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今年聴いたもの+観たもの2022年


毎年恒例、今年聴いたもの+観たものです。


音楽



音楽は、ランキング形式やベスト10のようにはせず、印象に残ったものを、思いついた順に挙げていきます。

Brad Mehldau『Jacob's Ladder』2022

冒頭のRUSHのオマージュに『Finding Gabriel』からの流れを感じ、プログレ楽曲を取り上げた作品にもかかわらず、全体的にとても宗教的な印象を感じました。私にとってプログレは、神から離れた理知的・数学的な追求と、その中で各人のルーツが抑えられきれず表出してくるが部分が魅力だと思っているので。
このメルドーの作品は、今年刊行された『現代メタルガイドブック』(ele-King Books)のレビューも私の担当でそちらにも書いたのですが、従来のプログレは、どちらかというとバーティカルな複雑さなんですけど、このメルドーの作品はホリゾンタルに重層的になっており、それがバロック以前のポリフォニーと似た印象になっているんですね。だから宗教的に感じるのかもしれないし、だから圧倒的にメルドーの音楽になっているのかもしれません。
私感ですが、ポリフォニックなアプローチは、当人のアレンジや奇抜さではなく、他者への信頼の方が重要な気がしています。最近のメルドーがとても好きなのは、その共演者、世界中の音楽を愛するリスナー、ひいては人間そのものへの信頼を感じるからかもしれません。

昔は、テクニックの革新性、解釈の新しい提示など、そのようなメルドーの凄みに魅かれていましたが、最近の作品は、その向こうのなんだか凄いところに到達しているように感じます。もはや自己表現ではなく、捧げ物という感じがする。

The Smile『A Light for Attracting』

Mikikiの年末の記事でも取り上げたのですが、昨年末ぐらいからジョニー・グリーンウッドの映画音楽に魅了されてしまって、彼の音楽を片っ端から聞いていました。もちろんReadioheadも。
この新しいバンドは、とても心地良い不思議なサウンドです。全てがゆらゆら揺らめいている。
YouTubeで限定公開されたライブも何度か見たのですが、正解を求めない美しさと不完全な人間らしさ、今の私の感覚にとてもフィットして、とても気持ちが良いのです。
ギターの市野元彦さんの音楽を聴く時の気持ち良さに、少し似ているかもと感じていました。


Code Orange『Underneath』(2020年の作品)

旧譜で申し訳ないのですが、今年一番回数を聴いたのは、これです。
今年はRadioheadと和解の年でしたが、実はKornとの和解の年でもあり、あんなに90年代嫌いだった音楽が、2周回ったら、良かった。
ということで、ミクスチャーやメタルコア系も、つまみ食いして聴いていたんですよ。
その中で一番良かったのが、Code Orange。これは格好良いし、なぜかとても頭の良さを感じて、構造や仕組みが知りたくて、実は部分的にピアノで解析してみたりしていました。自分のオリジナル曲にもそのアイデアを入れてみたりしていましたが、あまりにもサウンドが違うので、どこにどう繋がっているかはわからないと思います。


Jacob Karlson『Wanderlust』

2000年代前半に聴き出した時は、イケイケで尖ったピアノを弾くイメージでした。Viktoria Tolstoyの『Blame it on my youth』が良かったですよね。スウェーデンのジャズフェスで会った時、バックヤードで少しお話ししたけど、ピアノ弾く人というよりはスポーツマンという感じ。その頃から、イケイケなピアノよりも、『Big Picture』など時折とんでもなく大きなイメージを見せてくれるのが好きでした。
今作は、様々な楽器に加え、エレクトロニクスも非常に調和して、とても素晴らしい調和の作品となっています。リーダー作品は大体聴いていますが、最新のこれが一番素晴らしいと思いました。楽曲やアレンジ自体も洗練されていますが、音のイメージの統合が本当に素晴らしい。わりとばらばらな音像のものを集めて、なかなかこんな綺麗に調和しないんじゃないかな。


松丸契『The Moon, Its Recollections Abstracted』

ピアノの石井彰先生目当てで聴いたのですが、素晴らしい作品でした。松丸さんはまだお若いはずですが、自身のヴィジョンを実現するために、するべきことが見えている方なのですね。ベテラン陣を見事に有機的に組み込んでいる。
誰かが具体的なことをしつつ、誰かが抽象的なことをする。一見皆が同じ方向を向いているように聞こえないかもしれないけど、resonanceがある。素晴らしいです。

Tallah『The Generation of Danger』

これも、以前なら聴かなかったと思います。聴いてみると、ニューメタルからの流れって大事だったんだなと思いました。このバンド、ハードコア寄りだけじゃなく、どことなくオーセンティックなヘヴィメタルの匂いもちょっと感じるのが面白くて、新しいバンドはなんでもミックスして自由で楽しいなーと思いますよ。
〈サンプリング感覚〉という言葉がありますが、もうそれもないですね、情報が多すぎてなんでもアクセスが簡単な時代だから、もはやサンプリング感覚ではない、情報の取捨選択と編集リテラシーが変わったんだろうなと、この作品を聴いて実感しました。
ジャズの分野だと、どうしても歴史を踏まえて、歴史を背負う気概で勉強して音楽しないといけないと思いますし、あまり〈情報の取捨選択と編集リテラシー〉なんて言いたくない人間なのですが(これがもしかして老害か)、メタル系に関しては、この傾向は良いことしかないと思っています。


Johnny Greenwood『The Power 0f the Dog』

映画のサントラ。厳しさで張り詰めているけれど、暖かい、おおらか、という絶妙さで、監督のジェーン・カンピオンのタッチと非常に合っていました。今年は『スペンサー』もやっていましたね。以前好きだった映画『ファントム・スレッド』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』もジョニー・グリーンウッド、関わる映画選びが素晴らしいのか、そういう監督がこの人を使いたいのか、とりあえず彼の関わるものは映画館の音響で観ようと思いましたね。とても癖のある楽器使いだったりしますが、それが好きです。



映画

今年は、昨年よりは映画館に行きましたが、観た本数はコロナ前に比べたら、まだ相当少ないですね。

ベスト8はこんな感じです。
最初3本は同列1位。あとは全部同じぐらい。

『Nope』
『私ときどきレッサーパンダ』
『THE FIRST SLUM DANK』

『CODA あいのうた』
『トップガン マーヴェリック』
『プレデター:ザ・プレイ』
『RRR』
『スパイダーマン ノーウェイホーム』

それぞれの感想は、月のまとめ記事に書いていますので、良かったらご覧下さい。





過去記事


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