見出し画像

わたしの中をすきで満たしたい日



時々、私の中を、溢れんばかりの「好き」で満たしたくなるときがあって、タイミングさえ合えば本当に好きなことばかりを詰め込んだ、ご褒美のような一日を過ごす。


「好き」ってさ、
これまでの人生の中で少しずつ積み重ねてきた感覚で、自分だけが分かる特権だと思う。


まず、車の運転が好き。
得意ではないけれど、好き。
まだまだ芯の冷えるような空気に満たされた車内に、お気に入りの音楽を流して「好き」のシャワーを浴びる。出がけから幸先の良いスタートだなぁ、と身体の真ん中からじんわり温まり始める。
私だけの空間、私だけの音楽。たまらない。


もはや車の運転が好きなのか、車内で音楽を聴くことが好きなのか分からない。たぶんどっちもなんだろう。

流すのは大抵、お気に入りばかりを詰め込んだ「ごきげんプレイリスト」。
ロックだったり、ポップスだったり、懐メロだったり、アイドルソングだったり。
これはもう感覚としか言いようがないのだけど「心が動いた」と感じた曲ばかりがラインナップされている。


キュンとしたり、揺さぶられたり、ずしんときたり、鷲掴みにされたり、かき乱されたり、鼻の奥がツンとしたり。様々な感情と共に積み重ねてきた。

老舗の秘伝のたれみたいに継ぎ足し継ぎ足し守り抜いてきた、なんて言ったら大げさだけれど、本当にそんな気分で。
地道にこつこつ育ててきたから愛着しかなくて、抜群に肌馴染みが良い。


もっと丁寧にプレイリストを細分化して「冬に聴きたいプレイリスト」とか「ドライブでかけたいプレイリスト」とか作れたらいいなぁ、という思いも無きにしもあらずだけど、いつかそれらを作れたとしても、このご機嫌なプレイリストは手放したくないなぁ。


雑多に詰め込んだリストから無作為に音楽が流れて、色んな感情で忙しなくなる、そんな瞬間も好きだから。
永遠に未完成のそれを、生きてる限り更新し続けたいなぁ。



そこそこ長距離を運転する予定だったので、コンビニに立ち寄りホットコーヒーを“濃いめ”で抽出する。コポコポと滴る、たった今まで豆だったであろう最後の一滴までを見届けて、一番美味しい瞬間を逃さぬよう利き手に迎える。


整った。片道2時間、私だけのカフェ空間。
簡易的だけれどこれほど居心地のよい空間を私は知らない。


お目当てのお店に到着。
足を踏み入れると、一角に貼られたウィリアム・モリスの壁紙に甘いため息が漏れた。ひと目で好きを確信してしまう瞬間は、時々、訪れる。

「あぁ、もう好き。無理。」(心の声)

多くはないけれど、決して少なくもない席が満席なのを見るに、愛されているお店なのだということは想像に難くない。
そりゃこの空間を味わいたくもなりますよねと、この場に集う人々に仲間意識すら感じた。


席に案内されたらたくさん眺めようと心に決め、うっかり視線を飛ばしすぎないよう気をつけながら、店の片隅で待たせてもらう。


何組目かに呼ばれ通してもらった席は、例の壁紙こそ見えなかったものの、窓際の端の二人掛けのテーブル席で、四隅の一角を独り占めできてしまうような空間だった。正面のアンティークの木枠に縁取られた窓からは、鉢植えのユーカリと街並みが見える。


「いや特等席…!」(こちらも心の声)

思わずにんまりしてしまったけれど、マスクに助けられて誰にも見られてはいないはず。



家具のひとつ、食器具のひとつ、どれを取っても、オーナーさんが本当にこだわり抜いて選んだのであろうことが伝わってきた。

一貫したストーリー性のある空間は、なぜこんなにも心地良いのだろう。
私も本当はこんな空間で生活をしたいのだ。
けれど、選ぶ作業というのはセンスと根気と気力が要る。何一つ及ばない我が家を思い浮かべながら、私の心に「好き」が降り積もるのをじっくり味わった。

オーダーを終えると、丁寧に「提供まで少しお時間を頂きます」と添えられた。むしろ好都合ですと言わんばかりに、読みかけの小説を取り出す。明るい自然光の中で読む小説が一番好き。今読んでいるのは辻村深月さんの「傲慢と善良」。良い意味でいちいち心に突き刺さるので、一気に読み進められない一冊。



テーブルの上にカレーが並んだのを眺めて気付く。ここは料理が並べられて初めて完成する空間だったのだ、と。それほどまでに空間と調和し、ため息が出るほど素敵な一品だった。


心ゆくまで楽しみ、気がついたら店内は残り二組に。オーナーご夫婦もピークを越えたランチ終盤、心なしかゆったりした佇まいに切り替わっている。会計を済まし、奥さまとやわらかな会話を二言三言。


片隅の物販スペースもさながらギャラリーのようだ。その中のブローチに思わず目が留まり久々の衝動買いをした。
今日の「好き」のひと欠片をお土産に。


駐車場に向かって歩き出す。
寄り道のさなか見つけた小鳥たち。私って、どうも鳥モチーフが好きなんだよなぁ。
もう本日の「好き」の摂取上限量はとうに超えているのだけれど、ただ幸せが増すだけなので健康被害は何もない。


帰り道、まもなく帰宅というところでスマホの充電が切れた。頑張って音楽を流してくれてありがとう。
好きの充電ができたから、私はまた頑張れそうだよ。またよろしくね。

この記事が参加している募集

休日フォトアルバム

私のプレイリスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?