『Dot』プロダクションノート
ピアノトリオ+3の作品『Dot』が、11月22日に発売となりました。
沢山の方に聴いて頂ければ幸いです。
ライナーノートを付けていませんので、取材用に用意したプロダクションノートに加筆して、掲載いたします。
※記事下部に、アルバム販売リンク、配信サービスへのリンクがあります
プロジェクトを始めるにあたっての背景
・2021年アルバム『Calling』の制作を終えて、活動のある種の区切りがついたと実感した。
・ここ10年ほど、機能和声やピアノという楽器自体にもどこか息苦しさを感じることが多々あり、ピアノ以外のジャズ楽器の自由さと曖昧さに憧れがあった。それはメタルを再び聴き出したことにも起因する。ピアノという楽器自体にも、他の楽器に対して西洋音階における正解を強要する傲慢さを感じることもあった。
・2015年にNHORHMプロジェクトに取り組み始めてから、メタル曲の歴史を追って総ざらいをして、このバンドのどの成分が特徴的なのか、何が優れているのか、他と違うことは何かなど、メタル曲を分析しながら聴くことを続けていた。同時にメタル方面の執筆活動も広がっていき、音楽家の観点から音楽の骨子を明文化しないといけない機会が増え、譜面と文字と同時に起こしていく機会が増え、思考を続けていた。
そうするうちに、メタルについて感じる良さを、いつか自分のジャズに反映できたらと考えるようになった。
・現代のメタルを聴いていると、90年代に自分が嫌いだったオルタナティブ、インダストリアル、グランジ系メタル、ロックが、現代のメタルやラウドミュージック全般に大きく繋がっていることがわかり、メタルの技術面ではなく、質感やざらついた手触りのようなものに、今ごろになって興味が湧いてきた。その質感、曖昧さ、エネルギーの持って行き方を、生楽器のアンサンブルで、エフェクト類を使わずに、人力で実践してみたかった。
・上記のことから、ざらついた手触りになる、人肌に近い感覚を得ることができる木管楽器を中心に、ピアノトリオの周りを囲んでもらうような音楽をしたいと思った。
・若尾裕氏の著作『親のためのあたらしい音楽の教科書』『サステナブルミュージック』、訳書『フリープレイ 人生と芸術におけるインプロビゼーション』などを読み、大きく影響を受けた。いつか自分なりに考えを深め、二元論ではない音楽を実践してみたかった。
録音までの道のり
・初期から、いずれ木の楽器を複数人入れることを念頭に作曲していたが、最初にトリオでスタート。2021年に初ライブ、以降2ヶ月おきにトリオでライブし、2023年2月に初めてトリオ+3の編成でライブ。その後、すぐ録音を決め、2023年7月に二度目のライブをして、翌日から録音。
・曲は全て、2021年秋〜2023年春の2年弱の間に書いたもの。
・基本的に当て書きで、このメンバー以外のプレイヤーで演奏するつもりは、今のところない。
・noteに一度書いたもの
録音について
・エンジニアは松下真也氏。『Music In You』、『Faces』以来3度目。できるだけライブ感に近い作品にしたかったため、録音、ミックス、マスタリングの全ての工程を松下氏に依頼。
・ピアノはFAZIOLIを使用したいため、TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音。調律はファツィオリジャパン株式会社の越智晃氏。FAZIOLIでの録音は8作目、越智氏の調律での録音は9作目。
・編成と音楽内容的に、ブースに入って別で録音するよりも同じ空気を共有した方が良いと判断し、ドラムのみブース、他メンバーは同じ部屋で録音。そのため修正やダビングは一切なし。
・2023年7月12、13、14日に録音。12、13日に6人編成、14日にトリオ編成で録音。
・近年のCD市場の縮小の状況や、サブスクという回収できないモデルが一般化したこと、物価高騰などの事情から、大掛かりな編成でのレコーディングは今後難しくなると見込まれる。これが最後になるかもしれないという気持ちで、悔いの残らないようにやろうと思い、製作した。2枚分録音してきている。2枚目は、翌年にリリース予定。
音楽的テーマ
・メロディや機能和声、曲の構造でのカタルシスをなるべく作らない。
・本来は音の混ざらない楽器群で調和を目指す。
・会話=インタープレイよりも、音そのものを感じ合い、響き合うことを目指す。
・ハーモニー、リズムともに、境界線を曖昧に設定し、自由に選択できる局面を多く作る。
・あくまでも核はトリオで、トリオ+3。セクステットではない。
・木管、木の楽器で揃えたかったのは、肉声に近い体温を感じる音にしたかったから。
・曲によっては明確に原典がメタル曲のアイデアものがあるが、音楽そのものを真似するのではなく、骨格になる考え方、質感や、ストリームみたいなものを実践しているので、引用の原型はほぼない。
