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2023年10月分_400文字読書感想文まとめ

割引あり

X(@HitujiSix)にて400文字の読書感想文をポストしている。
2023年10月分のポストをまとめた。
Xで #羊の読書感想文 で調べればだいたいのポストが見れる。


「生」に対して問いを立て続ける 「小川公代 戸谷洋志 中村佑子」

ポスト日:2023年10月4日(水)
対談者:小川公代 戸谷洋志 中村佑子
掲載誌:すばる 10月号
お前、タンメン食えよ。

 対談を読んでいて、頭にちらついたのが次長課長の河本だった。河本が芸能界を干された事件は、母親の生活保護受給だった。
 この事件は自己責任論の広まりと無関係ではない。貧困を親族というたった一つのコミュニティだけで解決しなければならない、と世間が認めたためだ。

 対談内にも出てくる「保育園落ちた日本◯ね」も同様の関係だ。母子だけで解決しなければならなくなってしまっている。おそらくだが育児の孤立はこの時より悪くなっているのではないか。SNSを見ていると、こんな気がしてくる。

 どちらのケースでも、ケアを受ける生き方が当たり前であれば、ケアの手が多ければ、救われたのではないか。
 対談にはケアを与え、ケアを返す関係が出てくる。これは良いだろうか。ケアを返せない者にはケアを与えなくならないか。悩む。
 徳みたいな、与えると得られる喜びが大事だろう。

十角館の殺人 「綾辻行人」

ポスト日:2023年10月7日(土)
著者:綾辻行人
出版社:講談社
あまりにも身勝手な犯行

 十角館の殺人を読むのは二度目だ。ミステリーなのに犯人、犯行、トリックすべてわかっていても十角館の殺人は面白く読める。二度読んで面白いように書かれている。
 構成として犯行が行われている最中のパートと犯人の独白のパートに分けられる。前パートを前半、後パートを後半とする。

 小説は現在進行と回想のどちらかで書かれている。十角館の殺人では前半は現在進行、後半は回想で書かれている。だから、後半で心情を知って、なぜこの動作をしたか、がわかるように構成されている。二度目も面白いミステリーなのも頷ける。

 犯人はとても独りよがりで身勝手だ。犯行動機はわからないでもない。しかし、犠牲者に同じ犯行動機を植え付けるような凶行を行う。苦しさがわかっているのに他人が同じ苦しみに沈む未来を考えていない。見えていないか。
 だからラストは許しではなく、裁きなのだろう。

「anarchc romanticisma of youth」のあとで 「片岡大右」

ポスト日:2023年10月11日(水)
講演者:片岡大右
掲載誌:すばる 2023年11月号
レッテルを貼る

 レッテルを貼る。響きの悪い言葉だ。
 しかし、レッテル、つまり、名前をつける行為は、人間が生み出した中で最も偉大な発明だ。
 例えば、ゲイという概念がある。ゲイは人類史のどこでも居た。だというのに、表舞台には出てこなかった。ゲイという名前がなく共有できなかったからだ。

 いじめという問題がある。陰湿な犯罪だ。一方で学校の暴力はすべていじめと名付けられてしまう。
 いじめという言葉が、問題の本質を隠す傘になっている。
 いじめという言葉が、解決の糸口から目をそらす言い訳になっている。
 もし、こうであれば、いじめという言葉によるいじめだ。

 ふつうという言葉がある。
 障害者をふつうのくくりに入れ込む新しいふつうを作る。
 ここにはいじめという言葉と同じ構造が見られる。
 ふつうの中にいる障害者について、話し合えなくなる。
 そもそも、ふつうの中に支援が必要な人間が隠されている。
 言葉の扱いは強力だけに慎重さが必要だ。

犬婿入り 「多和田葉子」

ポスト日:2023年10月14日(土)
著者:多和田葉子
出版社:講談社文庫
変人が作られる

 とても一文が長い部分がある。これが出る殆どの部分は外部が話している場面に出る。
 長い分は読むのが辛い。頭に靄がかかる。
 噂話の曖昧だが引き込まれる特徴をこの文章表現で見事に表している。
 こんな池から、主人公たちは生み出される。すでにいるのだけど、外から見た様が生まれている。

 ラストで、まともな、本当にまともなのかは置いておいて、団地の世界から変人が島へ流れていく。納得するストーリーに合致していない出る杭は打たれる。一方で、打たなければまともが保てない。
 もしくは、変人たちがまともな団地を捨て行く。
 または、まともな人が変な団地を脱ぎ捨てる。

 犬婿入りは作中作の名前でもある。この内容と物語はつながる。
 猟師から出てくる犬の話は、父と娘の関係に近い。
 また、姫と犬が島流しにされる話は、ラストを暗示している。
 南総里見八犬伝も犬が婿に入る話だ。こちらでは犬は拒まれる。
 これの反対なら、犬と姫は幸せなのだろう。

