアツのスープを
誰かが誰かにぶっかける
キテレツなことばかり
夢かうつつか
ルラルルー

争いごとは苦手さ
お腹が減るだけだ
誰かの足を引っ張るような
バカにはなりたくない

はずれくじの棒っきれを片手に立ち尽くす
こんにちは
ありがとう
それがそれが僕だ 

【解説】 普段はフリーライターとして仕事をしており、副業も自宅でできる仕事を受けている。世の中の物価が上がろうと、もう何年も原稿料も副業のギャラも据え置かれたまま。最初に引き受けたときよりすっかり値下げされてしまった案件もある。収入は変わらないのに物の値段が上がるので、相対的に貧乏になっていく。値上げ交渉をすればいいのかもしれないけれど「じゃあ他の人に頼みますのでサヨナラで」と言われてしまうリスクがある。稼ぐためには量をこなすしかない。しかし体力的が衰えていく中、それも年々しんどくなっていく。51歳、職を変えようにも文章を書く以外にできることがない。

それなりに楽しくはやっているけれど、いつ干上がってもおかしくない。だからといって、何にどう抗えばいいのかわからず、途方にくれるのみだ。でも、自分で選んだ道だから誰に文句も言えない。

……みたいな心情を「はずれくじを引かされた人生」に例えて歌にしてみた。かわいげがあって明るい曲調だけど、結局内容はしみったれている。皮肉と諦観。ある意味で、近年の自分の状況を象徴している歌なので、今回のレパートリーに入れてみた。

「この世で一番かわいそうなのは自分」「こんなにがんばっているのに自分だけが報われない」という思いは、きっと誰にでもあると思う。実際にはそんなことないのだろうけど、人はそうやって思い込みがちだ。そういう人の気持ちに寄り添えたらいいし、この歌を歌うことで自分も和みたい。

制作途中、曲名を「はずれくじの棒っきれ」ではなく「はずれくじの紙っきれ」に変えようか迷ったけど、主人公が棒っきれをぎゅっと握りしめて荒野に立ち尽くしている方が見てくれがシュールでわびしさが際立つだろうと思い、当初のまま「棒っきれ」を採用した。


ライブの4曲目は、泉谷しげるさんの「春夏秋冬」のカバーを披露する予定。著作権の都合もあるので歌詞は割愛する。

「春夏秋冬」を知ったのは、1986年だったか1987年だったか。いずれにしても中学2~3年生の頃。フジテレビで放送されていた深夜番組「いきなりフライデーナイト」のエンディングテーマとして、泉谷さんがアコギ一本で弾き語りする映像が毎週流れていて、それがめちゃくちゃカッコ良く、ドラマチックな歌詞が14歳の心にじわーっと沁みた。

「大人になってからの音楽の好みは、14歳のときに聞いていた音楽によって決まる」という話を聞いたことがある。実際、泉谷さんの「春夏秋冬・いきなりフライデーナイトバージョン」は、自分の心にいまも深く刺さっている。当時は弾き語りというと『70年代のフォークソング』『古くさい』というイメージしかなかった。そんななか、好きになった「春夏秋冬」は、自分にとっては絶対的な一曲。それゆえに、初ライブのレパートリーに選んだ。

「春夏秋冬・いきなりフライデーナイトバージョン」を聞きたくて、泉谷さんのアルバムを何枚か聞いたのだが、どれも雰囲気が違い、勝手な言い分で申し訳ないのだが、どれも「これじゃない……」と少し残念な気分に。近年は、YouTubeをはじめとする動画サイトに懐かしの番組や、昔のテーマソングがアップされていることもあるので、違法アップロードだと知りつつも、当時の映像を探しているのだが、まったくもって見つかる気配がない。

そんななか今回は、おぼろげな記憶を頼りに、いきなりフライデーナイトのエンディングで聞いていた、自分好みの「春夏秋冬」の再現に挑んでみる。泉谷さんとは声質も歌い方も違うので、まったく違うものなるとは思うけれど。番組のエンディングでは、曲の後半部分が省略されていたので、そのあたりは自己流で。


5曲目は、20代の頃に打ち込んでいたバンドTRANSE(トランス)の3rdアルバム「MISSILE HAIR」の収録曲「シュガー」。TRANSEの歌詞は、9割方ボーカルの吉村洋之が書いているが、何曲かだけ私が作詞を手掛けたものがある。「シュガー」もそんな一曲。勝手ながら今回弾き語りで演奏するにあたって、題名を「愛しのシュガー」とさせてもらおうと思う。また、理由は後述するが間奏前の歌詞を少し変えた。

「愛しのシュガー」

どうして僕の宇宙はこんなに暗くて狭いの
どうして僕の宇宙はこんなに冷たいの
TELL ME NOW 愛しのシュガー
PLEASE TELL ME NOW, LOVE ME BABY シュガー

