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血圧コントに根性入れるな!

 血圧130だって。なんでだよう。
 130の壁切りゃ、新記録じゃねえか。ようし、もう一回、血圧測定。
『133』
 上がるはずねえだろう。なんかの間違いか。もう一回。
『140』
 ガーン。イスの背もたれに頭打っちまった。そういえば、昔、こんなことがあったなあ。
 俺、水泳部。中学校も高校も背泳の選手さ。
 ラストスパート。みんな、ブッコ抜いたら、プールの壁に頭ぶつけちまって気絶だ。ゴールで溺れて、審判に助けられて救急車さ。お陰で試合は優勝、表彰式は欠場。トホホだ。
 え、そういやあ、俺の兄貴も走り幅跳びの選手だったっけ。
 兄貴の話を思い出したぞ。
「学校の授業で、走り幅跳びの試験だよ。みんな素人。俺はプロ。俺は陸上部を代表する選手だぞ。こんなこと、やってらんねえよ。お前だって水泳部だろ。体育で水泳の試験なんか、本気にならねえよな。でもさ、クラスの皆が俺をもちあげるからよ、ついその気になっちまった。本気出したら学校の砂場を超えて、地面にドカンだ。足折って、お陰で引退だよ、引退」
 俺は兄貴の思い出に突き上げられて、ついもう一度、血圧測定しちまった。
『150』
 これじゃ、走り高飛びじゃねえか。このままじゃ、血圧新記録だ。
 そういえば、ベリーロール。俺の中学記録は150センチ。
 やっぱり正面跳びより、ベリーロールだよな。
 でもさ、女の人にはわからないだろうな。完璧なベリーロールで水平になると、体の真ん中の真ん中が、引っかかっちまうんだ。空中でバーを超すために、腰を引くのが秘伝だな。
 きっと背面跳びは、ここから始まったんだぜ。
 え、お前、お姉ちゃんいただろって。どうした、最近見かけないね、だって。
 実はねえ、姉貴は、これまたスキーのジャンプの選手だったんだ。
 それも冬季オリンピックのね。
 え、聞いたことがない。そりゃあ、そうだ。わけを話そう。
 オリンピックの試合の直前にさ、つい俺、姉貴をからかっちまったのさ。
「翼つけたら、金メダルだね。そしたら、パラシュート、プレゼントするよ」
 姉貴の日ごろの減量を皮肉ったのさ。
 姉貴、本気で怒っちまってね。
 凄いハイジャンプ。それっきり会場を超えて、降りてこなかったよ。姉貴、今ごろ、どこ跳んでんだろ。
 あっ、いけね。血圧を測らなくちゃ。
 ああ、メーター振り切っちゃった。
 測定不能だって。
 
 というわけで、血圧測定では、『根性で血圧を落とそう』としてはいけません。
 これも、ハウツウの一つです。
 


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