・noteに一度書いたもの
各曲について
1 Turtledove タートルダブ
ほぼ毎朝、家の近くでキジバトが鳴いている。ある時から、鳴き声が低くなった。別の個体なのかわからないが、このキジバトの鳴き声に個性を感じ、鳴き声をモチーフにした。
このトリオでは、ライブに1曲は必ず、フリーかテンポルバートの曲を演奏している。特にライブの1曲目をフリーにすると、バンドの血流が良くなり、次の曲へ柔軟に流れていくことができると思っている。
2 Dot ドット
このプロジェクトは、ピアノトリオの背景に木管楽器をドローンとして使いたいというイメージがまずあった。先に「The Rider」などで、まずそのようなアプローチを試した後、「ではピアノの自分がドローンになってみたらどうか」と思い立ち、連打のピアノが背景となるように音楽を作ることを開始した。結果、即時的なインタープレイではなく、徐々に潮位が上がっていくような効果を得て、その上でアンサンブルできるようになった。
3 The Rider ザ・ライダー
本来は別の曲だったが、一度ソロピアノで弾いてみてしっくりこなかったので、コード進行だけ残し、尺を伸ばし、別のメロディを付けた。このような作り方をしたのは初めてだったが、結果的にコースが広くなった。管弦は、笙のように使いたかった。
4 To Return トゥ・リターン
普段は、ドミナント・モーション(Ⅴ→Ⅰ)で解決する機能和声の中で音楽をしているが、逆回しにしてみた。そうすると、トニックでもドミナントでもサブドミナントでも何にでも解釈ができることがわかり、機能和声の引力、ベクトルを限定しない面白さを感じた。
5 Tidal タイダル
本来、4拍子がポリリズミックにずれていくイメージだった。リズムを点や線でなく、円でとらえるようにした。それぞれの楽譜の指示は、Super Looseと書いている。メロディというメロディはないが、リズム、メロディ、ハーモニーが渾然一体となって押し寄せてくるイメージで、「合奏」という言葉がしっくりくる。
6 Red and Yellow レッド・アンド・イエロー
他が機能和声から離れようとしている作曲ばかりなので、シンプルにドミソを使い、フォークソングになるようにした。最初から木管がいることを前提に書いており、木管でドミソを鳴らした上に、硬質なピアノの音を鳴らしてみたかった。
7 Pigeons ピジョンズ
あまりテーマを決めず書き始めたら、奇妙な曲になった。定期的にこういう曲ができるが、奇妙な曲は深く考えず、あまり修正しないことにしている。作品というよりは、一過性のその時の視点のようなもので、この時はこういう視点を持っていたのだなと客観的に思うにとどめておく。音楽と関係ないところで、鳩という鳥の珍妙さが好きでもある。
8 Baroness バロネス
メタルバンドのバロネスを聴いていて、バロネスの独特の疾走感を置き換えてみようと思って作った。長調か短調か決めていない。常に濁った音で前進してみたかった。BPMが速い音楽といえばジャズとヘヴィメタルと思っているが、それぞれの疾走感のエネルギーは全く違うもので、取り入れるとおかしなことになると思うが、置き換えは可能かなと思い、トライしてみた。
9 Lighthouse ライトハウス
ある時期から、「鼻歌のように音楽をしたい」と、ずっと思ってきた。それは、作為的なところから離れたいという欲求であり、音楽的に知恵がついてしまってからは、一番難しいことだと思っていた。この曲は本当に鼻歌のようにできて、満足している。作った記憶がないぐらい、作為的なところから離れた状態で作っている。
曖昧さをテーマに書いてきたのに結局主音で終わるあたり、自分は結局この価値観から離れられないのだろうし、それが穏やかになれるのだろうし、そういう自分のことも、曖昧なものが好きな自分のことも、受け入れていきたい。
アートワークについて
・ジャケットデザインは、前作『Hometown』でジャケット製作をして頂いた平岡直樹氏。「いろんな個が共生している」というイメージを図案化してもらった。
・「Dot」単曲MVは、Qanta Shimizu氏に依頼。
アルバム詳細、販売と配信サービス
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diskunion ※ポストカード特典あり
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山野楽器
西山瞳公式オンラインショップ
その他配信サービス
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