見出し画像

絶対に休みにならない職場で、私たちは写経をしている 【4月の備忘録】

とんでもないことになったな、と思いつづけた4月。いつまで寒いんだよと毎日思うほど、春がきた気がしない。1ヵ月が長い。目の前の景色から人が減り、融通の利かない物事にはさまれ揉まれ、それらすべてに慣れていく途中。

備忘録らしく、後々のために記録しておこうと思う。

*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:*+

緊急事態宣言を受けても、私の毎日は変わらなかった。混雑が減ったとはいえ座れるほど空いてはいない通勤電車に乗って、毎日職場へ通っている。

官公庁系の大量の書類をさばく事務センターで管理職をしている。うちのフロアだけでスタッフは約300人。他にもフロアがあり、どこもみちみちではないが充分な3密だ。
テレワークを叫ばれているけれど、扱うものが個人情報のつまった書類である以上、人が手でやるしかない。ペーパーレスが進めば必要のない仕事だけど、きっとこの方面の改革はなんだかんだなされないように思う。

センターの入っているビルでコロナ感染者が出たが隠されていたことを知った。
いまも済んだこととして公にされていない。

センターを休業してほしい、スタッフを休ませてほしい、と散々上層に訴えたけれど、答えは変わらなかった。いろいろ案を出しても、納期には絶対間に合わせるとかけあってものらりくらり却下。あまりの八方ふさがり感に苛立ち、最終的に「じゃあ何かあってもみんな死ねってことですか」と上司に詰め寄ってしまった。もちろん上司が無能なわけじゃない。

官公庁業務は入札で決まる。費用を始めノルマ件数や納期など、当初の取り決め通りに進める必要があるもので、要は全部コミコミ1年パックの契約だ。取り決めからはみ出すことはもちろん、期間中に契約を一部でも変更することは出来ないということらしい。補償が出せないというのも、建前上はそういうこと。

これで仕事があればまだ切り替えて働けるけど、全国にばらまかれる書類の発送スケジュールが大幅に押したせいで、繁忙期が後倒しになった。緊急事態宣言が延長になればさらに押すだろう。作業すべき書類が当面手元に届かない、つまり一気に300人の手が1ヶ月程空くことになる。

それでも通常営業しつづけろ。
補償しないし休業もさせない。
マスクはしろ、支給はしないけど。
どんなに予定が狂っても、最終納期は変更なしだからな。

オブラートを取り去ればそういうことだ。


怒ったりイライラしたり喧嘩したりこっそり泣いたり落ち込んだりやけ食いしたりふて寝したり、ネガティブフルセットを2周半くらいしたあと、異様に楽しくなってきた。

じゃあ何ができるのか。

仕事はない。あっても1時間程度。
作業がない時間は待機(最大7時間)。
待機中の外出不可。
休んでもいいが補償はない。
業務エリアに私物の持ち込み一切不可。
ネット利用不可。
待機時間のための備品購入不可。


出来ないことが多い中で、何なら出来るのか。

「業務用の備品を使ってはいけない」というルールから例外をもぎとった。使っていいものは紙とペン。

そんなわけで、写経である。

*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:*+

待機時間の過ごし方について、全員からアンケートをとった。資格の勉強をしたい、マスクをつくりたい、読書したい、ゲームしたい。
どれもやむなく却下してしまったけれど。

ばかばかしくて考えられない、という答えも少数あった。白紙もあった。
同意見だ。ばかばかしくてやってられないよね。

だけど、ばかみたいなこの状況が変わらないんだから、いっそそれをみんなで楽しんでやろうぜ!と私はいいたい。

休んでいいと言われても、休めるひとばかりじゃない。この状況下で、外出するなと言われたところで生活の為に仕事をしなくてはいけない。補償がないから、行きたくないけど会社に行く。なのに、何もせずじっとしたまま7時間過ごさなければいけないとしたら。

どう考えてもしんどいだろう。
やめたくなるだろう。
でも今やめても次の仕事が見つかる可能性はとても低い。行きたくない、でも行けばお給料は発生する。だから行く。外に出るのは危ないかもしれないけど、家でひとりでいるよりましかもしれない。

*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:*+

ネットの世界には本当になんでも揃っていて、ぬり絵や工作の展開図など、ダウンロードして印刷すれば紙1枚で思い切り遊べることを知った。

クロスワードやゲームを印刷しておき、勝手に取っていってもらうことにした。それらを解いて過ごすひともいれば、別の白い紙に自由に絵を描き続けているひともいる。廃材の段ボールを使って、オセロや将棋をつくりはじめた人たちもいる(しかも上手い)。座ったまま瞑想している人もいれば、おしゃべりして友達を増やしたりする人もいる。

やってみたいという希望が少なからずあったので、写経のフォーマットも置いた。私が「心を落ち着けてください」という目的で配布したわけじゃない。
職場で写経、この先2度とないだろうなと思いながらシュールな光景を眺めている。コロナが落ち着いて、この仕事も期間満了で終わって何年か経ったときでも確実に思い出せて笑える、みんなの思い出になればいいと思う。

こっちはこっちで緊急事態だ。
やけくそでもなんでも、楽しんでやろう。

距離感に気をつけつつ、楽しく過ごそう。
人がいる限り、楽しい雰囲気を提供しよう。
職場であることをみんなが忘れたら、私が引き戻そう。
確実に訪れる繁忙期には、私が先陣切って突っ込もう。
そしてノルマは確実にみんなで達成させよう。
見返してやろう。


どうするのが正しいかわからないけど、出来ることがまだまだたくさんあるはずだ。

来月の備忘録を書く頃には、もう少し未来が見えていますようにと願いつつ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?