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晴れた日のヒラヒラ【後編】

未知なる路地におり立ち、得体のわからない虫が飛ぶことで、あとでついでに草むしりをしようと思う私。さて、ここからはなるべく物音を立てずにお隣へと進むのみである。姿勢を低く保ったまま、お隣の様子を窓からそっと覗いてみると、窓にはレースのカーテンが引いてあり、そしてその向こうでは誰かがテレビを見ている様子が確認できた。カーテンの存在はかなりありがたい。
改めて朽ちた雨どいを見上げ、「あ、やっぱりパンツだ」足を通すであろう穴が2つ見える。そおっとラケットを伸ばしてみるものの、ちっとも届きそうになかった。静かに椅子をとりに帰り再び戻ってきたところで、その椅子をがっつりとお隣の窓の裏に配置するわけにもいかないと思い、ぎりぎり自分の敷地内においた。そして椅子に乗りできる限り腕を、ラケットを伸ばしてみるけど、これもイマイチ届かない。

よし、一旦家に戻ろう。

鉄棒にひょいと乗るようなイメージで窓のサッシに手をおき、勢いよくジャンプする。椅子をおいたとしても、路地からの窓の高さは私の胸のほどあり、昔、よく行った公園の鉄棒の高さが3段階あって、真ん中ぐらいの印象だな、なんて思いながら。でも結局、きれいに乗り切れずに後半腕の力で体重を持ち上げたわけだけど、ついでに壁で膝小僧を打った。疲れる、これだけでどっと疲れた、とにかくお茶をいれて飲もう。あと、ラケットよりも長いものが必要だけど、ほうきだって短いものしかない。

あとからボディブレードの存在を思い出して、これだったら一発で届いただろうなと思うと余計に疲れることになるのだが、ここではまだそれに気づいてはいない。
家にあるものを探しまくり、そこで見つけたのが竹尺だった。長さはとしてはラケットとさほど変わらないそれの片方に、私はバーベキュー用のトングをガムテープでグルブル巻にくっつけたのである。

私は勝った!と思った。

要領を得た私はここからは早かった。今度はビニール袋も持って路地におり、そしてまず草むしりをする。路地におりる立派な理由が草むしりなら、ここにいるのがばれようがさほど怪しくない、と思うことにしたのだ。そして様子を伺いつつ「竹尺トング」を準備し、【私のパンツ】救出作戦を実行する。「私のパンツ、戻っておいで!」トングの先にパンツをゆっくり引っかける、引っ張って雨どいがこれ以上壊れてはいけないので、パンツを引っかけたら、長さを活かし上へと持ち上げる。持ちあがったら、自分んちの方向へとパンツを落とす。「やった、とれた!」これでいろんな心配が一気に吹き飛んだ。静かにパンツに歩み寄り、パンツをつかみ、両手で広げた。よかったと、あとは抱きしめるつもりだった。

パンツじゃない、私のパンツじゃない、でかい、サイズもでかいが、これってズロースじゃん!そう思うと持っていられなくなり、ほおり投げてしまった。人のパンツじゃ話は違う。しばしの沈黙の後、もう一度、お隣の路地にズロースを戻して、私は家へと戻った。
結局、それがお隣の奥さんのものかどうかはわからないけれど、数日後にはそれはすっかりと消えていた。

先日、洗濯物の靴下をつい落としてしまった。私はボディブレードの先にガムテープを巻き、その粘着面で軽々と靴下をくっつけて救出したのである。

【おわり】位置関係は上の図を参照。


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