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ショートショート#18『随想』1/2


 娘は、よく上目遣いで私を見てから何かを話始める子だった。私が何を考えているのかをその小さな頭で一生懸命伺うように。

 そして、あのときも。娘は、一度私のほうをじっと見つめてから嬉しそうにハンバーガーを口に頬張っていた。

「どう、かな?」

「美味しい!お父さんって、お料理できるんだね!すごいすごい!」

「いや、まあ。美味しいんなら良かったよ。頑張ったかいがあるってもんだ。」

 私は、娘が口にケチャップを付けながら口をもぐもぐさせるその姿を見てなんとなくほっと胸をなでおろす心地だった。

 空は高く広がり、公園の水道にはスズメのツガイがちゅんちゅんと会話をしているようだった。

 スーパーで買ってきたバンズにケチャップを塗り、冷凍のハンバーグとスライスチーズ、キュウリを薄く切って挟んだだけのハンバーガーは「料理ができる」と形容されるほど、凝ったものではなかった。とはいっても、こうやって目の前で顔を綻ばせて自分の作ったものを頬張る娘の姿は本当にかわいかった。

「お母さんにも作ってほしいなあ。」

 娘はそうつぶやいた。

「お母さんが帰ってきたら、一緒におねだりしようか?」

 大きな瞳を丸くさせ、じっと見つめてから

「本当?ありがとう!」

 娘は、私が数か月前に結婚した相手の連れ子だった。そして、私たちは血が繋がっていない親子だった。しかし娘は、まだ出会って数ヶ月しか経っていない私を無邪気に何の抵抗感も垣間見せることなく「お父さん!」そう呼んだ。

 娘の母であり私の結婚相手は、自分が行きたいところがあれば、すぐにでもかばんを持って家を出てしまう。

「今日、九州に女友達と行ってくるから!」

「明日、北海道に雪まつりに行こうと思ってるんだよね!」

 そんな風に彼女はスカートを翻して、外の世界に飛び出していく。残された私と娘は、最初はぎこちない距離感があったものの

「夜ご飯はどうしようか」

「小学校では何があったのか」

などの会話や一緒に過ごす時間を重ねるうちに、私はもう、娘の生まれた瞬間にも立ち会ったかのような愛しさを覚えるまでになっていた。

 公園にハンバーガーを持って出かけたその日も、彼女はどこかへ遊びに行っていた。

「ちょうど、咲子も学校の遠足でしょう?家に帰ってくるのも遅いみたいだし、私いなくてもいいわよね?一泊ぐらいさあ。」

 そう言って、玄関を出ていった。あの時、少しでも彼女に何か言ってあげられたらよかったのかもしれない。けれど、歳も彼女のほうが上だったし、私自身強く出られないところもあって、彼女の奔放さに目をつむるしかなかった。


               2/2へ続く

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