どうして僕の宇宙はこんなに息苦しいの
どうして僕の宇宙は僕のため回らないの
TELL ME NOW 愛しのシュガー
PLEASE TELL ME NOW, LOVE ME BABY シュガー

空の青さに怯えたときは
指のピストルでロシアンルーレット
君のつく嘘や適当な言葉に
和んでもいいかな?
安らいでいいかな?
シュガーシュガーシュガー

生きてる証を求めて僕らだけのやり方で
生きてる証を求めて本当も嘘も全部なぎ払え
ゼロから始めよう

雲の高さが不安な日には
オモチャの宝石で未来占う
あした世界が滅ぶとはしゃぎ
目隠しでダイビング
妄想でダイビング

空の青さに怯えたときは
指のピストルでロシアンルーレット
君のつく嘘や適当な言葉に
和んでもいいかな?
安らいでいいかな?
シュガーシュガーシュガー

【解説】 「MISSILE HAIR」は00年リリースなので、この歌詞を書いたのはおよそ四半世紀前ということになる。当時TRASNEは結成4年目、音楽性もだいぶ固まってきて、バンドとしては上り調子だったけど、このままやっていけばプロになれるのかなんなのか、そこはかとない不安や閉塞感を感じていた。そんな思いを、実在するのかしないのかわからない架空の恋人「シュガー」に打ち明け、すがりつこうとしている歌である。Aメロの「どうして僕の宇宙は……」というフレーズの畳みかけ部分と「シュガー」というタイトルが先に決まって、それ以外の部分を後付けで考えた。

「シュガー」なる人物は、1983年に公開されたアニメ映画「幻魔大戦」の中で、主要キャラのひとり、ソニー・リンクスが率いるギャング団の下っ端がふとしたシーンで口にする娼婦の名前である。その姿は作中に登場しないし、シュガーの名前を口にした下っ端ギャングは一瞬で死ぬ。物語のあらすじにはまったく関係がない。シュガーもギャングも完全なる脇役である。そんな人物に目を付けたところは、我ながら面白い着眼点だと思っている。誰もほめてくれないので自画自賛。

小学5年生のときに「幻魔大戦」を見て、作品の虜になった私だったが、その一方で「シュガー」なる女性がどんな人物なのかが、なぜかずっと気になっていた。可愛らしい人なのか、気立てのいい人なのか。シュガーにも死んだギャングにもドラマチックな人生はあっただろう。アニメには描かれなかったけれど、彼らだって夢や希望を抱いて力いっぱい生きていたはずだ。……などと、小学5年生の私は、初めて「自分とまったく関係ない誰かの人生」をあれこれ想像した。

そして大人になってから「思うようにバンドで成功できずに足掻いている自分は、この世界では脇役に過ぎないのだろう」とふと思い、幻魔大戦に出てきて一瞬で死んだあのギャングとシュガーのことが頭をよぎった。そして、自分の苦境を重ね合わせて、救われたい気持ちを吐き出すべくこの歌詞を書いた。

曲調はストレートなエイトビートのロック。弾き語りでは、ただただジャンジヤカとギターをかき鳴らす。マイナー調で始まって、サビがメジャーになるという仕掛けはあるものの、全体的にストレートな曲である。自分自身の音楽人生を振り返るうえで、TRANSEの曲も弾き語りで演奏したいと思い、自分が作詞も手掛けた「シュガー」を選んだ。バンドの曲を弾き語りにしてみたら、ちょっと寂しかったので、この曲でブルースハープを吹く予定。

TRANSEでは、中盤で「生きてる奴は手を上げろ、気持ちいいことをしようぜ、生きてる奴は手を上げろ、中途半端は終わりにしよう、ギターで目を覚ませ」と歌ってギターソロに突入する展開がある。しかし、ギターソロの予定もないし、ボーカルの呼びかけでお客さんが「手を上げる」ような演出もやりようがないので、歌詞を変更した。「生きてる証を求めて、僕らだけのやり方で、生きてる証を求めて、本当も嘘も全部なぎはらえ、ゼロから始めよう」。ギャングとシュガー。破滅的な青春を送った二人が、どこかで再出発する日を想像して、こんな歌詞を書いた。

「俺は俺の歌を歌う」「きみのために僕は祈る」「はずれくじの棒っきれ」「春夏秋冬」「愛しのシュガー」。この5曲で前半終了な感じ。残りはあと4曲。念のためアンコール用の曲も準備しているので、それも数えるとあと5曲か。知らんおっさんの弾き語りを長々見るのは苦痛だろうと思っている割には、自分は長くやっちゃうタイプ。飽きられないように、集中して挑まなければ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?