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朗読

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ぐっときた

過去にも何度も何度も電車には乗ってきたが、やはりその都度何かしらの面白味を感じてきた気がする。今日も用事があって、いやいや暑苦しい外へと出る羽目になったのだが、そんな気持ちを吹き飛ばすかのように、今日は特に、なんというか、ぐっときた。改札を抜け、ホームで目的の電車が来るまでじっと待つ。これ自体は何のことはないのだが、電車が来て乗った後、人がダッと車内に入っていく中、無理くり席を取ってからのことだっ

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よっぱらい

よっぱらっている。目がとろんとしていて、平衡感覚がなくなり、頭の中がほわほわとして、実に楽しいような、ファンタジーのような、全てが現実なのに嘘のような感じすらしてくる。
今日は友だちと飲んだ。しこたま飲んだ酒なんて弱いんだから、飲まないほうが良いに決まっているのに、心は飲みたいと叫んでいた。だから心に従うことにした。たとえ後悔したとしても、正直ではいられる。何よりも自分自身に嘘を着きたくなかった。

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眠い

眠い。まぶたが重い。うつらうつらする。このまぶたの重さには、恐らく、丸く、軽やかで、それでいてずっしりと重いものが乗っているのだろう。それはまるでそう、あの白くてやわっこい、マシュマロの様なものだ。そしてまぶたがそっと閉じられると、ころりと転がって、日が陰り月の夜になるのと同じくらい自然に、口の中にストンと落ちる。

そして落ちた甘やかなそれを、体は喜々として受け入れて、舌の腹で遊びながらゆっくり

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バス

曇り空。バスの中から空を見上げる。どんより。
真横を車が通り過ぎる。自転車も。道が混んでいて、歩いている人々がゆったりとバスを追い越していく。
真上から振ってくるクーラーの風が、涼しい。
バスに乗った事を後悔し始める。歩いたほうが早かったかもしれない。けれど、楽ができる。そのかわり、時間には遅れる。いや、既に遅れている。約束を破ることに、最近、躊躇いがない。
今日みたいに毎日曇りだったら、外へ出る

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夏の日の男二人

7月半ば、LINEのチャットに友達からコメントが来た。家に寄ってもいいかといった内容だった。彼はテスト期間で、気分転換に来たいんだろう。僕も丁度家にいるし、とは言っても、学校をサボって行っていないだけなのだが。恐らく、彼はそれを知っている。僕のことを心配してくれているのかもしれない。唯、僕の所が来やすいだけなのかもしれない。何であろうと、別段彼がこちらに来ることは嫌なことではなかった。

何時でも

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穴の中の宴会

      

百姓の権三郎と七兵衛は二人で山道を歩いていました。
もうすぐ、山草の時期ですから様子を見に来たのです。
二人は実はあまり仲良くありませんでしたが、村のきまりで様子見に行くことになりましたから、こうして二人で歩いていました。
「おい、権三郎。めんどうなのはわかるけど、村の仕事なんだ。遊んでばかりいないで、ちゃんとやってくれよ」
けれど道草ばかりして遊んでいる権三郎へ、七兵衛はしびれを

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疾走る

電車の中に、自分からして左側に、三人組の姦しい女性が居る。右側には物静かに本をめくる女性、前方には、黄色の明度を少し下げたスカートにデニムのジャケットを着た少女、そしてその少女の母親。視界の中で最も動くのは、右斜め前にいいる男の子。彼の手の中には変身用のアイテムが握られている。彼は何度も何度も変身と唱えて、小さな手を空中に翳す。ニコニコと、男の子の両隣に座っている彼の両親がわらっている。少年は開き

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