映画『マリウポリの20日間』~真実を伝えること

伝える仕事

先日、自分の居場所がない少女ベニーの映画『システム・クラッシャー』について書いた。
キレやすく暴力的なベニーは、居場所がなかった。

もう少し俯瞰して、GWに見た『マリウポリの20日間』というドキュメンタリー映画のことを書いてみようと思う。
マリウポリの人たちは、住む場所がなくなり、生命が奪われていく。

”マリウポリ”とは、ウクライナの都市。
2022年2月、この都市にロシア軍が侵攻してきた。
それを知って、AP通信の記者たちは現地に入った。
現地の現状を伝えるためである。

正直にいうと、この手のニュースをテレビで見るのもイヤで避けてきた。
見るのがつらいので、チャンネルを変えていた。
それでも見た悲惨な映像は、彼らAP通信の仕事だった。

彼らがいなかったら、真実を知ることができなかった。
伝えなければいけないという必死の覚悟と矜持が伝わってくる。
録画した映像を局に送るために、電波がつながる場所に移動する。
そして、その映像を受け取って、ニュース映像として世界に発信する。
日本のニュース映像もあった。
私が見ていたのは、この映像だった。

真実の映像


世界に撒かれたウクライナの悲惨な現状の映像。
それを知ったロシア側は、「フェイクニュースだ」という。
すべて西側の役者を使った映像だと。

ロシアは病院を攻撃した。
遺体が増える。
産院も爆撃する。
妊婦が逃げる。
どこにも安全な場所はない。
そこに機体に「Z」と書かれた戦車が見える。
恐怖でしかない。

家族を亡くした人たち。
その映像を撮っている記者にも家族がいるのだ。
ジャーナリストがニュースになってはいけない。
都市を脱出するまで、緊張感がたまらない。

真実を伝える理由

究極ではあるが、普通に生活できることが、いかに幸せなことかを感じる。
実際にその究極の人たちがいるのだ。
現実的に居場所のない人たち。

この映画は、第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
少し長くなるが、監督ミスティスラフ・チェルノフのコメントを引用しておこう。

しかし、おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう。このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できれば、と願っています。
ロシアは私の同胞であるウクライナ人を何万人も殺している。私は、彼らがすべての人質たち、国を守るために戦うすべての兵士たち、刑務所にいるすべての民間人たちを解放することを願っています。
しかし、歴史を変えることはできません。過去を変えることもできません。私はあなた方に、世界で最も才能のあるあなた方に呼びかけます。私たちは、歴史を正しく記録し、真実を明らかにし、マリウポリの人々や、命を捧げた人々が決して忘れ去られないようにすることができます。
なぜなら、映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成するからです。

https://synca.jp/20daysmariupol/

平和であれば、こんな映画は存在しない。
皮肉だが、真実だ。
正しい歴史を残すためにも、伝えることの大切さを改めて感じる。

2024.05.14-GO1


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