100分de名著 覇王の家 司馬遼太郎 「安倍龍太郎」

ポスト日:2023年10月18日(水)
著者:安倍龍太郎
出版社:NHK出版
決めつけによるキャラクター文芸。
※注意 羊は原作の「覇王の家」を読んでいません。

 徳川家康など登場人物は司馬遼太郎の決めつけた人物像が与えられている。
 現実の人間には無限の可能性がある。ダイエットをしようと思うもポテトチップスを買ってしまう裏切りは誰だって犯しかねない。その無限を有限に狭めなければ、構造的に、人間史観的に書けないからだろう。

 キャラクター文芸は、キャラクターを立てて、彼らに動いてもらう文芸の手法だ。ライトノベルで使われていると思うかもしれないが、ミステリー小説などエンタメ小説、純文学でも昔から使われてきている。「小説家になって億を稼ごう」(松岡圭祐)に書かれた方法論はまさにこれだ。

 この本を読む限り、覇王の家はキャラクター文芸で書かれていると読める。特に、徳川家康を機関と決めつける書き方がそう思わせる。
 余談だが、キャラクター文芸に反した小説を挙げるなら、「虞美人草」(夏目漱石)がいいだろう。甲野藤尾のキャラクターを曲げて、作者の思惑を通している。

みどりいせき 「大田ステファニー歓人」

ポスト日:2023年10月21日(土)
著者:大田ステファニー歓人
掲載誌:すばる 2023年11月号
現代版ヤンキー小説

 主人公が麻薬を使って気持ちいいと言う、感じる描写を見なかった。
 麻薬を摂る快感よりも、麻薬をともに使う仲間感が重点だろう。
 暴力を共に行って絆を深める過程はヤンキー漫画でよく見ていた。
 だが、みどりいせきは暴力ではなく平和な麻薬でつながっている。

 主人公たちは麻薬を平和な野菜だと言う。
 寄りかかる関係が麻薬仲間しかいないから、ここの価値観だけを受け取っているからだ。
 主人公は他の関係へ入る誘いを、自由権に乗っ取り、断る。
 突出していると感じるからだ。孤独であれば孤高であれるからだ。孤独の中の孤独だ。

 主人公が麻薬売買のパートナーとして選ばれたのは、楽しい子供時代の記憶を共有している人間だからだ。
 主人公に突き放す言葉を投げつけるのは、すがってしまう感情を拒むためだ。強くあろうと生きるには、すがる行為は恥だからだ。
 ラストで解き放たれた。

100分de名著 2022年12月 中井久夫スペシャル 「斎藤環」

ポスト日:2023年10月25日(水)
著者:斎藤環
出版社:NHK出版 100分de名著
ケアと管理
※注意 羊は原作をすべて読んでいません。

 中井久夫は精神病患者を管理する潮流を、ケアする方向へ流れを変えた。
 言葉を傾聴する。顔色を読む。投薬や電気ショックが主流の中、反する治療を進める決断は並々ならぬ勇気が必要だったろう。
 周りからケアをしてもらえない精神病患者もいる。家族に捨てられる人もいる。

 社会全体で当人と関係者をケアする仕組みがほしい。
 ケアは簡単に管理に変わる。管理は生きていれば良いという意識を作り出す。
 例えば、精神障害者の就職訓練では、健常者とおなじパフォーマンスを出す境域が行われる。働ければ、健常者以上の負担やストレスを受けても構わない。そう見える。

 安全保障感この単語は、本に引用で述べられる。ウクライナ戦争を思い起こさせる単語だ。
 安全保障感は安全のほころびを恐れる心だ。この心自体には善悪はない。しかし、過剰になると脅威を除ける意思が生まれる。戦争が始まる。ロシアとプーチンも同じ轍を通ったのだろう。

シーケンシャル 「長嶋有」

著者:長嶋有
掲載誌:文學界 2023年11月号
継承していく

 「パソコンをやる」を自分語に翻訳すると「スクリューパイルドライバーをやる」になる。
 対戦で勝ちたい、大会で優勝したい、これらは後回しだ。スクリューパイルドライバーを出す姿がかっこいい。
 今はスクリューパイルドライバーをやるより、スクリューパイルドライバーを使うが多い。

 シーケンシャル、並んだ順に処理。
 先に生まれた者から死んでいく。
 年齢順に並び、順序よく、処理つまり死ぬ。
 誰もいつかに始まり、いつかは終わる。継いだものを託していく。継承だ。
 継承されるモノが、パソコンなのか、アケコンなのか、知識なのか、矜持なのか、わからないけれども。

 「やる」を継承するとは?
 「やる」は京楽的な行為だ。楽しいから「やる」からだ。
 「やる」は文化を保守する。車を「やる」人がエンジンの振動や路面感触を楽しむ文化を守るように。
 「やる」を継承するとは、文化を継承する行為だ。

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