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前受金ビジネスと資金繰り


(1)前受金ビジネスとは?

"脱毛サロンや貸衣装など、事前に代金を受け取ってからサービスを提供することから生じる事件を耳にするようになった"とのニュースを今朝見ました。その名は、「前受金ビジネス」

(2)ビジネスモデル

前受金のビジネスモデルは以下の通りです。

前受金ビジネスモデル

具体的に、晴れ着ビジネス(成人式)で考えてみましょう。
成人式用の晴れ着の予約は、成人式の2年前くらいが普通のようですね(長いですね…)。

例:30万円成人式用の晴れ着を予約する場合(成人式は2年後)
【晴れ着屋さんの会計仕訳】
<1. 契約時(×1年●月:代金前受け時)>
(現金)30万円 / (前受金)30万円
<2. サービス提供時(×3年1月の成人式時)>
(前受金)30万円 / (売上高)30万円

ここで問題が生じるのは、契約時とサービス時の期間が長い場合、この間に会社経営が傾いてしまうと、購入者はお金を支払ったのにも関わらず、サービス提供を受けられない可能性がある点です(※契約書で、どの程度リスクが担保されているかを十分に確認する必要があります)。

(3)前受金比率の高いビジネス

前受金比率の高いビジネスモデルは以下の通りです。衣装や教育事業の前受金割合が高いことが読み取れます。

最近だと、小学生のランドセルも早い時期にオーダーするので(通称:ラン活)、この部類に入るかと思いましたが(私は、長男の入学10か月前に購入しました)、ランドセル製造が先に走っていると思いますので、純粋な前受金ビジネスとは言えないかもしれません。

出典:東商リサーチ

(4)前受金ビジネスのメリット

BtoB向けビジネスであれば、取引相手先の信用力を確かめる術はありますが、晴れ着や英会話など、BtoC(一般消費者)向けの比較的高額な商取引においては、一般消費者の与信調査が困難です。
この点、前受金ビジネスは、サービスを提供する会社側からすると、代金貸倒れを回避でき、財務的な観点からは、合理的な経営手法と言えます。

ですので、倒産事例などの前受金ビジネスに関するニュース報道がありますが、前受金ビジネス自体が悪いものではない点は、ご理解ください。

(5)前受金ビジネスが問題になるケースとは?

過去に負債総額約400億円で破綻した、英会話教室「NOVA」、負債総額約6億円で破綻した、はれのひ株式会社。
両者に共通する点は、店舗拡大一辺倒の姿勢にあると言えます(その他の点もありますが)。
駅前など出店場所が良ければ、応じてテナント固定費が重くのしかかるはずですし、店舗拡大に伴い従業員が増えれば、応じて人件費固定費が重くのしかかるはずです。そして、それらの固定費増加に売上が追い付かない格好で、資金繰りの問題が顕在化します。

もちろん、事業規模拡大という経営判断が成功すれば、結果的には問題は生じないかもしれませんが、攻め一辺倒の思考では、いつかは問題が顕在化する可能性があります。

そして最近では、サロン経営でも同じような問題が指摘されています。

出典:日テレニュース

経営者としては、前受金ビジネスでは、将来のサービス提供時に人件費などのコスト(出費)が生じること(売上が計上されるのは、将来のサービス提供時であること)を、十分に意識することが必要です。

(6)資金繰り

前受金ビジネスに直接的な関係はありませんが、「代金支払いサイトの設定」について経営相談を受けることも多いです。
「売掛金はできる限り早く回収し、買掛金はできる限り遅く支払う」ことが、キャッシュフローの観点からは健全と言えます。
しかし、ビジネスの現場では、信用で成立している側面も大きく、早め早めに代金を支払ってしまうことは得策だと思いますし、下請法の観点からも、早期支払いを十分に考慮に入れる必要があります

例えば、起業直後から、30日や60日の支払いサイトの違いで経営がひっ迫するようなケースは明らかな準備不足と言えますし、資金繰り悪化から生じる心理的負担は、経営のパフォーマンス低下にも繋がります。

また、このような前受金ビジネスをM&Aで買収するようなケースでは、収益は出ているがキャッシュの入りがない場合があります。DDなどを通じ、このあたりのリスクは十分に把握しておきましょう。

(7)起業事前準備の重要性

事業の成否は、"運"の要素も大きいことから、事前起業準備に比例して成功確率が格段に上がるとは言えない側面があることは確かです。
しかし、後戻りが難しい大きな失敗は、事前準備をしっかりと行うことで十分に回避できるケースが多いと言えます。

(8)ビジネスの数値化(事業収支計画の作成)

大きな失敗を防ぐためには、ビジネスに着手する際、ラフなものでもいいので、事業収支計画を作成することが重要です。
事業を行う際に必要な元手はいくらで、月次の固定費はいくらかかるかの情報を数値で可視化し、許容可能な金銭的リスクを明らかにしてください。
そして、本格的に事業化に着手しようと考える前に、第三者目線からの事業評価を頂くことで、あなたの考えるビジネスに飛躍しすぎているポイントがないかを確認してください(できれば、プロに見てもらってください)。

出典:日本政策金融公庫

(9)おわりに~「一人起業塾」講座~

最近、「起業塾やらないの?」と、お誘いを受けることが増えています。
AIの普及もあり、世の中には様々な、正解か否かの判断が難しい情報が氾濫しています。マネーリテラシーや起業リテラシー向上の観点から、「失敗しづらい一人起業ビジネスモデル構築」に焦点を当てた起業講座を年内には展開したいと思っています。

事業化の際は、「前受金」で受講料を回収しますが、サービスがはじまるまでは、代金は厳重に金庫にしまっておくので、ご安心ください☺

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